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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
最終章
79/98

ぐふぅ……おのれ、はずかしぬ……

 はい、お風呂上がりのほっこり美少女、佐倉サクラです、みなさんこんばんは。


 普段より入念に髪の毛を乾かした私は、景気付けにイチゴ牛乳を一気飲み、今はマイルームにてお布団の上に、ちょこんと正座しているのです、ほんのり上気したほっぺたは、湯上りだけが原因ではないと分かってはいるのですが、まぁ、そんな事はもう考える余裕もないというか、やけにお布団が固く感じるというか、お尻の座りが悪いというか……あ、美少女は言い過ぎました、ごめんなさい、今更ごめんなさい、でも、今夜くらいは言い張らせておくんなましというか、どうなんだろう、私、おかしくない? なんか変な匂いとかしない? ……うぐぅ、いや、もちろんね、そんな事はないんだけどね、なんというかね、普段とお布団の数が違うとね、こう、なんていうか、違和感がもりもりというか、意識してしまうというか……ま、まったく、二人とも、なに考えてるんだろうね、もう、変な気を遣わなくて良いのに、そんな事は無いって言ったのに、いや、違うよ? あり得ないからね、そんな訳ないからね、ハハハ、まさかまさかだよ? ……ねぇ? だって、ねぇ?


「サクラ、まだ起きてたのか? 明日は早いと言ったろう、ちゃんと寝ておけよ」


「うぴっ! 」


 がらり、と私ルームのドアを開け、彼が現れた。お風呂上がりのロボ君は、普段通りのパジャマに着替え、いつものように、生乾きの髪の毛を乱暴にタオルで拭っているのです、もうね、何度言ってもキチンと乾かさないんだから、困ったもんだよ、男の子って、みんなこうなのかな? 気持ち悪くないんだろうか、まったく、この様子では、身体だってちゃんと拭いてるのか知れたものではないのです、なんか猫みたいだよね、ほんと。


「……なんだ? その格好は、暑いなら室温下げるか? 」


「ふぐっ! こ、これは、その、あの、その」


「珍しいな、華村にでも借りたのか? そういや、あいつらは何処に行ったんだ、布団も敷かずに」


「ど、ど、どこ、だろ、その……わ、わかんない」


 うん、わかんない、それは本当なのです、分からないよ、なに考えてるのかわかんないのです、こんなね、スッケスケのネグリジェとかね、ヒッモヒモの下着とかね、意味わかんないからね? なんのつもりかと、私になにをさせる気なのかとね、そうね、サクラわかんないよ、なんだろね、ほんと、心臓ドコドコいってるしね、フワッフワしてきたよ、あ、あのね、あのさ……その、ろ、ロボ君や、あのね。


「……? まぁ良いか、とにかくサクラは寝てしまえ、明日は体力勝負になるだろうしな、一日中走るくらいのつもりでいろよ」


 ……ん?


「まぁ、緊張してるのは分かるがな……なに、心配するな、面倒事は全部俺に任せておけ、サクラは奴を引っ叩く事だけ考えてればいい」


 あれ? なんかちがくない? いや、ナデナデしてくれるのは嬉しいけどね、わりと好きだけどさ、なんかちがくない? ……いや、ちがくはないのか、あれ? こんな感じで良いんだっけ? あ、お布団めくってくれるの、ありがと、そうだね、上に乗っかってたら邪魔だもんね、正座してたら眠れないもんね、うん、入ります、ちゃんとあったかくするから……あ、お布団の上からお腹ポンポンされるのすき、なんかこう、安心するっていうか、ちょっと懐かしいかも、よくおばあちゃんが、こうやって。


「……こどもか! 」


 子供か! なに寝かし付けようとしてんのよ! おかしいやろ! おかしくはないかもしれないけどおかしいやろ! ロボ君いままで、そんなこと一回もしたことないよね? むしろ事あるごとに『しないのか? 今日はするか? 』とか言ってたよね? なんなのさ、突然の父性か! 離婚して離れて暮らしてた息子が母の再婚で家出してきて困惑しつつもなんとか距離を縮めようとするお父さんか!


