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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
最終章
81/98

わだ……じ、じゃないっ

 うぬぬ、気持ち悪い。


 いや、この気持ちは分かってもらえないでしょうし、分かってもらおうとも思ってないんですけどね……やっぱりね、目の前に自分がもう一人居るってのは、なんとなくモゾモゾするというか、ウネウネするというか……あ、こら、あんまりロボ君に近づくんじゃないよ、そこは私の指定席だかんね、いくら私だからって許さへんぞ、エクスカリバーだぞ。


「……どうしましょう、サクラさんがお二人というのは、私としては喜ばしいことではあるのですが……片方が偽物である以上、このまま学園に向かうというのも……」


「そうですね、イムエとかいう人が何を考えてサクラ先輩に変化したのかは分かりませんが……確かあの女は吸血鬼に堕ちていましたから……まぁ、碌な事にはならないと思いますよ」


 そうなのです、当面の問題としてはね、そこなのですよ、イムエさんが私に化けてる可能性は非常に高いのです、おそらくはあのとき、私がラーズさんとイムエさんに拐われていたときに、遺伝子情報を抜き取られてしまっていたのでしょう……ロボ君の事も良く知ってるし、というか、彼女は彼に恨みがあるそうなのです、そんな事を言っていたのです、ひょっとして、狙いは私じゃなく、ロボ君なのかも知れないのです……まぁ、私の事も恨んでるだろうけど……イムエさんの恋人が死んだのは、私にも関わりあるんだし……うぅん、ビッ毛のおじさま達が来る前に、なんとか解決したいところではあるんだけどなぁ……打開策が見つかんないよ。


「ね、ろ、ロボ君、教えてくれる? 天領のいくさのこと……イムエさんは、ロボ君を狙ってるかもしれないよ、彼女はロボ君が裏切り者だって、剣姫さんと一緒に、天帝を暗殺したんだって……お父さんを殺されたって、言ってたんだ」


 なので、私は聞くことにしました、もちろんこれが解決の糸口になるなんて思ってないんだけれど、多少なりとも進展があるかもしれないよ、彼女に変化が起こればさ、何か変わるかもしれないじゃん? 試す価値はあるよ、無駄にはならないよ……それに、今となっては、最初から天帝なんて居なかったことも知ってるけれど、目の前の私が本当にイムエさんならば、当時の事を聞かせたいと思ったのです、誤解を解きたいと思ったのです……だって、そうでしょう? ロボ君は逆恨みされてるだけなのかも知れないのだから、彼氏の名誉は守ってあげたいよ、それは純粋にね、そう思うのです。


「……どうかな、今更ではあるがな……だが、サーラはサクラを消す為に、吸血鬼を造ったんだろう、心の弱い人間を利用して、力を与え、魂の汚れを通して直接に操った……いや、操ってたのはウォーレンとバランタインか? まぁ、それは良いか、ともかく、サクラを処分する為には、何をするにも強力な天領騎士が邪魔だったんだろう、アドルファスやナツヒコ……ん、そういや、これがイムエとやらの親父か、なんかそんな事を聞いた気がするな……まぁ、コイツらをアルタソに処理させた……残りは天帝が殺された事にしたら、勝手に自滅したらしい、んで、ババァはサクラを連れて逃げた……その辺り、俺は良く知らん、それから何年か、ずっとアルタソと戦ってたからな……まぁ、そんな感じだ」


「や、やっぱり、ロボ君は関係ないんだね……良かった」


 うん、そうだよね、そんなはずないもんね、確かに今更かも知れないけど、信じてくれるかは分からないけど……聞いてる? イムエさん、少なくとも、お父さんの仇はロボ君じゃないからね、あと、少し離れなさい、なんやこいつ、ピッタリくっついてんじゃないよ、許さへんぞ。


「で、でも、そういえば、何でおばあちゃんの葬式の後、すぐに私を襲わなかったんだろ? わざわざ学園島に連れてこなくても、東京で襲えば良かったのにね? ロボ君も居ないんだし」


「それは、馬鹿な吸血鬼同士の協定ですね、お互いに抜け駆けしようとして殺しあってましたから……ウォーレン先輩が取りまとめて、ここを舞台に決めたらしいですよ……それに、そもそもが、田上ヒョーコに殆どの吸血鬼は返り討ちにされちゃいましたから、ウォーレン先輩も随分と困ってたみたいでしたね」


「へ、へぇ、そうなんだ」


 うぅん、流石はおばあちゃん……私の知らない間に、そんな戦いがあったとは……そういや、働きもしないのにどうやってお金稼いでたのかと思ってたけど、まさか、吸血鬼から追い剥ぎとかしてたんじゃなかろうな?


