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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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俺の女にならないか

 どぉん、どぉん、と重く低い太鼓の音。風雅な神楽と荘厳な歌声の聖歌は、いつのまにか終わりを迎えていたらしい、砂と瓦礫を乗り越えて、ついにその一団は、私にも視認できる位置に姿を現したのです。


「シャーリーくん、あれ、なに? 」


「テンプル騎士団ですよ、本物の、ね……というかサクラ先輩、随分と余裕がありますね、念のため言っておきますけど、本当に殺しますよ? 」


「やだの助」


 やだよ、お断りします、断固拒否の構えです……でも、シャーリーくんの性格なら、やると言ったならすぐに殺りそうな気もするんだよね、まぁ、別に安心してる訳でもないんだけど、多分、彼女は待っているのだ、そしてそれは……おそらく、あの一団なのでしょう。


 どぉん、どぉん。


「シャーリー、言っておくが、サクラに手を出すつもりなら遠慮はしない……この距離なら、間違いなく心臓を吹き飛ばせる」


「そうですね、でも、僕を殺すことは出来ても、止めること、できませんよね? そっちは間に合いませんよ、残念ながらサクラ先輩は死んじゃいます」


 うぐ、なにやら恐ろしげな会話が……確かに、私の首筋には、シャーリーくんの刀の切っ先が、ぴったりとくっついて……あたっ、おい、ちょっと刺さったぞ! 今のわざとやろ! 許さへんぞ、あたっ、こ、こら、チクチクすんな、遊んでんのか!



御成り、おなーりー


御成り、おなーりー


 現れたのは、純白の騎士服を身に纏った一団……え、ちょっと、なんとなく嫌な予感はしてたんだけど……ちょっとちょっと、いったい何人いるのよ、ひいふぅ……たくさん! なんだこれ、全員騎士なのか? 300人は居るんじゃないのこれ、うぬぬ、前列には各々が楽器を携えた楽団と、合間合間に幟を掲げた旗手、そして、横列の真ん中には、立派な手輿に乗った……なんだ、金色の仮面で目元を隠した……女の子?


 大きな手輿は井桁状に(ながえ)が取り付けられており、その一本につき三人の屈強な騎士が配置され担ぎ上げられていた。そして立派な屋根付きの輿には、これまた立派な玉座が据えられていたのですが、しかし、そこに座る少女は、その大きさに見合わぬ……なんというか、ちんちくりんだね……言っちゃ悪いけど、他が立派過ぎて、なんだか貧相に見えるよ?


 ドゴン!


 突如として私達の目前に、白い騎士服の男がひとり現れる。うわ、あそこから飛んできたのか、びっくりし……え、え、なに? こっちに来る! てか抜刀してるし、振り上げてるし! ちょっとなんで? いきなり過ぎるんですけど!


(せい)ッ! 」


 ガコッ、と何か岩でも叩いたかのような音、それと同時に、白服さんが跳ね飛ばされてゆく……あぁ、ろ、ロボ君、ありがとう! って、起き上がってきてる? 嘘、ロボ君の手刀をまともに貰ったはずなのに……ふらふらしてるけど、また剣を構えて……え、え、なんかいっぱい来た! ちょっと、不味いよ、まだ来るの? あんなのが300人も来たら、いくらなんでも勝ち目がないよ。


 どどぉん、どどん。


 一瞬にして絶望感に塗り潰されかけた私だったのですが、白服さん達は太鼓の音で動きを止めると、胸の前で剣を立て、直立不動の姿勢なのです……あ、あわわ、助かった、なんか知らんけど助かったよ……危うく漏らすとこでした、最近頑張ってたから油断してた……いや待てよ? 今ここで漏らしてしまえば、さすがのシャーリーくんも離れざるを得ないのでは……うぐぐ、どうする、命を取るか、それとも花の女子高生として、何か大切なものを守るか……あ、あだだ、刺すな刺すな! ごめ、ごめんて!


