このままじゃ、駄目なのかなぁ
なんだか、気が抜けてしまったせいか、一気に疲れちゃった気がしますよ、疲れドット込むの佐倉サクラです、ちんちくりん。
いえね、ちんちくりんだとは自覚してますがね、まだまだ認めてはおりませんよ? もうね、すぐに伸びるからね、雨後のタケノコやで、ニョキニョキやで。とはいえ、目の前にね、こんなね、おっきな人がいたらね、それはもう、自分の矮小さというものをね、いやでも思い知らされるというものでして。
「あ、あの……その、ど、どちら、さま、ですか? 」
しかも自宅ですよ? 自室ですよ? 三人分のお布団を敷こうと、私ルームにやってきた瞬間に出くわしたのは、身長2メートルを超えようかという、見上げんばかりの巨女さんでした。なにこの人、天井スレスレじゃん! どっから入ってきたの? どうしよう、ハナコさんはお風呂だし、ロボ君はリビングで、もこたんにご飯あげてるし……あれ、ひょっとしてこれ、ピンチなの? もしかして危険が危ないんだろうか、叫ぶべき? いやでも、迂闊に動いたら余計に危ない気も……どうしよう。
「アシナガです」
……名前かな? ああ、確かに足も長いよね、というかぜんぶ長いよね。白に近い長い金髪に、白い肌、いや、これって色白のレベルを超えてるよ、病的というか、アルビノ? っぽい白さだよ、ううん、瞳の色は薄緑だから、そういった特殊な体質って訳でもないのかな……まぁ、もしも目の色が赤だったら、私も死を覚悟してたんだけどね、マジで。
「そ、その……どういった、ご用件で、その」
「報告です」
「……ほうこ、な、なん、の? 」
うう、なんで無表情なんだろう、なんかこわいよぅ、というか、服装からしておかしいもん、ぴっちり合成皮のセクシースーツなんだけど、左足は、かなり付け根の際どいところで切り取られてて、色々と剥き出しだし、右手もそう、おへそだって丸出しで、胸の下半分まで見えちゃってるよ。なんだろう、ひょっとして泥棒さんかな、怪盗せくしー? あ、いや、報告がどうとか言ってたな……なら、予告状? やめてください、うちは貧乏なんです、盗るものなんか……あ、あるな、すんごいあるよ、忘れてた。
「なんだ、まだ布団敷いてないのか? 早くしろよ、それとも疲れたのか、なら、今日もやめとくか」
「し、しなっ! ……え、辛島、くん、あの……このひと、見えてる? 」
がらり、とドアを開けて入ってきたロボ君は、いきなり小姑のような文句を……いや、しないからね? なにさらっと爆弾落としてんのよ、ハナコさんもいるだろ、いや、居なかったとしてもしないからね! でも助かったよ、ちょっと後ろに隠れさせて、なんか幽霊だという可能性も生まれてきたから。
ぱたぱたと彼の背後に回り込み、その脇の下から、足長幽霊を見上げたのですが、彼女の方は、微動だにせず、といった様子でありまして、もう、なんなのさ、頭が混乱してきたよ、早くどっか行ってくんないかなぁ、もうお布団に入りたいんですけど。
「ん? こいつは、華村のところの忍者だろう……お前も何度か会ってる筈だが」
「あってないよ」
はい、会ってません、初対面ですわ、断言できるぞ、もし一度でも目にしてたら、こんなインパクター忘れるわけないやろ、2メートルやぞ、ぼいんぼいんの、あ、少し分けてください。
「あってますよ」
「なんやと」
馬鹿な、そんな馬鹿な、私を騙そうったってそうはいかないぞ? いつだ、何時何分何十秒、地球が何回まわったときだ、言ってみろこのやろう。
「気配を消してたので、分からないとは思ってましたが、貴女をからかって遊ぶのにも飽きてきたので、今日は普通に出てきました」
「なんやと」
あ、こいつ駄目な奴だ、ウォーレン先輩とかシャーリーくんとおんなじ匂いがする。無表情でごまかそうったって、分かるんだからね、なに遊んでたかは知らないけど、とりあえず許さへんぞ。
「サクラさん、どうかしまして……あら、アシナガですか、何か報告かしら、もう夜も遅いですし、手早く明瞭になさい」
「は、では」
おいこら、まだ終わってないぞ、貴様は後でエクスカリバーやからな! 覚えとけよ! でも、ちゃんとしゃがんでね、届かないから。
「バラン家とキケロガ家が、筆頭騎士を学園島に送り込みました、表向きは問題続きの学園にて、息子を護衛する為との事ですが、長子ではありませんので、おそらくサクラ様を狙ってのことかと」
え、なにそれこわい。
「……表立って動きを見せたのは、そのニ家だけですの? 」
「は、あとは、島内警備強化の名目にて、奉公基準監督署から、先頭戦闘執行官の派遣も決定されております」
「先戦まで……どうやら、向こうも本気になってきたようですわね……分かりました、アシナガ、信用できる戦力は、何名集まりましたか」
あの、ハナコさん? すこぅし、お話が物騒になってきてる気もしなくもないよ?
「は、私以下、キアシ、セグロ、フタモン、コアシの計5名、いずれも、ハナコ様の為に死ねる志能便どもです」
「よろしい、みな、わたくしの為に働き、サクラさんの為に散りなさい」
「ははっ! 」
ぬるっと、アシナガさんの姿が搔き消える。え、うそ、どこ行ったの? すごい、忍者すごい、エクスカリバーしそこねちゃったよ。
「……俺は、いつも通りにやるぞ、志能便ってのは、どうにも信用ならないからな」
「ええ、それはもちろん……ですが、わたくしも言った筈ですよ? こちらはこちらで、好きにさせて頂くと、ね」
そう言って、ロボ君とハナコさんは、お互いに、にやり、と笑い合うのです。まぁ、仲が良いと言えなくもなくなくないのかな?
でも、おばあちゃん、私はなんだか、とっても嫌な予感がします。いまはまだ、こうして笑っていられるのだけれど……おばあちゃんとの約束、難しいなぁ、最後まで、笑っていられるかなぁ。
私にも、何か出来ることって、無いだろうか? 今の私は、何にも知らなくて、何にも出来ない、ただのお荷物なんだもの、この二人が、身体を張ってまで、命を懸けてまで、守ってくれるだけの価値って、あるのかな? そういや、ケンは神さまがどうのとか言ってたけど、そんなのは眉唾物だしね……はぁ、お布団敷こう。
こちこちと、時計の音を聞きながら、私は真っ暗な天井を見詰めるのです。この、真っ暗な景色は、この先の未来、私の未来のような気がして、たまらなく不安になるのです。
がばり、と頭までお布団を被るのですが、しかし、そこもやはり暗闇で。
「このままじゃ、駄目なのかなぁ」
なにも決められない私は、戦うことも、逃げる事も出来ず、ただ、布団の中で夜に怯え、それが明けるのを待つばかりなのでした。
これにて2章の完結です。ここまでお付き合いしてくださいました皆様には、海よりは浅く感謝しております。
引き続き3章を書き進めていく所存でございますので、お暇があれば思い出してやってくださいまし。
かしこ




