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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第3章
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違いません

 私が目を覚ましたのは、仄暗い森の奥深く、天辺高く覆うのは、ブナやコナラの混交林、横から射すような木漏れ日は赤く、今が夕暮れ時だと告げていました。合成猪達が手入れしたばかりなのか、森の中は下草まで綺麗に刈り取られ、その上に敷かれた野外マットに寝かされていたようです。


「……むぅ……ハナコさん、おなかすい……ん? ここ、どこ? 」


外周森(がいしゅうもり)の中ですよ、お目覚めですか、サクラ様」


 んむ、外周森? っていうと……環状山脈のあたり? ……へえ、この島に来た時はトンネル通ったから、見るのは初めてだよ、でも、東京の森とは随分違うね、流石は大都会だよ、森の中までオシャレ空間かよ……んんっ?


「はっ! はわっ! なんで……そ、そうか、わたし、あのまま……」


「先程は手荒な真似をしてしまいました、どうかお許しください」


 森の中で正座するのはラーズさん、きちっと頭を下げて、ううん、姿勢が良いなぁ、きっとそれなりの名家出身なんだろな。でも許さへんよ、シャーリーくんを放って逃げちゃうなんて、話なら聞くって言ったじゃん。


「か、帰ります、私、家に帰りますから、もうそっとしておいてください」


 いささか憤慨していた私は、もちゃもちゃ立ち上がろうとしたのですが、くらりと地面が傾いだような感覚に襲われ、そのままへたり込んでしまうのです。ぐぬぬ、やっぱり頭が痛い、おのれシャーリーくんめ、今度会ったら説教だよ、もしくはプールで紐ビキニの刑だね、うへへ……シャーリーくん、大丈夫かなぁ、心配だよ。


「サクラ様、まだ安静になさってください、申し訳ありません、治療器は基地に置いてあるので……」


 私を支えるイムエさんは、困ったように眉を寄せる、そういえば、ラーズさんの両腕にも、ろくな手当はされていないようだ。もちろん血は止まってるし、新しい皮膚も張り始めてはいるのだけれど、やっぱりハナコさんやロボ君と比べて、治りが遅いような気がするよ……まぁ、あんな怪獣達と比べちゃ可哀想だけどね。


「もう少し休憩してから基地に戻ります、強行軍になりますが、明日にも山を越えて仲間と落ち合いましょう、まずは天領に戻らねば……」


「も、戻りません、行きません、家に帰ります」


 案外頑固だなこいつら、行かないって言ったでしょ! ただでさえ知らない人なのに、無理矢理に可愛い女の子を拉致するなんて、信用できるわけないじゃない。いくら私が可愛いからって犯罪は許さないぞ! おかしな真似したらエクスカリバーやからな! あと、可愛いは言い過ぎでした、反省してます、ええ、すんまへん、調子に乗ってました。


「サクラ様、この島の者達は……いえ、西京の人間を信用してはなりません、奴らは貴女様の力を恐れています、今は人質として利用するつもりなのでしょうが、戦が終われば、必ずにお命を狙われる事でしょう」


 ん? ちょっと待って、いろいろおかしいよ? いくさって、まだ終わってなかったの? というか私、すでに殺されかけてるんだけど、何回も……うぅん、ついて行く気はないんだけど、少しくらい話を聞いても良い気がしてきたよ、そういや、話なら聞くって言ったもんね、約束だったしね、よし聞こう、情報収集だ、ダンボになれ。


「あ、あの、そもそも、私って、誰なんですか? みんなが言うような、大層な人間じゃない、と思うんですけど……多分、人違いだと思うんですけど」


「……辛島ジュートからは、何も? 」


「う、うん、ろぼ、辛島くんは……何も言わないから」


 なんだろ、ラーズさんは意外そうな顔してる、ロボ君の性格なら、余計なことを喋らないって分かりそうなものなんだけど……ひょっとして、知り合いって訳でもないのかな? というか、イムエさんは怖い顔するのやめて、なんで名前聞く度に殺気を放つのさ、ほんと、ロボ君何したのよ、まさか、そーゆーことしたんじゃないだろうね? 許さへんよ?


「辛島ジュートは、戦の始まる前に現れました……引退される『剣聖』田上(たがみ)ヒョーコ様の代わりに、新たな天領騎士として、ですが……」


「あいつはね! 西京のスパイだったのよ! アドルファス様を闇討ちして、あの悪魔……剣姫を呼び寄せ、天帝陛下を……私のお父様も、あいつに……」


「天領騎士十八人衆は、玉座を穢された責を負い、全員が割腹……残る四大騎士団では、西京のテンプル騎士団を抑えきれるはずも無く……」


 ぎりり、と歯を食いしばるイムエさんの目には、確かな憎しみの炎が宿っているようで……で、でも、そんな、おかしいよ? だってロボ君は同級生じゃん、17歳だよ? ……まぁ、とてもそうは見えないけどさ、それでも、今の話が本当なら、少なくとも30歳くらいじゃん、高等生の振りは、流石に難しいんじゃないかなぁ……戦が始まったのが15年くらい前だから、計算合わないよ? それとも2歳で騎士団に入ったとか? いやいや、それも無理があるよね? 多分それ、人違いだと思うんだけど……うぅん、こりゃ、私も人違いの可能性が上がったな。


「わ、私は、あの人に、助けてもらってる、よ、だから、信じてる……やっぱり、あなた達には、ついて、いけない、です」


「……サクラ様、我々は、貴女様を連れ戻す、何があっても連れ戻す……ここに来るまで、百人の仲間を犠牲にしたのです、それだけの事をしたのです、サクラ様をお救い出来ねば、奴らに合わせる顔が無い……」


 ち、ちょっと、そんな勝手なこと言わないで、私、頼んでないよ、そんな事、願ってないし、だって、そんなの、わけわかんないよ、いったいなんで? 何故、そこまで、みんなして私の事を。


「辛島が何を考えていようと、我らのする事に変わりはありません、今も祖国を蹂躙する、西京の鬼畜どもを蹴散らし、再び天領に、陛下の御威光を……サクラ様、貴女様が、貴女様こそが」


 自らの血に染まった両腕を地につけ、ラーズさんは平伏するのです。


「天帝陛下の忘れ形見……天領の皇女(ひめみこ)なのですから」


 彼の隣では、イムエさんも、土下座のポーズを見せています、でも、なんかチグハグだよね、違和感あるよ、ああ、そっか、二人とも新生なんとか騎士団だって言ってたし、見るからに若いし、生まれは良くても、ちゃんとした仕来りとか、作法とか、教えてもらう暇がなかったんだね、もちろん、私も知らないけどさ、ばーちゃんが酔っ払って、たまに見せてた作法とは、ちょっと違うような気もするよ。


 などと、私がいつものように思考の逃避を始めていたのは、このとんでもない情報の奔流から、自身の脳を守る為なのです。もうね、なんやそれ、だよ、おかしいやろ、いっぱいいっぱいだよ、やだやだ、おうち帰る! ブリ大根作るの! 帰りますったら帰りますぅ!


 もう、なにが原因も分からぬ頭痛に悩まされながら、私はなんとか言葉をひねり出すのです。とりあえずは逃げだそうと心に決めたのです、よし、言ってやる、言ったらすぐにロボ君に通話して、迎えに来てもらうのだ、早くご飯作らないと、2匹の飢えたけだものが、もこたんに手を出しかねないよ、よし言うぞ。


「ひ、人違い……ですぅ」


「違いません」


 やだやだ。




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