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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第3章
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二言……同だぬき

「どうしよっかなっ、どうしてやろっかなっ」


 ひょいひょいと足取りも軽く、シャーリーくんは、地獄の真っ只中に足を踏み入れるのです……あうう、躊躇ないなぁ、なに考えてるんだろう、でも、とりあえず降ろしてよ、私は買い物カゴじゃないぞ、ウキウキで今晩の献立に悩む新婚の主婦か、私はブリ大根にしようと思ってたんだけど。


「サクラ様を離せ! 何のつもりだ! 」


 執行官の鉈を躱し、転がりながらラーズさんが叫ぶ、そうだそうだ、もっと言ってやって、というかシャーリーくん、ほんとにやめて、ほら、あいつが振り向いたから、肩の箱開いてるから、もしアレの中身がが飛んできたら、私なんか一瞬で大根おろしになっちゃうから! ねえってば、お願いだから離して!


「よし、こうしてやろう」


 ぶんっ。


「はわぁっ!?」


 なんたること、なんたる事だよ! シャーリーくんは私を引っ掴むと、真っ黒執行官に向けて投げつけたのだ。ぐぃん、と加速、一気に血液が頭に上る感覚、目の前が真っ赤になった気がした、これ、多分、毛細血管が切れちゃったのかも。


「うおっ!?」


「な、なんっ! 」


 突然で、しかも余りに予想外の行動に、ラーズさんもイムエさんも動きを止める。そして、それは執行官も同じだったのか……いや、多分、この男は『殺さずに対処する』ことに慣れていないのだ、普段なら、私なんか石ころ程度にも感じないのだろう、鉈で跳ね除けハイお終い、だったのだろう、しかし、奴らにとって、どうやら私は殺してはいけないらしいのだ、ケン先生の言葉を信じるならば、少なくとも血を吸うまで……だから、流石の執行官も僅かに逡巡し、対応が遅れてしまったのだ。


「よいしょおーッ! 」


 私の影に隠れながら接近して、シャーリーくんの強烈な蹴り。それは、どかんと執行官に命中し、重そうな装備の男を街路樹まで跳ね飛ばす……あ、折れた、合成セミが慌てて飛んで行くよ、ごめんねごめんね。


 そして私といえば、キックの余波で、彼らに負けじと天高く舞い上がり、きりもみしながら落下したのですが、何とか追い付いたイムエさんにナイスキャッチされるのです。うごご……目が回った、視界も真っ赤だし、これ多分、しばらく頭痛いままだよ、やだなぁ、晩ご飯食べられるかなぁ。


 街路樹を軽々と持ち上げ、むくり、と起き上がる執行官。シャーリーくんの方は、片手で張り付いた前髪を剥がし、リーゼントっぽい髪型を作り上げていた、うぬぅ、なかなか似合ってるのが悔しいね、かっこいいよ。


「豚が牙を持つ、それはもう家畜とも呼べぬ、害獣ならば駆除するのみ」


「あはは、(いぬ)の分際で偉そうに言いますね、牧羊犬……あ、牧豚犬? ふふっ、なんでもいいかな? どうせ残すは、ひとこと、ふたこと……」


 ぴりり、と空気が震えた。あ、これまずいよ? きっと抜くつもりだよ、イムエさん、走って! 固まってないで、態勢を立て直すなら、今がチャンスっぽいよ!


「イムエ、影を消せ! 離脱する! 」


 ラーズさんの声に、ぱちんと弾けた様子のイムエさんは、軽く手を振り、大きくバックステップする。きっとなんらかの呪術を行使したのだろうけど、え、ちょっと待ってよ。


「ま、待って! まだ、シャーリーくんが……みんなで戦わむぐっ」


 もががっ、こ、こら離せ、私は逃げないっつっただろ、今はあの黒いのをやっつけないと、せめてラーズさんだけでも、シャーリーくんを手伝ってあげてよ!


「ご容赦ください、サクラ様」


 くいっと顎を掴まれ、左右に小さく揺すられた。たったそれだけの事で、ただの人間でしかない私の脳は、下界との関わりを容易く拒否してしまったのだ。


「ろ……ろぼ、くん……」


 薄れゆく意識の中、私の視界が最後に捉えたのは、左手の中指にキスするシャーリーくんの姿と、全身から放電する執行官、そして、いつぞやも感じた、空気が重くなるような感覚と。


二言(にごん)……(どう)だぬき」


 今から繰り広げられるであろう激闘には、まるで似つかわしくない、囁くような、シャーリーくんの透き通った声でした。






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