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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第3章
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はんぶん殺すから

 次の日は早朝から起き出して、私達四人は森の中を移動中なのです。うう、しんどい、眠い、それに臭い……まぁ、東京育ちだし? お風呂がどうこう言うほど、私はお嬢様でも無いんだけどさ、それでも花の女子高生だもん、気になるっちゃ気になるよ、昨日は随分と汗もかいちゃったし、多分、何となく、今の私の体は汗臭いんだろうな。


「くさい、さくら、くさいよ」


「なんやと」


 もう一度言おう、なんやと! 花の女子高生っつったやろ、失礼なこと言うんじゃないよ! というか人の匂いを嗅ぐんじゃありません、ハナコかお前は……そんなに臭い? やだなぁ、ロボ君とハナコさんが助けに来てくれたら、匂いがバレそうだなぁ……あの二人は嗅覚も鋭そうだし、特にロボ君なんかは、事あるごとに私の……お、おおぅ、よく考えたら私、彼と接触するたびに、何かしらの粗相(そそう)をしていたような……あれ、これって問題じゃね? ヒロインの危機を救った王子様は、常にアンモニア臭を嗅がされていたとか、おかしいよね、物語として間違ってるよね……なんか、今までロボ君の私に対する態度とか、扱いの雑さとかに文句を言ってたんだけど、もし逆の立場だったら……うん、間違いなくこっちが文句言われる方だよね、これ……こないだなんか、初ちっすが尿の味とか、見放されても仕方ないよね……うぅ、ごめんなさい、こんなヨゴレでごめんなさい、まさか、そのせいで助けに来てくれないんでしょうか? 今回はちゃんとしますから、お願いします。


「さくら、くさいのに楽しそう……なんで? くさいから? 」


「黙ろうか」


 全く、この全裸野生児め、見た目は大人で頭脳は子供め……でも、そういやハロッくんは臭くないな、野外生活してたんじゃないの? ちゃんとお風呂には入ってたのかな? なんか髪の毛もサラッサラだし、案外きれい好きなの? ……いや、何となく薬品の匂いがするな、何だろコレ、くんかくんか。


「サクラ様……それにはもう、余り関わらないでください、それは廃棄戦者なのです、もう長くはありません、情を交わす必要など……」


 私達のリードを握るラーズさんが、後ろから声をかけてきたのですが、私は完全無視します、だって私、怒ってるんだもん、というか『それ』ってなんだよ、ハロッくんは人間だぞ! 私やアンタ達と何の違いがあるって言うのさ! ふんだ、知るもんか、こんなやつ無視無視、デンデン虫やぞ!


 今日の朝、基地から出発しようとした時にも、ラーズさんは最初、ハロッくんを柱に括ったまま放置しようとしたのだ、私が、せめて離してやってくれとお願いしても。


「駄目です、これを離せば、基地が見つかるかも知れません、隠れて付いてくる可能性もある……目立つ動きをされれば、敵に発見される恐れがあるのです、それはできません」


「んなっ! そ、そんなのダメだよ! ハロッくんが死んじゃうでしょ! お腹すいても、ご飯、食べられないじゃない! 」


「サクラさま、ラーズの言う通りです、私だって可哀想だとは思いますが……殺処分もされずに放逐された改造戦者など、燃料切れで、すぐに機能停止してしまうでしょう……もしかすれば、今日にでも」


「ダメ! 絶対にダメ! こんなところに残していくなんて許さない! せめて一緒に連れて行って! ……でないと、私、何するか分かんないよ? もし、中京に行ったって、あんた達の言うことなんか、絶対に聞いてやらないからね! 」


 ふう、我ながらよく喋れたよ、駄々っ子のように暴れた私の気迫に押されたのか、二人は渋々ながら、ハロッくんの同行を認めたのです……でも、あの呆れ顔は許さへんぞ! もっと敬意を払えよ、王女さまなんだろ……ねぇ、やっぱり人違いなんじゃないの? もう諦めて解放してくんないかなぁ。


 今朝の怒りを思い出し、ぶつぶつと口内から文句を垂れ流す私に、何が楽しいものか、ハロッくんはまとわりついて、ケタケタと笑っているのですよ、うん、なんか犬っぽくて可愛い気もするけどね、帰ったら再教育だからね、言っておくけど、新参者の君は、もこたんよりも下の階級だからね、ご飯は貝殻にするぞこのやろう。


「さくら、さくら、紐が外れたよ、いのしし獲りに行こうよ、ぼく、上手だよ、じょうずに殺せるから、きっと美味しいよ」


「うん、そうだね、紐は外れてないけどね、お腹空いたねぇ」


 リニアギプスのおかげで、少しばかり背の高くなっている私は、長身のハロッくんの頭にも手が届くのです、なでりこなでりこ、と彼をあやしていたのですが、次の瞬間、ぐいっとリードを引かれ、息を詰まらせてしまいました。ぐぇ、またか、おいこら! 何度目だ、もう許さへんぞ、エクスカリバー案件だ! ちょっとこっちに……あ、あれ、どうしたのさラーズさん、なんか、とっても怖い顔、してるよ?


