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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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ピンクか

「まぁ、そこまでは分かった、個人的には気に入らないが、サクラの息抜きには丁度良いだろうしな……ならば水着が必要なのも理解できるし、華村が用意したものは着たくないってのも分かる話さ、新調するのに付き合うのも、彼氏なら当然だろう……ただな」


 はい、すんまへん。


「なんでコイツが居るんだ」


 えろうすんまへん、でも、これは私のせいじゃないよ、というか誰だっけこの先輩。


「サクラちゃんが水着になると聞いて、極力いやらしい奴にさり気なく自然に誘導してやろうかと考えた訳なんだよね、これがな」


「せんぱぁい、これ、ここですよ、コレ、ここ引っ張ったらほどけますからね、どうですか? 認証した指じゃないと外れないんですって、2人まで登録できますよ? まだ空いてますけどぉ……どうしよっかな、したいですか? しませんか? つれなーい」


 ああもぅ! ツッコミが足りないよ! 来週は海に行こうってのに、今からヒトデ不足とは思わなんだよ! ちょっと海岸行ってきま……ハナコ! その紐を捨てろ! なんやそれ、どんな水着だ、ただのV型……あ、それがスリングショット? ……着ねーよ! 戻してこい! 誰が着るかそんなもん、ヌーディストビーチに現れた最後の抵抗者か!


 シャーリー君を誘う事に成功した私は、ロボ君とハナコさんも連れて、早速に放課後のショッピングを楽しむべく、意気揚々と学園島中央雑貨店にやってきたのですが……何故だかそこに待ち構えていたのは、この金髪のスーパーイケメン先輩……えっと、名前なんだっけかな、うお、ウォー……まぁいいや、どうでも。


「サクラちゃんがいやらしいのは知ってるけどさぁ、後で辛くなるだろうから、露出度での勝負はしない方が良いと思うんだよな」


「なんやと」


「そうですね、先輩の幼児体形を武器にするなら、むしろ学園指定の水着で良いんじゃないですか、名札でも付けて」


「なんやと」


 おいふざけんな、私にだってな、一応ある事はあるんだぞ、遊びに行くんだからちゃんと買いますゥ、まぁ、恥ずかしいから大人しめの水着にはするけどね、あんまりセクシーなやつだとね、ロボ君に襲われちゃう可能性も無くはないからね。


 ワハハ。


「……その紐は華村が着れば良いんじゃないのか、もったいな」


「そぉい! 」


 すぱん、と私の必殺技(えくすかりばー)を受け、ロボ君が舌を噛む。なんやこいつ、またエロスか! 無表情で誘導してんじゃないよ、このムッツリガッパ! 尻子玉抜いてやんぞ。


「いえ、私はサクラさんとお揃いの水着にしようかと……」


「サクラ、その紐も捨てたものじゃないぞ? 案外お前に似合うかもな」


「そうだね、サクラちゃんの魅力はスリングショットによって最大限に発揮されると、お兄さんもそう思うよ? 」


 よぉし分かった、お前らそこに並べ、順番に殴ったるわ! ……あとハナコさん、お願いだから、おそろの水着はやめてください、流石にかわいそうです、私がな! ……いくらなんでも、このビッグバンボディと比較されたらね、あたしゃ劣等感で沖まで流されちゃうからね、あ、でもちょっと見てみたい気もするから、ハナコさんはスリングショットでもいいよ?


「そうですか……残念ですわ……あ、でしたら、サクラさんにはこちらの水着を……お揃いでないなら、サクラさんの柔肌を、このようなけだもの達に晒す必要もありませんし」


 うん、ハナコさんや、それはね、水着じゃなくて硬式潜水服と呼ぶんだよ? いったい何のつもりか、というかなんでそんなもん陳列してんだよ、何でもありだな学園島よ。


「サクラちゃん、良いのがあったよ」


 はい、名も無き先輩よ、期待してないけど見せてごらんよ、なんとなく予想はつくけどね、ロクなもんじゃないだろうけどさ……うん、やっぱりね、絆創膏も水着って言わないよね、マジでしばくぞ、どっから持ってき……え、これ水着? 水着なの? 表記がスイムウェアなんだけど……おぉぅ、なんだこれ、西京の人間は未来に生きてんのか。


