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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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……で、ございますわ

「し、シャーくん、ど、どうすんの? どうすればいいの、シャーくん、どこまでなの? 」


 依然としてアシナガさんに肩車されている私は、彼女の頭にお腹を押し付け、前屈みにて、これからの行き先を問いかけるのです。念の為に爪先は隠してるよ、アシナガさんの背中に回して完全防御の構えですわ。


「……色々と考えてみたんですけど、華村先輩に、サクラ先輩を自由にできる権利をあげようと思います」


「それだけはやめてください」


 お願いします、他の事ならなんでもしますから……というか、えろいことはダメだっつったやろ! ハナコさんの好きにさせたら、私の貞操は保証できないからね? 間違いなくね? 危険が危ないからね、許さへんぞ、私、お嫁には綺麗な身体で行きたいからね? そこんとこ理解してね。


 しかし、何事が起きるというのだろう、今も背後では絶賛孤軍奮闘中のハナコさん、頼みのビッ毛おじさまと栗原さんも、手練れの騎士達に足止めされている様子……あれが一席二席とかいう騎士だろうか……なんにしろ数が違い過ぎるよ、お付きの二人も姿が見えない、ひょっとして、もう倒されてしまったのか……うぐぐ、まずい気がする、いくら怪獣ハナコさんといえど、ああまで囲まれてしまっては、そう長くも持たないよ。


「来ますよ、僕の合図で走ってください、真っ直ぐで良いですから、全力で……ちなみに、僕から離れたら死にますからね? 」


 なにそれ怖い。でも、何が来るんだろう、ハナコさんはどうするつもりなんだろう? そういや、西部座なんとかいう剣がどうとか言ってたけれど、その剣を使うのだろうか? それは、この窮地をひっくり返せるほどのものなのだろうか?


「……走って」


 私が再び後方を確認する為に、身体を捻ると同時、シャーリーくんのクリアボイスが響くのです。戦場の喧騒の中にあっても搔き消える事ない、澄みきった、しかし力強く響く、凛とした声……あ、いま気付いたけど、なんとなく彼女の声ってロボ君に似てるかも……もちろん全然違うんだけど、なんというか、根っこから感じる印象というか、雰囲気というか。


「サクラさま、加速します、掴まって! 」


 アシナガさんが全力で走り始め、ぐいん、と私は仰け反った。え、まだ掴まってない、というか掴めません、ぐぬぅ、腹筋、腹筋を、ぷよぷよのお腹に眠る私の腹筋よ! 頑張れ……はい、無理でした。


 一級戦者たるアシナガさん、その余りの加速には抗うことも出来ず、あっという間に逆さ吊りされてしまいました。そして、少しは運動も頑張ろうと心に決めた、私の目に飛び込んで来たのは……右手を天に高く掲げ、銀色に輝く、二本目の剣をキャッチしたハナコさんの姿。


「あっ! 危なっ! 」


 しかし、それを見逃す敵ではなかったのです、コンマ1秒にも満たない抜刀ではあるのですが、乱戦のさなか、至近で悠長に手を挙げるなど、殺してくれと言っているようなものなのです。


 どすどす、と彼女の全身に、敵の刃が突き刺さる……う、嘘、ハナコさん……ちょっと、いくらハナコさんでも、これは……やだ、そんなのやだ! は、ハナコさん!


「遅いです! 鞘が来ますよ、もっと突っ込んで! 」


 珍しく声を荒げたシャーリー君が、目の前に現れたテンプル騎士を跳ね飛ばす、いや、逆さ吊りにされているので正面は見えないのだけれど、なんだか不自然に飛んで行く騎士さんが、視界の端に見えたから……というか鞘ってなに? ハナコさん、大丈夫なの? あれも計算づくなの? ねぇちょっと。


 私が再びハナコさんに意識を戻した時、彼女の手には、なぜだか巨大なアイスバーが握られていました……いや、アイスバーじゃないんだろうけどね、何というか、他に例えが見つからないよ。3メートルはありそうな、クリーム色の、分厚くて四角い、箱? さっきの銀剣に突き刺さって……あ、これが鞘なのか、なるほどって、うわ、うわわわわ!


「うわっ! 」


 次の瞬間、ごずん、と地面が『跳ねた』それと同時、眼前に広がる砂の壁。きぃん、と今更のように鼓膜が痛み、一瞬にして周囲の温度が上昇する……そりゃそうだよ、よく考えたらあのアイスバー、一体何百キロあんのよ、あんなものを受け止めたのか、あれも衛星軌道から撃ち込まれたんでしょ? すごい、ハナコさんすごい、ゴリラすごい。


「うおっ! なんだ、何事だ? さては剣姫の仕業か! 」


 突然の地揺れに、ダゲス達も戸惑っているのでしょう、声が上ずってるね、見えないのが残念だよ、いい気味だ。


「邪魔です、どいてくださいゲス野郎」


「ふんにゅぅっ!?」


 ぽいーん、と視界の端をダゲスの豪華なブーツが横切っていく、ワハハ、いい気味だ、というか、次から次へと打ち上がってんな、テンプル花火団に改名しなさい、夏だけ観に行ってあげるから。


 ハロっくんとダゲス達の真ん中を切り裂いて、私達はその只中に突入しました、一時はどうなる事かと心配したけれど、何とか乗り切れそうです……でも、案外シャーリーくんも心配性だよね、確かにハナコさんの抜刀は凄かったけど、ここまで危険を冒して避ける必要があったの? ……まったく、私の事が好きなのは分かったけど、ちょっと大袈裟だよ? これ、余計に危なくなるんじゃない? 敵のど真ん中だよ? まぁ、気持ちは嬉しいけどね、今の私は、ハナコさんとロボ君の方が心配だよって……いた、いだだだだっ! ごめんなさい! 千切れるから! まじでちぎれるから! 鼻フックはやめて! てか、わざわざアシナガさんの後ろに戻ってきたのか、そうまでして制裁したかったというのか、シャーリー、恐ろしい子!


「馬鹿なんですから、黙ってろと言ったでしょう、あと息を止めろ! 肺が焼けるぞ! 」


 しゅわん、と周囲から音が消えた。


 なんだ、今度はなんだ? なんか、なんかすごい嫌な予感が……シャーリーくんという、可愛らしい人形のような悪魔に、鼻フックからのアイアンクローで顔面を押さえられた私は、彼女の指の隙間から、しかしはっきりと、それを見たのです。



「消ィえてぇぇぇっ! 」


 大きく足を開いたハナコさんは、全身に突き刺さった幾本もの剣と、それを握る騎士ごとに、巨大なアイスバーを振り回し。


「無ァくゥ! なれぇぇぇっ! 」


 いま、この瞬間、世界には彼女だけしか居ないのかと、錯覚してしまいそうな大音声。あれ程の大質量剣を、眼に見えぬ速度で一回転……錯覚だとは分かっていても、周囲から音が消えたのにも、納得してしまいそうな程に、大気は圧縮され、あるいは膨張し。



「……で、ございますわ」


 その言葉を待っていたかのような大爆発は、ちんちくりんな私の意識を持っていくのに、充分すぎるほどの威力だったのです。


 たぶん、これ、やり過ぎだと思うよ……ハナコさん……さようなら。




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