本当に、気持ち悪いですよ、みんな
「へぇ、そんな事があったんですか」
「う、うん……そう、なんだけど」
はい、懐かしの我が家からこんばんわ、いや、こんにちわかな? まぁいいや、おはようよりはマシでしょう、なんとなく。はい、仲良くひとつのお布団で、ラブラブ同衾中の佐倉サクラです、ぴーすぴーす。
びすっ。
あいたっ、ぐぅ、まさかの逆エクスカリバー……く、首に響くぅ。
「おい、まだ動くなと言っただろう、頸椎が離れても知らないぞ」
……あの、だったら頭部への攻撃は控えて欲しいような気もするんだけど……まぁいいや、文句は言いません。にっこにこですわ、生きてるだけで丸儲けとは、よく言ったもんだね、また会えたんだもんね。
「どうせなら、別の頭とすげ替えてしまえば良かったと、僕も反省していますよ……割と本気で」
「なんやと」
なんやと! 許さへんぞ! いったい誰のせいだと思ってんだ、首だぞ? 首が取れたんだぞ? おばあちゃんには聞いてたけどね、未だに信じらんないよ……ちなみにシャーリーくんや、成功率は、どのくらいあったんでしょうかね?
「もちろん自信はありましたよ、実際に試した事はありませんが……そうですね、まぁ、三割くらい、ですかね」
低いなおい! そんな可能性に……いや、うぅん、わりと、高いのか? だって首チョンパするんだもんね、普通ならゼロだもんね……ううむ、そう考えると、やはり感謝すべきなのか。
「今は反省しています」
「なんやと」
おのれ、相変わらず憎まれ口を……でも、あの直後、シャーリーくんもロボ君に胸を刺されたらしく、こうして寝込んでいる訳なのですから、おあいことしましょう、起き抜けエクスカリバーは封印してあげました。
「……その割には、随分と念入りに狙いを定めてたみたいだがな」
珍しくも、揶揄うような口調でロボ君が笑顔を見せる。どうやら、あの執拗な首刺しも、シャーリー君が私の首の構造を調べる為のものだったようなのです……若干、やり過ぎのような気もしたけどね? ツンデレが過ぎるよ? ヤンデレに近いんじゃないの?
「あれは、せんぱいに伝える為のサインですよ……言っておきますが、僕としても賭けだったんですからね、せんぱいが意図を理解してくれなければ、僕だけ殺されてたんですから、できるだけ成功率を高めたにすぎません」
そう、なのでロボ君もシャーリーくんの胸を、殺さないように手刀で突いたのだとか……いや、彼女も実際に死んでたらしいけどね? もう、無茶するなぁ、でも、いくらロボ君といえど、素手でやったんだよね? 危なくない? ひょっとして、そっちのが成功率低かったんじゃないの? 怖いから聞きたくないけど。
「まぁ、おかげで時間は稼げた、ちんちくりんの儀式が始まるまでは、サクラが生きてる事に気付かれないだろう」
枕元に座るロボ君が、シャーリー君のおデコを優しく撫でる……うわ、珍しい光景だよ、シャーリーくんが照れるなんて……まぁ、本人達がどう思ってるかは知らないけれど、遺伝子的には親子って言ってもおかしくないらしいからね……うん、なんとなく、微笑ましくもあるんだけど……若干のジェラスゥィーも確かに覚えますことよ?
