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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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もう、手加減は、致しませんわ

「ときに黒猫どの、それがしを覚えておいでかな? 」


 さわりだけの打ち合わせを終えると、私たちはアシナガ屋台の大型鉄板に集合し、我先にと山盛りの海鮮焼きそばを奪い合っていたのです。美味しいね、これ、美味しいよ……でも最初にね、でっかい洗濯機から巨大なタコが出てきたときにはね、どうしようかと思ったのだけれどね……ハナコさんってば、随分と原始調理の勉強をしてたみたいでさ、これが古式ゆかしい作法なのだそうですよ? へんなの、まぁ、手洗いするにはちょっと大き過ぎるけどね、この合成タコさんは……私の手首より太いんじゃないの? この足ってば、もぐもぐ。


「サクラよ……前から言おうと思ってたんだが、お前はもう少し、落ち着いて飯を食えないのか? ハムスターじゃあるまいに目一杯頬張りやがって、まるで餓鬼の食い方だ」


「ふぁんふぁほ」


 なんやと、まさか、私がそんなはしたない真似を? ハハ、まさかね、そんな事は……ない、と思うんだけど……ちょっと待って、きちんと反論するから、とりあえずこのタコさんだけは飲み込ませて。


「それも、サクラさんの可愛らしいところですわ、こんなに美味しそうに、うふふ、見てるこちらまで幸せになってしまいますもの……ですが、確かに少しばかり子供っぽいかも知れませんわね」


「華村は華村で、サクラに甘すぎると言ってるだろう、教育に悪いからすっこんでろよ」


 夫婦か! ……いやいや、今のはキャンセルします、突っ込みキャンセルしますよ! 立ったらまずいからね、おのれ、なんか最近妙に仲良しなんだから……まぁ、仲が良いのは良いことなんだけどさ、なんというか、腑に落ちないよ。


「ビッケ=パイパンですぞ」


 うぬ、しかしハナコさんにまで、そんな事を思われていたとは……そう言えば以前に、なんとか先輩にも言われたよう気もするな……そういえば彼はご飯も食べずにドコ行ったんだろう……まあ、どうせいかがわしいところだろうけどね!……んで、シャーリーくんはどう思う?


「なんで僕の意見を求めるんですか、でも、まぁサクラ先輩は間違いなく子供ですね……むしろ、先輩のどこに大人要素を見出せば良いんですか? あぁ、性欲だけは人並み以上にありそうですよね、ですが、どうでしょう、それは大人子供以前に、生まれ持った本人の資質ですから……」


「んぐっ、う、うるさいよ、私が子供っぽいのは認めるけどね、でも、みんながね、食べるスピード早すぎるのも悪いんだよ? うかうかしてたら私の分が、あっという間になくなっちゃうよ」


「パイパンですぞ」


 そうだよ、いつもいつも、ロボ君とハナコさんが、ご飯の奪い合いしてるから……いや、私の分は、しっかりと確保してるな、すんまへん、でも、ここはそう言った理由で乗り切りろう、明日からはさり気なく反省し、淑女の作法でね? 優美で典雅にね? 食べようね。


「……俺が言ってるのは『餓鬼』だ、飢えた鬼の方だぞ? 」


 そっちかーい! なんだ、地獄絵図か! いやいや、どんだけ卑しい食べ方してんのよ私は、そんな事ないからね! そこは強く否定するからね、小動物的可愛らしさやぞ、わかれよ、似ても似つかないわ、共通点といえばお腹がポッコリってやかましいよ!


「実際は上下ロマンスグレーですぞ」


「やかましいよ! 」


 ホントにやかましいよ! なんやこいつ、口を開けばセクハラか、おい、どうなってんのさテンプル騎士団は、責任者出て来なさい! ……あ、この人ですか、ホントにどうしようもないな!