「まぁ、こうして昔話しててもラチがあかないか……でだ、実はな、さっきから何となく違和感があるにはあるんだが……なぁ、サクラ……これは正直に答えてくれ、返答によっては……お前を殺すことになる」


『ほわっ!? 』


 うわ、またハモった、気持ち悪い……って、いやいやいや! なによ突然! なに言ってんの? わたし、本物だよ、殺しちゃダメでしょ、あ、いや、二人に言ったのか、でもやめて、そんな台詞をロボ君の口から言われるとね、なんとなく泣きそうになるからね、やめてください……ん、んで、なんでしょう? なんの質問でしょうか? 命に関わる二択を迫られるってことですか? なんだか怖いからやめて欲しい気もするけど。


「……お前、俺の事が嫌いか? 」


 ん? なにそれ、なんの質問? なんか意味あるの? というかそんなの、答えなんか分かりきってるよ、私がロボ君のこと嫌いな訳ないじゃん、そこは彼女を信じてよ、というか信じてるんでしょ? もっと自信をもってください、嫌いじゃありませんよ、むしろ好……あーあー、なんでもありません。


『……き、嫌いなわけ、ない、よ』


 う、うぐぅ、恥ずかしいこと言わせないでよ、真っ赤やぞ! なんやこの羞恥プレイ、ほらぁ、ハナコさんとシャーリーくんがグツグツしてるじゃん! すごい顔になってるからね、謝って、すぐに謝って! 私の身に危険が危ないから!


「そうか、良かった……なら、死ぬのは、お前だな」


 ぐみっ。


 ……え?


 ち、ちょっと、ロボ君? なんで、私の首を掴んでるの? やだ、冗談でしょ? なんで。


「辛島さま!? 」


 おそらく条件反射なのでしょう、私の首を鷲掴みにするロボ君に、ハナコさんが飛びかかったのですが、あえなく片手で叩かれてしまうのです……あ、ちょっと、やめ、ほんとに苦しい、ろ、ロボ君……やめ、やめて……浮いてるから、宙吊りになって、なって……く、くる、し。


「華村、邪魔をするな、こっちが偽物だ」


 ぞくり、と、私の背筋が凍りつく……だって、ロボ君の目は、この眼は、いつも私の為に、いつもは吸血鬼達に向けていた、あの深くて暗い、夜の谷底のような、洞窟の奥の更に奥のような、全くの、真っ暗で、無感情で……悪意もなく、敵意もないのだけど、ただ、真っ黒な殺意だけが満ち満ちていて……や、やだ、嘘だ、こんな。


「ち……ちがっ、ちが……ろ、ぼ、く……」


 ぐびゅっ、と私の口から、泡のようなものが吹きこぼれる、万力のように締め付けてくる彼の右手には、ますます力が加わっており、いかにも頼りない私の頸骨は、喉の裏から悲鳴を耳に届け始めるのです……なんで、こんな……ひどいよ、私じゃないのに、もしも演技ならもう充分だよ、ほんとに、ほんとに死んじゃうから! ……あ、ちくしょう、私のやつ、なんか心配そうな顔しやがって、むかつく……ほんとは、安心してるくせに、良かったとか思ってるくせに、分かるんだから、私なんだから! わたしが! わたしなのに!


「わだ……じ、じゃな、いっ」


 ぼぐん、と脳天まで響く音は、くぐもってはいたのだけれど、なにか突き抜けるような、ぴりりと痺れるような感覚だけを残して……これは、たぶん首の骨が折れた音だったのでしょう。


 なぜならば、私の意識は、そこで途切れてしまったのですから。




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