「サクラ先輩、ちょっと、本気で黙っててくれますか……今のは、先輩の心を読まれたんですよ? どうせまた、何か失礼な事でも考えてたんでしょう」


「なんやと」


 なんやと失礼な! いくら私が内弁慶だからって、初対面の人に対して……ほんとごめんなさい、というか心を読まれたの? え、もしかして、ちんちくりんとか思ったから? うわ、なんて心のせま……うががっ、か、考えるな、違う違う! 美少女美少女、すっごく可愛いよ! というか、本当に美少女っぽい気配はするんだよね……巫女装束っぽい紅白の着物、その上にちょこんと乗っかる小さなお顔は、金の仮面で半分ほど隠れているのだけれど、その下からのぞく細い顎も、桜色の薄い唇も、ポニテにまとめた緑の黒髪も、そのパーツひとつひとつが、まるで美少女オーラを周囲に振り撒いてるかのような煌めきなんだからね、ちんち……いや、小柄な細い肢体は、まだ歳若いせいなのだろうし、将来はぼいんぼいんのはずだよ、間違いないよ、うん、きっとそう。


「……サクラ先輩……いや……まぁ、良いんですけどね」


 どうやら巫女さんの機嫌は直ったものか、どぉん、どぉん、と再びに太鼓が鳴らされる、その音に合わせ、手輿の後ろから紅白の騎士が二人……あ、赤い方は剣姫さんか……わざわざ、あそこまで戻ったの? このために? ……うわぁ、なんか面倒くさそうな上司だね、自分の見栄と都合で下っ端をこき使うタイプのブラック社長だよ……いや、立派なお考えですよ?上に立つものはそのくらいじゃないとね! いよっ、大社長! セーフセーフ……んで、白い方は誰……ん? えっ? ちょっと、まさか。


 どぉん、どぉん。



『真なるはただひとり! 』


『真を護るもただひとり! 』


『刮目せよ、刮目せよ、音に聞こえし(つわもの)は』


 太鼓に合わせた大合唱、300人の騎士達は、手にした剣を規則正しく上下させ、前に進む白騎士を褒め称えるのです……真顔にて。


「しぃんなる! 天領騎士ぃ! 」


 白銀の鎧を身にまとい、銀の長柄斧槍(ハルベルト)を携えたその騎士は、癖のある金色の前髪を、ファッサァッとかき上げながら、そのまま右手を大袈裟に掲げてみせる。


白の一番(ワッセルバーン)!!』


 締めくくりは、一際大きな声でした……うわぁ……完全にパワハラだよ……制服の色、黒に変えた方がいいんじゃないかなぁ……飲み会で社長の歌に手拍子してる従業員じゃん、目が死んでるじゃん、なんか可愛そうだから、もうやめたげて。


「やぁやぁ、思ったより死ななかったね、皆んな、やっぱり優秀だなぁ……余計なお節介をしたのは、シャーリーかな? それともマコっちゃん? あんまり、お兄さんに迷惑かけないで欲しいんだけどなぁ……まぁ良いか……おっと、勝手な真似した馬鹿は要らないからな」


「あっ! 」


 いつのまに前進してきたものか、その白騎士が、ぐるん、と長柄斧槍を回転させると、先ほど私達に襲いかかってきた白服さん達が、10人ばかり飛び散ってしまった……な、なんで、その人たち、味方じゃないの? なにやってんのよ。


「ウォーレン先輩……今回の冗談は、流石に笑えませんわ」


「はは、それこそ冗談だ……華村はいつも、笑わないだろ? 」


 更に進み出るなんとか先輩を遮る形で、ハナコさんも前に出る。背中しか見えないけど、たぶん凄い顔してるんだろうなぁ……ハナコさん、元々なんとか先輩のこと、あんまり好きじゃなかったっぽいもんなぁ……あぁ、でも、そう考えてみると、最初から、この人が色々と手を回してたのかなぁ……なんとなく腑に落ちたような気もするよ……たぶん、イムエさん達も、丹波やダゲスも、ひょっとしたら、今までのぜんぶが、そうだったのかも。


