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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第2章
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ああ、あれは嘘だ

「そうですか、そんな事が……いえ、良かったなどと軽々しく言う訳にはまいりませんが……それでも、お二人が上手くいけば良いなと、わたくしも思いますわ」


「まぁ、そうかもな、肉体的な交接は、精神的な安定をもたらすそうだしな」


 おい、ロボ君や、もう少しね、言い方ってもんがあるだろう? そのあたり、ね、考えようね? まぁ、言わんとする事は理解できるんだけどね? こちとら乙女やぞ。というか、二人してトコブシの殻を齧ってんじゃないよ、未練がましいなぁ……というか丈夫な歯だなあ、フグのたぐいか……もう、それは、もこたんのご飯なんだからね、あんた達のオヤツじゃないからね、コリコリしてんじゃないよ。


「オーセンさんは、華村家に連なる家柄ですが、傍流の更に傍流ですし、嫁ぎ先は自由に選べるでしょう……少しだけ、羨ましくもありますね」


 ふと、視線を下げるハナコさんは、何やら、思うところのありそうな表情を見せるのです。ううん、儚げな憂い顔も色っぽい、相変わらず、美人だなぁ……まぁね、こんな美少女、男の人はほっとかないよね、きっと、お見合いの話なんかもドンドコ来てる筈だよね、私だって、もし男に生まれてたなら、ぼいんぼいんしたくなっちゃうよ。


「あ、あのね、ハナコさん、もし、無理矢理に……」


「大丈夫ですよ、サクラさん、ありがとうございます……ですが、華村家の跡取りならば、兄上には、もう男の子が生まれておりますし……わたくしは、自由にさせていただきますから、ね(ああ、いっそ、染色体変換機に……サクラさんと……そう、それが、自由というものですわ、サクラさんの浮き上がった肋骨を、舌で数えたって構わないのです! )」


 はい、ねっとり光線いただきました。……うわぁ、この目かぁ……私も、こんな目をしてたっていうのかぁ……ほんと、反省します、ごめんねシャーリーくん、ゆるして大銀杏(おおいちょう)


「それで華村よ、調べの方はどうなってるんだ? 今夜は屋敷に帰るんだろう、何処かの華族が動きでもしたのか? 」


 私のエクスカリバーに恐れをなしたのか、膝の上にもこたんの頭を抱え、貝殻を与えながら、ロボ君が訪ねます。なんだ、ちゃんと可愛がってくれてるんだね、よかよか……いや、まさか太らせてから食うつもりじゃあるまいな? 許さないよ? そんなこと考えてたら追加のエクスカリバーだよ。というか、自分は話さないくせに、ハナコさんからの情報だけ欲しがるなんてずるいぞ、不公平やろ、やっぱりあとでエクスカリバーします。


「いえ、今のところ、ただの定時連絡ですが……サクラさんのお母様とお祖母様の情報も……なにぶん、中京は未だ安定しておらず、東京に関しては、住民の遺伝子情報さえ整理されていないのです、なので佐倉リンさまと、佐倉チハヤさまに関しては……」


「待て、佐倉、だと? ……なぁ、サクラよ、お前の婆さんは……なんて名だ? 」


 ん? なに? 言ってなかったっけ? あぁ、そっか、なんかロボ君は、もう知ってるものだとばかり……なんだい、偉そうにしちゃってさ、ホントは何にも知らないんじゃないのぉ? んんー?


「ち、チハヤ、だよ、お母さんが、リンだって……私は、お母さんのこと、良く覚えてないけど」


「……チハヤってのは、ババァのくせに背の高い、銀髪のやつか? 」


「う、うん」


 おいこら、人のばーちゃんをババァとか言うな。


「ババァのくせに若作りで、短いスカート履いたりするやつか? 」


 おいこら、確かにばーちゃんは、見た目40歳くらいにも見えたけどな、モデル体型だけどな、ちくしょう、何故あのスタイルが遺伝しなかったのか……お母さんか、それともお父さんが、ちんちくりんだったのか、いやいや、慌てるな、私だって来年には……ぼいんぼいんに……きっと、たぶん。


「ババァのくせに大人気なくて、笑い方の嫌味ったらしい、暴力的で説教好きな、腕力だけが自慢の嫌なやつか? 」


「おこるよ」


 さすがに怒るぞ! というかばーちゃんが生きてたら、ロボ君は今ごろ、上半身だけ天井に刺さってるよ……あれ? 当たってんな、確かにばーちゃんは、そんな人だよ、ひょっとして、ロボ君知り合いなの?