「で、でも、ウォーレン先輩も、気付いてたんじゃないのかなぁ……みんなと同じ技、使えるんでしょ? なんで、見逃してくれたんだろ」
なので話題を変えます、はい、やめやめ、ナデナデ中止します、もしくはこっちも撫でてください。
「あれは、もう狂ってますよ、いえ、最初からそうだったのか……サクラ先輩を殺すのが役目なのに、それをしたくない、でも、しなければならない……止める事も出来なければ、気持ちを伝える勇気も無いんです……まぁ、それで結果的には、またもや支離滅裂な行動をしただけ……とんだヘタレですよ、もう自分でも、なにをしてるのか分からなくなってるんでしょうね……哀れな男です」
「……なんだか、悲しいね」
もし、私がウォーレン先輩の立場なら、どうしただろうか? 好きな人の望みを叶えるために、私を殺しただろうか、それとも、馬鹿な事をするなと止めるだろうか、シャーリーくんのように立場を捨てて、好きにしただろうか……よく、分かんないな……分かんなくなって、身動きできなくなっちゃうかも。でも、あの時の涙は、あのお願いは、彼の本心だったと思うよ……あの子に、サーラに、少しでも長く生きて欲しいって、根っこではそう思ってる……おばぁちゃんと同じで、あの子の事が大好きなんだ……そして、彼女の創世は失敗するって思ってる……あの子も含めて、全部消えちゃう……私にも、なんとなく分かるよ……だからたぶん、サーラ自身も、それに気付いてる。
「サーラ、か……『苦』を消したサクラか、それとも『長い』苦しみか……なかなか、上手いこと言うな」
いや、上手くはないと思うよ? というかそこまで考えてないと思う……あとね、人が真面目に悩んでるのに、貴様はそんなこと考えてたんか、首が繋がったらエクスカリバーやぞ。でも、私が夢で会った子は、もう少しこう……なんというか、人間味があったはずなんだけどなぁ、あんなお人形さんみたいな感じじゃ……あれか、演技か、威厳を出す感じか、案外、見栄っ張りなのか。
「天帝なんてのは、17年前に生まれたばかりですからね、それまでは天啓を伝えるための便宜的なものだったのでしょう……僕は直接に会話した事はありません、ですが、吸血鬼や天領騎士に指示を出していたのはウォーレン先輩ですよ、というか奴の中身は西京議長のバランタインです、正確には脳の上書きですが……それも、精神的にブレてる原因でしょうね」
「あ、やめて、新情報はやめて、追いつかない」
はい、お父さん云々は正直忘れてたけどね、もういいです、私には関係なさそうだし、やめやめ……でも、脳の上書き? なんか、さり気なく怖いこと言ってんな……あのさ、ひょっとして……シャーリーくんも、そうなの? なんかウォーレン先輩は、シャーリーくんのこと、名前を分けて呼んでたけど……あ、いや、言わなくていいです、やっぱり聞かないよ、なしなし、シャーリーくんは、シャーリーくんだもんね、それこそ関係ないよ。
「別に構いませんよ……僕の方は、せんぱいと剣姫の遺伝子が喧嘩して決着が付いてないだけです……まぁ、こっちは、それなりに仲良くやってるので問題ありません」
……うーん、なんか、微妙に聞かなきゃ良かった気もするよ、はい忘れた、もう忘れたからね……でも、あれ、ちょっと待てよ?
「ね、ねぇ、シャーリーくん……シャーリーくんは、どうしたいの? どうして、私を助けてくれたの? 」
そうだよ、ウォーレン先輩は分かるけど、結局のところ、シャーリーくんは何がしたいのだろう? 私に味方してくれる理由が分かんないのだ、単純にロボ君の手伝いをしてるって訳でもなさそうだし……実際に見捨てられた事もあるし、二つの人格が仲良くしてるなら、意思の統一はできてるんでしょ? ……うーん、よくわかんないなぁ。
「だから、助けた訳じゃないです、何度も言ってるでしょう、僕は、サクラ先輩がどうなろうと関係ないんですから」
んー、この発言が、最初はともかく、今はツンデレだと理解はしてきたんだけど……そうなった過程がおかしいというか、分からないのだ……いやまて、状況を整理してみよう……最初はさ、なんとなく敵意っぽいものまで感じてたんだよね、確かに、ウォーレン先輩だって、シャーリーくんには近づくなって……今にして考えれば、あれは、私に余計な情報を与えたくないってだけでなく、彼女が私に危害を加える可能性も、充分にあったということで……色々と迷ってたウォーレン先輩としては、自分の手の届かないところでシャーリーくんに私を殺されたくない……でも、私は仲良くなりたいと思ってたし、彼女も私に接近してきてた、そして、わたしのこと、観察していた?……これは、つまり。
あれか。
「離婚して一人暮らしの大好きなお父さんに、新しい彼女ができた、それはなんとなく気に入らない、でも、大好きなお父さんの好きになった人だし、再婚もあり得る、なら、応援するべきなのかな? いやいや、だめよ、だめだめ、悪い女に騙されてるのかもしれないんだから、いや、そうに決まってる! 私がちゃんと確かめなきゃ、というかお父さんを取られたくない、やだやだ、認めないもん! どっか悪いとこ見つけて別れさせてやるんだから! 」
……ってことだね! そうに違いないよ、我ながら名推理だ! ワハハ。
「……馬鹿な割には、随分と、想像力が逞しいですよね……サクラ先輩って……なら、これも想像できますか? 自分の首が、少しづつ、千切れてゆく痛みとか」
「あ、ごめん、ごめんて! いた、いたた、ち、ちぎれるから! あ、いま、ピリッていった、ピリッていったから、やめ、やめて! 」
ぱちぃっ!