「まて華村、そいつは何か話があるんだろう、最期の言葉は聞いてやるべきだ」


「うはは、辛島も相変わらずだ……まぁね、話はあるんだよ、お兄さんからの提案というかね、あいや、お願いと言うべきかな? 」


 うぅん? お願いですか、でも、私としては、ちっとも信用ならないというか、どうせ碌な話じゃないんだろうなというか、名前が思い出せないというか。


「何がお兄さんですか、3歳のくせに……虫酸が走ります、良い機会だから言いますけど、お前は、僕の殺したいランキング2位ですからね」


「つれないねぇ、同じ変性騎士じゃないの、この世でたった3人のきょうだいなんだから、お兄さんとしては、仲良くしたいんだけどなぁ……」


 ん? 兄妹なの? そういやなんとなく似てるなー、とか思った事もあるけど……というかシャーリーくん、ランキング1位は誰なんですかね? 私、気になります。あ、でも、仲良くするのは良い事ですからね、ここは穏便に済ませたいよ? ね、シャーリーくん、ビキビキしないで、刺さってるからね、痛いからね。


「まぁ、とりあえずはお話しようか、皆んな落ち着いてさ……慌てる事はないんだから、ね、サクラちゃん、お兄さんの提案はね、別に悪い話じゃないと思うんだよ」


 う、うん、まぁ、聞くくらいなら構わないよ? 誰も困らないしね、むしろ今の状況、時間が稼げるなら大歓迎かもしれないよ、ロボ君とハナコさんなら、少しの間にも回復できるもん、なにしろ敵の方が圧倒的に有利なのだ、優勢な方が時間稼ぎする理由も無いし……よし、聞きましょう、どんとこい。


 視線だけでロボ君とハナコさんに確認してみたのだけど、やはり二人も同意見のようです。私はシャーリーくんの切っ先から、さり気なく距離をとって……あ、ついてきた、そして突いてきた! ちくしょう、完全に遊んでるだろ! 頷くくらい良いじゃん、これじゃ動けないよ、てか跡が残ったらどうすんのさ、消えないキスマークだよ、離婚事由だよ、責任取ってよ、貴女の子だよ……あ、あたた、ごめん、ごめんて。


「あっはは、やっぱりサクラちゃんはいいなぁ……うん、だから、お兄さんはね、これが一番の解決法だと、思うんだよね」


「な、なん、ですか? 私に、どうしろって」


 にこにこと、上辺だけは友好的な、そのイケメン笑顔(スマイル)……でもまぁ、やっぱり超絶美形だよね、このなんとか先輩は……こんなの向けられたら、大抵の子は一発退場だよ、レッドカードのメロメロですわ、耐えられないよね……私だってロボ君と会ってなきゃ痛ったぁっ! ふか、深い、ちょっと、シャレになんないから! 過去最大深度だから!


「こぉら、話が進まないだろ、マコっちゃんはちょっと、嫉妬深すぎるなぁ……そんなに辛島が良いのかい? 業も深いねぇ……」


 二本の指で、ぴっ、とシャーリーくんの切っ先を摘み、なんとか先輩は呆れたように……いや、そうじゃないな、もっと複雑な表情……なんだろう、嫌悪感? でも、どこか羨ましそうな……なんだろう。


「まぁ、いいさ……うぅん、このメンバーで話してると、どうにも遠回りになっちゃうねぇ……でも、人生ってそんなもんか……ねぇ、サクラちゃん、それでさ、これが本題なんだけど」


 じっと見つめてくるなんとか先輩の碧眼は、とても深い色を見せており、先程までの軽薄さは微塵も感じられないのです。だから、これは至って真面目な、本気の言葉だと、彼の本心だと、私にも理解できたのです。


「俺の女にならないか」


 ……ん?


 ……んん??


 ……ちょっとサクラ、何言ってるのか、わかんない。


 わかんないよ?




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