「ぬはは、これは失敬……しかし、久方振りに顔を合わせた好敵手、昔語りをしたとてバチは当たらぬと思った次第である……どうかな、黒猫どの」


 いや、昔語りって、おじさまとロボ君は……あ、そうか、さては天領で戦ったことあるんだね……うぅん、でも、そっか、こんな歳上の人と知り合いだなんて、不思議なかんじ……少なくとも10年は前の事だよね? なんか、ちょっとやだな……せっかく考えないようにしてたのに、ロボ君との距離、感じちゃうよ。


「ん? いや、知らないな……誰だよおっさん」


 ……知らないのかよ! なんだよ、思わずズッコケちゃったよ恥ずかしい、まぁロボ君はそもそも他人の顔とか名前とか、あんまり覚えないタイプの人間だもんね、仕方ないよ、だからビッ毛のおじさまも、あんまり気にしちゃダメだよ?


 私はそう思い、傾いた姿勢からロマンスグレーのおじさまを見上げたのですが……そこにあったのは、満面の笑みを浮かべる……え、なんだろ、これ? なんか、なんかすごく嫌な感じが……いま、一瞬だけ、すっごくドロっとした息が漏れたような。


「むはは、これは失敬、それがしの自意識過剰であったか……確かに、剣を合わせたのは数度のみ、それも剣姫を相手取りながらであるからして……ふむ、末席のテンプル騎士など、その目には入らなかったであろうなぁ」


「えぇー、ビッケ団長、辛島ジュートと戦った事あるんですかー? うそだー、なんで教えてくんないかなぁ……ねね、どうでした? どうだったんですか、勝ったの? 負けたの? 」


 こ、こら、栗原さんや、それはひどいでしょ、そこは空気読もうね? なんか今の感じだと、ロボ君には相手にもされてなかったっぽいからね? 傷口に塩を塗るのはやめてあげたほうがね、かちかちのタヌキじゃないんだからさ、一応、上司なんでしょ? 知らないよ? 左遷されちゃうよ?


「……戦場にて三度相対し、家宝を含め七本の長級刀と、腕を四本、足を二本奪われた、はらわたを覗いたこと三度、左眼は今も高輝度義眼よ……ぬはは、まぁ、完敗であるな」


「へぇー……そんだけ無様にやられちゃって、なんで腹を切らなかったんですか? 」


 く、栗原ァ! 空気読めって言ったやろ! 言ってないけども! ほら、お付きの人が二人ともピキピキしてるじゃん、知らないよ、同僚なんでしょ? 女同士のいざこざは根が深いと聞くよ、お茶の代わりに豚骨スープ出されても知らないからね。


「栗原さん、そこまでにしておきなさい……軽々しい切腹で取れる責任など、たかが知れておりますわ……いえ、むしろそれは逃げの心、過ちと向き合う勇気の無い者が選ぶ道……わたくしも、今はそう思います」


「……ハナコさん……う、うん、私もそう思うよ」


 えらいよハナコさん、成長したんだね……もう腹軽女なんて言わせないよ、なんだろう、こう、娘の成長を見守る、お母さんのごとき気持ちになったよ、ほっこりするよ。


「ふぅん? まぁ、良いけどさー、怪獣王女が言っても説得力ないよね、それ……せめて、一度でも私に勝ってから言わないとね? 御前試合の恥は、まだ雪いでないよねー? 」


 もふふ、と笑う栗原さんに、相対するハナコさんはしかし、なんとも落ち着いたものだったのです。彼女は上品に頬張った焼きそばを、ちゅるんと飲み込み、ん? ねぇ、さっきから、ちゃんと噛んでる? なんか、あっという間になくなってるんだけれども。


「御心配なさらず……わたくしも日々成長しておりますわ、ですが、そうですね、これは最近になって学んだ事なのですが……」


 うん、なんだろう、なんかピリピリしてるね、でもね、これ一応さ、親睦会って建前だったよね? なんか険悪な雰囲気になってきてない? 主に栗原さんのせいだけどね……ねぇ、これ大丈夫? ちょっと心配になってきたから、ロボ君もなんとか言ってやって……あれ、どこ行った? ……バーベキュー始めてんじゃないよ! あと近いぞ、またか、あとで説教だかんね!


「もう、手加減は、致しませんわ」


 ちょっとこれ、ホントに大丈夫なのでしょうか。


 もうやだ、私もお肉焼く!






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