「そうか……」


 でも、それきりロボ君は、目を閉じて黙り込んでしまいました。おのれ、また、だんまりか、貝のやうにか、トコブシか、トコブシは二枚貝じゃないけどな。


 給餌が途絶えてしまったのが不満なのか、もこたんが長い舌で、ぺろぺろとロボ君の頬を舐めるのですが、岩に張り付いたトコブシの如く、ロボ君は微動だにしないのです。あ、これ、もう駄目だな、おいでもこたん、洗い物する前に、お皿綺麗に片付けちゃおうね。




「では、わたくしは屋敷に戻りますが……サクラさん、くれぐれもお気を付けて、辛島さまが、おかしな気をおこさないとも限らないのですからね……殿方は皆、けだものなのです、決して、心許してはなりませんからね、いざとなれば、目を狙ってくださいまし」


「あはは、心配、しすぎ、だよ」


「分かったから早く帰れ、俺がサクラに手を出すとでも思ってるのか」


 むかっ。


 いやね、別にね、襲って欲しいとは思ってないけどね? そんな、あからさまに興味ありませんって態度をとられてもね? それはそれで、むかつくことこの上なしでございますことよ? ふん、なにさ、毎日おいしいご飯作ったげてるのにさ、少しくらいおだてようとか褒めそやそうとか……く、口説いたりとか、してみなさいよ、このポンコツ重機、減価償却ゼロにすんぞ。


 はぁ、まぁいいや、洗い物して、お風呂入って、今晩は早く寝よう……ふたりきりって意識する前にね、そうしよう、もたもたしてたら、またひとりで悶える事になるよ、睡眠不足はお肌の大敵なのです。ワハハ。




 ……などと、軽く考えていたのは、ついさっきまでのお話。



「あ、あの……あの、あの、あの……ろ、ろぼ、からし、ま、くん? あの、この、あの、その……」


「なんだ、どうかしたのか? 」


 いや、あのね? おかしくない? おかしいよね? だって、このお布団、私のだよ? テリトリーだよ? ロボ君はかけ布団じゃないからね? あのね。


 なんで、私の上に、覆いかぶさってる、の、かなぁって? ね、そのね。


 どこどこ、と、かつて聞いた覚えの無い音が、私の胸の奥の方から、大音量にて流れてくるのです、発熱のためか、そろそろ視界も歪み始めており、混乱して次の言葉も出ない私は、ただ、ぱくぱくと、池の七色錦鯉のように、酸素を求め、口を開閉するしかなく。


「彼氏彼女なら、こうした方が理解も早いだろう……精神の安定にもつながるらしいからな……ま、遅いか早いかの違いだ、あまり気にするな」


 いや、気にするよ? そこ、一番気にするとこだよね? いやいやいや、まだ早いでしょ、いやいや、遅ければおっけーする訳でも無いのだけれどね! あのね、順序というかね、純情というかね……ふわぁ! 顔の横に肘が、おりて、それは、間合いを詰められたというか、逃げ場を奪われたというか、ちょっと、ねぇ、顔が、近づいて……え、ホントに? 冗談でしょ? ま、まって、まって、わたし、まだ、こころの、じゅんびとか!


「っ、て、ててっ、ださ、ださない、って、いって、いって……」


 わなわなと震える唇から、ようやく溢れた私の言葉に、しかしロボ君は、片方の眉だけを、くいっと上げ、こともなげに言うのです。


「あぁ、あれは嘘だ」


 嘘かよ! ごめんなさい、ポンコツとか言ってごめんなさい、やっぱり、男の人は、みんなオオカミだったのです。



 ど、どうしよう、おばあちゃん。

 



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