「もう全裸でいいじゃないですか、どうせサクラ先輩なんだし」


「なんやと」


 なんやと、極論はよせ、あと意味が分からないからね、もういいです、私ひとりで探します、ついてこないでくださいね。



 頼りない仲間達に背を向けて、てちてちと私は陳列棚の奥に移動するのです。しかし、うーん……いざ水着を選ぶとなると、迷うなぁ……自分で選ぶ事なんてなかったしね、東京にいた頃は、ばーちゃんのお下がりビキニだったし……スカスカの……ちくしょう。でもまぁ、私みたいなちんちくりんが背伸びしたって滑稽なだけだしね、キャミとパンツのタンキニさんでいっか……ふんだ、どうせ見てくれる人もいないんだし、いいもん。


「まてよサクラ、俺はこっちが好みだ」


 ウシさん柄の水着に伸ばした私の手首が、背後からガッと掴まれる。うわ、なんだ、ロボ君? ちょっとビックリさせないでよ……ん、なに? 何それ……もしかして水着?


「なんだよ、彼女の水着なら彼氏が選ぶものだろう……そう聞いてたが」


 誰にだよ……いや、なんか分かってきたよ、これ、多分ばーちゃんの入れ知恵だな? ……まったく、変なことばっかり教えてたんだろうなぁ……ふふっ。


「おい、笑うなよ、可愛いサクラにはピンクが似合うと思っただけだ」


「う、ううん、笑ってない、よ……その、嬉しかっただけ……あ、ありがと、ね」


 うん、それはね、嘘じゃないよ、なんていうか、ちゃんと見てくれてるんだなって……でも、ちょっと意外だよ、ロボ君の選んだ水着は、ピンク色の可愛いホルターネック。ビキニだけどフリル付きで、私みたいなちんちくりんでも、なんとなく安心感のあるタイプだ……うぅん、これは、たまたまなのか、それとも案外ファッションセンスのある男なのか……まぁ偶然だろうけど。


「そうか良かった、なら試着してみろよ、見ててやるから」


「え? えーと……う、うん」


 なんか、ちょっとだけ迷っちゃったよ。うん、いやだってさ、恥ずかしいじゃん? なんとなくだけど……分かるでしょ、どうせ海で見られるんだとしても、それはそれじゃん? 選んでくれた人の目の前でね、披露するのはね、また別腹じゃん? というか……な、なんかこんなの、こ、恋人同士みたいじゃんよ! う、うわーっ! なんや! なんだ今の会話! なんだこれ、なんのつもりかロボ君め! おのれ、調子に乗るなよ、そうはいかないからね、私はそんな簡単な女じゃありませんからね!


 ちょっと、ちょっとね、一旦落ち着こう……そうだ、試着室……着替えるついでに息を整えて……ああもう、なんなのよ……まだドキドキいってる……うう、ロボ君め……奴はいつもそうだよ、いつも勝手に、人の心に入ってくるんだ、そうだよ、今だって勝手に、私の上着からボタンを……ん?


 ん? あれ? なんかおかしいな。


「ふ、ふぇ? 」


 ここ、試着室だよね……室内だよね? なんでロボ君いんの?


「おい、あまり動くなよ、脱がし難いから」


「あ、ご、ごめ……えっ? 」


 えっ。




「ふぎゃあぁぁあぁぁッ!!」


 上着を剥がされた私が、胸を押さえてしゃがみ込むのと同時、試着室の積層防音ベニヤ壁が吹き飛んだ。


「サクラさんっ! ……ッ! か、辛島、さま……これは、どういった、了見なのかと……わたくしわ……」


「まったく、いつもいつも……おい華村、いい加減にしろよ……馬に蹴られるべきは、お前の方だぞ」


 その風圧だけで、店内が半壊してしまいそうなハナコさんの後ろ回し蹴りを、がっちりと受け止めたまま、ロボ君はしかし、僅かに視線を落とすと、ぽつりと、言葉を漏らしたのです。


 私はそれを、確かに聞いたのです。


「ピンクか」


 ……よし分かった、許さへんぞこのムッツリガッパ! そこになおれ!




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