突然の弾けるような音に、まさか本当に首が千切れたかと、これはよもや、万能包帯の下から聞こえる裂断音かと、私が恐怖を覚えた瞬間、それは現れたのです。
「サぁクラっさぁあぁぁぁん!! 」
私ルームのドアを消し飛ばし、どずっしゃあっ、と布団の中に滑り込んできたのは、いまだ水着姿の猛獣ハナコ……いや、私たちは全員水着のままですがね、着替える暇なんてなかったし、なんなら血塗れのままだよ? 正直気持ち悪いよ、というか気持ち悪いからね、ハナコさん、なんか涙と鼻水でベタベタするよ、その微妙な温もりが不快感マックスだよ……でも、一人だけ、私が本当に死んじゃったと思ってたんだよね、ごめんね、気を失ってたんだってね、でも、悪いのはロボ君とシャーリーくんだよ、だから落ち着いて……いや、ほんとに落ち着いて!
「サクラさん、サクラさん、サクラさぁん! あぁ、本物ですわ、この感触、この匂い……わたくし、わたくしは! てっきり、サクラさんが……さ、さくら、さんが……うぅっ」
「ご、ごめん、ね、ハナコさん、起こしてあげたかったけど、まだ動けなくって……」
ずびずびと鼻をすすりながら、彼女は私の素肌に色々な体液を擦り付けて……ねぇ、ハナコさん? ちょっとほんとに落ち着いて、何してるの? なんで水着ほどいてんの?
「わ、わたくしは……ほんとうに、ほんとうに、怖くって……サクラさんが居ない世界などと……あぁ、間違いありませんわ、この味、サクラさん……もう、あのような思いは……後悔だけは……そうですわ、ならば、いま、ここで……」
おいよせ、なにする気だ、ナニする気だ、ちょっ、ペロペロすんな! いつもより塩味だろうけど……や、や、ちょっと! それはシャレになんないから! ろ、ロボ君! ロボ君! 助けて!
「少し頭を冷やせ、この発情ゴリラめ、サクラの首が離れたらどうする……まぁ、無事にくっ付いたら、少しくらい許してやるから」
「なんやと」
「ぐふぅ、ぐぅるるる……ほ、ほんとう、に?……」
ロボ君にマイお布団から引きずり出された華村ゴリラさんは、鼻息も荒く、頬を上気させて野獣の眼光……しかし、完全なる野生化の一歩手前にて、なんとか理性を繋ぎ止めた様子なのです……というか出てる、色々はみ出てるよ、ぼいんぼいんになってるから、早くしまいなさい、あとロボ君は手を離せ! なんか、こないだから、ちょいちょい触ってるよね? 気付いてないとでも思ってる? 許さへんからな、ハーレムルートなんか存在すると思うなよ!
「ああ、また華村にも世話になるからな……まぁ、先払いってやつだ」
「やった、はなこ、がんばる」
「こどもか」
なんか可愛いけどね、声も見た目も確かに可愛いけどね、誤魔化されないからね、許さへんぞ!おいこら、シャーリーくんも笑ってないで……え? 笑った? 対私モードで笑ったの? ……えぇ、極レアじゃん、ちょっと見せて、よく見せて……うへへ、可愛いなぁ、ウチの子になる?
「本当に、気持ち悪いですよ、みんな」
聞き慣れたはずの彼女の毒舌、しかし今回に関しては、聞き慣れない色を、その音色に含ませていたのです。
おばあちゃん、見てくれてますか、私は笑えてます。
もう少しだけ、頑張れるよ。