「……イムエ、ボートまで走れるか? 予定変更だ、第二作戦で行く……今まで、楽しかった……義母様にも、謝っておいてくれ」


「ラーズ……わ、わかった……うっ、さよう、なら」


 言うが早いか、イムエさんが私を抱えて飛び出した、な、なに? なになに? 何があったの? なんで、こんな突然に。


「かーみなりが、落ちるよ、さくら、耳、ふさいで」


 ぱたぱたっ、と付いてきたハロッくんが、耳を押さえるジェスチャーをしてる、なんだ雷って……もしかして、抜刀? なんで? あ、ひょっとして、誰か来たの? 誰だ、ロボ君か、それなら脱出のチャンスだよ! 大声で叫べば聞こえるかも!


 しかし、私のかすかな期待は、天空からの落雷によって、粉々に打ち砕かれてしまうのです。どぉん、どぉんと、背後から爆音が2回……もしも、これがロボ君ならば、こんなうるさい音はしない筈なのです、これは誰か他の騎士、おそらくは、アシナガさんの言っていた、西京騎士の二人でしょう。


「ほう、情報通りだな……こんな場所まで歩かせて、もし空振りしたならば、あやつの首を刎ねてやるところだったが」


 何故ならば、今、私達の目の前に、見知らぬ男が現れたのですから。


「お前は……ダ、ダレンスバラン!?……バラン家の最強騎士が、なんで、こんな所に……」


 ぐう、しかもなんか有名人っぽいよ、見るからに強そうだし……どうしよう、この人も私を狙ってるとか、アシナガさんも言ってたしぃ! と、とりあえず降ろして、イムエさん、私を抱えたまんまじゃ、どうにもならないでしょ!


「気安く俺の名を呼ぶな、中京の下郎が……ふむ、しかし造りは悪くない……これは、ふふ、久しぶりに楽しめそうだ」


 ダレンスとかいう、蒼い騎士服のイケメンさんは、にやり、と厭らしく笑うのです。くすんだ金髪を後ろで括り、泣き黒子が印象的な男……うん、でも一目で分かったよ、こいつゲス野郎だ、なんなのもう、騎士ってのはこんなんばっかだよ! むむ、ひょっとしてロボ君って、かなりまともな部類なのでは……うん、今度謝っとこう。


「ラーズ、ああ、ラーズ……ごめんなさい……でも、サクラ様は、サクラ様だけは……」


 イムエさんの歯が、かちかちと音を立てていた、膝下だって震えているし……どうやら同じ騎士とはいえ、実力的にはかなりの差があるのだろう。ち、ちょっとイムエさん、とりあえず降ろしてってば、考えるより、今は行動でしょ!


「い、イムエさん! 降ろして! このままじゃ……」


「う、うん、行こうさくら、いのしし居るよ! こっちはこわいから、危ないよ」


 叫びながら暴れる私を、ハロッくんは引っ掴むと、肩に抱えて走り出したのです。おおう、ナイスだハロッくん! イムエさんの事はちょっと気になるけど、どのみち私が側に居たんじゃ、抜刀も出来ないよ、今は走ろう、ロボ君達もきっと私を探してくれてる筈だ……でも、ハロッくん遅いね、ちょっと降ろして、私が走った方が早いんじゃない? 元は戦者なんだろうけど、今は一般人とたいして変わらない力なんでしょ、重いもの抱えて……いや、私は重くないけども! とにかく私も走るから、降ろしてね。


「さくら、さくら、あっちだよ、いのししの臭いがするよ」


「うん、猪は今、いらないかなぁ」


 あのね、ハロッくん、今ちょっとピンチなの、分かってる? とりあえず森を抜ける方向でよろしく。……なんで笑ってんのさ、もう、追いかけっこじゃないよ、危ないの、分かってる? 捕まったら殺されちゃうんだよ?


「大丈夫、さくらが危なくなったら、ぼくが助けてあげる、やっつけるよ」


 ううん、ありがとう、お母さん嬉しいよ、でもね、後ろからなんかすごい音が聞こえてきたからね、多分戦闘開始したよ、嫌な予感がびんびんするよぅ。と、とにかく走ろう、今はそれしかないよ、環状山脈を背にして走れば、最短距離で森を抜けられるよ。


「はんぶん殺すから」


 うわぁ、頼もしいなぁ。


 ロボ君、早く来てー!






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