「なんだよ、不安だったんじゃないのか」


「そうだけども! 方向性が違いますゥ! そっちじゃありません、というかもうそんな気分じゃなくなりました、えぇ、なくなりましたとも、不安とか緊張とかもうね、ぱいーんですわ、あぁもう、成層圏の彼方まで飛んでいきましたとさ! 」


 お布団とロボ君を跳ね除け、じたじたと私は暴れましたよ、えぇもうね、なんだよですよ、なんとなく分かってはいたけどね、どうせこんな事だろうとは理解してましたけれどもね、はー、もうやだ、ちょっとでも期待した自分が馬鹿みたいですわ、不安とか緊張とかは色々と無くなりましたけどね! ありがとうございます、このロボ! 朴念仁! とんちきにゃんこ!


「なんだよ、そのくらい我慢してくれよ……ここでサクラを抱いたら、死ぬのが怖くなる」


 ちょん、と優しい口付け……一気に固まってしまった私が、なんとか首だけを回転させると、そこにあったのは……なんだろう、今まで見たこともないような、ロボ君の……なんだろう、この顔は、いったいどんな感情なんだろう? ……悲しそう、とは、少し違うし……なんというか、なにか求めてる? なにを? 私に?


「……死んだら、やだ、よ」


 でも、私の口からこぼれ出たのは、この言葉でした。これは、たぶん正解では無かったのだと思う……でも、これだって紛れも無い私の本心であり、今この場面では、一番に伝えたかったことなのだから。


「死なないさ、だからそれは、帰ってからのご褒美に、してもらおうかな」


 もう一度だけキスをされ、私はロボ君の腕に抱きしめられた……やっぱり、あったかい……うん、なんていうか、すっごい安心感、すっぽりハマっちゃった、ぴったりだよ、もしこれがパズルなら、ここしか無いってくらいのピースだよ、すみっこだよ……だから、信じてるよ、この場所は私のものだもん、彼はここに帰ってくるし、私も、どこに居たって、ロボ君を見つけるよ……絶対に。


「うん、約束……今度は、私とロボ君の」


 きゅっ、と抱きしめ返し、私はロボ君に視線を向ける……もう一度だけ、おねだりしようと思ったんだけど……あれ? でも、この流れ、ひょっとしてなんか良い感じじゃない? 前言撤回されちゃわない? たぶん私、すっごい熱っぽい目をしてると思うよ、これ、前払いしちゃわない? ご褒美前倒ししちゃわない? スッケスケだよ? ヒッモヒモだし……あ、あ、ヤバいこれ、なんかヤバい、ロボ君の手、なんか下がってきてない? 上に乗っかってきてない? わたし、目、閉じてない?


「……では、お布団を敷きますわ、明日も早いのですし、ゆっくりと休んで英気を養いましょう」


「ほわぁっ! 」


「あぁ、いやらしい、良く分かりました、十二分に理解できました、最初から最後まで、サクラ先輩から誘ってましたよね? ……あと、これは言っておきますけど、せんぱいの手は、サクラ先輩が誘導してましたからね? ……自分でね、引き寄せてましたよ……いやらしい……男を誑かす、淫売……ビッチ……(スーパー)ビッチ」


「あ、それは分かりやすい」


 いやいや! 分かりやすくないからね? そんな事してないからね! というか、え? なんで? どこに居たの? ひょっとして先端呪術? もしかして……ずっと、見て、たの? うわぁ恥ずかしい……って、おかしいやろ! なんやこいつら! 至近距離か! どんだけ大胆な覗きしてんのよ、あのね、もしもだよ、万が一そうなってたらね、お前らどうするつもりだったんや、言ってみなさい!


「もちろん参加しましたわ、優先権はわたくしにありますもの」


「それを利用して、せんぱいを横取りするつもりでした」


「なんやと」


 はいおかしいね! もうやだ、この人達やだ! おウチ帰る! でもおウチはここだからお布団入る! ぐわー、もう! もう! 恥ずかしい! 死ぬ! いや生きる!


「はは、結局はいつも通りか……なら、いつも通り仲良く寝るとしよう」


「ぐふぅ……おのれ、はずかしぬ……」


 私は涙で枕を濡らしつつも、最後の夜を、川の字プラスアルファになって眠りにつくのでした。


 でも、これはこれで良かったかもね、なんていうか、私達らしいよ、世界の危機とか神さまの創世だとか、そんな現実味の無いことをグルグル考えてたって仕方ないのです。


 だって私は、最後まで笑っていたいもの。




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