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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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そこまで許した覚えはありませんわっ!!

「西京議会の現議長、バランタイン=ジルオール=ロードスリザリオ……先の戦を主導した人物であり、天帝を廃したのちに議会の承認を受け、昨年より『地の王』を名乗っておりますわ……もっとも、中京の残党を完全に駆逐するまでは、議会を閉じる事も出来ないでしょうけれど……冷徹な実務家、といった印象を受けておりましたが、まさか、サクラさんのお父上だとは……ですが、成る程、ならば情報の操作は思いのままでしょうね、辛島さま、どう思われますか」


「そいつの事は知らないが、サクラに父親は居ない、母親もな」


 我が家の夕食は、ネギマグロ串となっておりました。合成擬似回遊マグロを一尾丸ごと購入し、リビングのテーブルに内蔵された永久木炭で、ひたすらにチリチリと焼き続けていたのです。


「そうなんだ」


 これは、今も上の空の私が現実から逃避し、単純作業に没頭したいが為のメニューであったのですが、黙々と作り上げた塩とタレ、二種類のネギマグロさんは、二匹の怪獣達の胃袋を充分に満足させていたようなのです。


「……サクラさん」


 なんとも反応の薄い私に、あれこれ喋りかけていたハナコさんは、ずっと心配そうな表情を見せていたのです、だけど今の私には、それについて気を回す余裕もないのです、ごめんねハナコさん……だって、ちょっと過負荷にすぎるというか、脳みそを休憩させないと、表情筋も動かせないというか。先程から、シューシューと排煙を吸い込み続けてくれているもこたんも、私を気遣っているものか、モコモコのお尻をこちらに擦り付けてくるのです。


「どうするサクラ、このまま聞きたいか? 明日にするか」


 こちらの方は、相変わらずなのです、いや、一応確認をとってくるあたり、私の頭に限界が近い事だけは、分かっているのかな? でもさ、私が何について悩んでるかなんて、全く気づいてないよね……まぁ、無理もないよ、私にだって、よく分からないんだもの。


「……ねぇ、ロボ君、前に、言ったよね」


「ん、なんだ? 」


 なのでこれは、私の意思では無いのです、この口から溢れた言葉は、私の心の割れ目から、痛んだパッキンの隙間から、染み出すように、気付かぬ内に外側に出てきてしまった……ずっと隠していた、私の本音。


「……しあわせに、してくれるって、言ったよね」


「ああ、言ったな、というか今も、そのつもりだが」


「……私は、みんなが居ないと、幸せじゃないよ」


 名残惜しそうに、最後の串を咥えたまま、ロボ君が片方だけ、訝しげに眉を上げる……あ、やっぱりこれ、分かってない顔だ。


「それは『みんな』の内容によるが……お前の敵は俺の敵だ、誰であろうと、敵ならば潰すしかない」


「違う! ちがうよ、そうじゃない! 」


 ついに感情の堰が切れたのか、ぱぁん、と私はテーブルを叩いた。突然の音に、毛を逆立ててお尻を震わせたもこたんが、ハナコさんの陰に避難すると、彼女に抱きしめられながら、頭だけを、その腕の隙間からこちらに向けている。


「ロボ君……あのさ、その『みんな』の中に、ロボ君は居るの? 居ないでしょ? いつもそうだもん、自分のこと、後回しにしてるよ、全然考えてないじゃない……でも、私は居るよ! ロボ君が真ん中に居るよ! 居てくれるの? いつまで? 居てよ! 最後までだよ……守って、くれるんでしょ、やだよ、こんなの、もう考えたくない」


 あ、うわ、泣いちゃった……というか、私、何言ってんだろう。なんで今、こんな事言ってんだろう、話の脈絡、全然無いじゃん、テンパってるなぁ。


 あー、そっか……ずっと、そこが引っかかってたのか、今までずっと、そこばっかり気にしてたんだね。なんだ、お父さんとかお母さんとか、実はどうでもいいんだな……まぁ、おばあちゃんと違って、顔も知らない人だしね、私の中には居ない人だよね。


「……お前を守ると決めたのは俺だ、幸せにするとも俺が決めた……サクラ、何故だか分かるか? 」


 ゆっくりと立ち上がったロボ君が、私の隣にしゃがみ込む。涙をぬぐってくれるような、気の利いた人じゃないのは知ってるけど、それでも、涙を止めてくれるのは知ってるから、だから、少し期待したんだ。


「産まれた頃から、お前の話は聞いていた、お前のバァさんからな、守ってやれとも約束させられた……だがな、そんな事、俺の知ったことか……俺に出来るのは、敵を倒す事だけだ、その為に造られたし、事実、これまでそうしてきた」


「じゃあ、なんで……なんで決めたの? 」


 同情? 私の境遇に? もう分かってきたけれど、たぶん私は、いらない子だ、それも、不要なだけじゃなく、生きてるだけで、色んな迷惑のかかる……いや、ひょっとすると、私の存在そのものが。


「実はな、俺にも、それが分からない」


「ふぇ? 」


 なんだか、少し自嘲気味な笑顔を浮かべたロボ君に、私の返した表情は、随分と間抜けなものだったと思うのです。脳みそも上手く回転してないし、彼の答えも意味不明だし、私はただ、なんとなく、何故ハナコさんは、くりっと顔をそむけたんだろう? なんて事を、なんとなく考えていたのですが。


「むぐっ!?」


 彼のキスで、目から火花が散った。


「……だから、これが好きって事なんだろう……そうだな、いま気付いた」


 完全に思考回路が短絡(ショート)した私には、何も聞こえませんでした。ただ、完全に私の落ちる音が聞こえたのと、何か温かいような、それでいて泣きたくなるような、これが幸せというのなら、信じてしまいそうな充足感と安心感に、全てを支配されてしまったかのような。


「だから安心しろ、もう離さないと言ったろう、それは、最後までって事だ……分かるか? 」


「う、わた、たわ、しも……」


 もう、言葉も続けられないよ、本当は応えたいけど、言いたいけど、駄目な私は、ただ、涙と嗚咽を漏らしながら、彼に回した両腕に力を込めるしかできないのです、うう、これで、伝わったかなぁ……伝わってるよね? だって、私の頭を撫でるロボ君の手は、とても温かくて、その声は、とっても優しくって。




「……よし、今日するか」


「そこまで許した覚えはありませんわっ!!」


 すぱーん。


 ……はっ、なんだ今の……わたし、なに考えてた? 危なかった、いまの、いまの危なかったよ、ハナコさんが居なかったら、なんか色々と失ってたような気がするよ! とりあえずありがとうハナコさん、居てくれて助かったよ。


 ほんとだよ? 全然、残念とか思ってないよ……いや、うん、そうだよ。


 すこしだけ、だよ。


 



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