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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第2章
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まったく、サクラちゃんはいやらしいなぁ

 昔、おばあちゃんに読んでもらった童話の中に「友達100人できるかな? 」ってお話がありました。ひとりぼっちの女の子が、新しい学校で沢山のお友達を作るというストーリーなのです、良いお話ですよね、ここまでなら。


 その女の子は、沢山のお友達に囲まれましたが、やはり、100人と分け隔てなく、平等に付き合うなんて無理だったのです。表面的なお付き合いに終わる者、知らぬ間に疎遠になる者、八方美人な女の子に嫌気がさして離れてゆく者……女の子は、お友達を引き止めようと、必死になって奮闘するのですが、そのせいで、本当に彼女を心配してくれた、本当の友達になってくれたかも知れない男の子の事を、ないがしろにしてしまいました。


 結局、新しいお友達は、ひとり、またひとりと、女の子の元を去ってゆき、彼女は、また、ひとりぼっちになってしまうのです。放課後の教室にひとりぼっち、シクシクと泣く女の子に、私も同じく涙したのを、今でも覚えています。


「身の丈をわきまえる、なんてのはね、難しいもんだよ……人間ってのはね、あれもこれもと、ついつい欲しがってしまうんだよ……けど、欲張って手を伸ばせばね、いつか自分の手にはね、負えなくなってしまうのさ……でもね、サクラ、それでもね、本当に欲しいものにはね、遠慮しちゃいけないよ? 恥ずかしくても、みっともなくても、しがみついて離れちゃいけないのさ、たとえ、突き離されて泣いたとしてもね、手を伸ばさなかった後悔よりは、はるかにマシなんだからね……まぁ、両手両足全部使って、必死こいてしがみつけるのは、ひとつだけさ、良く考えてね、サクラの、その頑固さで噛み付いておやり……あはは、なんだい、ばーちゃんに噛み付いたって、仕方ないだろう? ……ばーちゃんはもうね、サクラにね、しがみついてるんだから、さ」



 うぅん、ばーちゃんの読んでくれた童話はね、いや寓話か、なんかいつも、ちょっと怖い感じのお話が多くてね? まぁ、楽しみだったけどね、今になって思えば、子供に読み聞かせるにしては、演技過剰だったよ……さては怖がらせて楽しんでただろ? おのれ、お布団を汚したのは私のせいじゃないからね。


「ちょっとサクラ先輩、もう少し気配を消してください、気取られますよ」


「うーん、この距離なら、問題ないと思うけどねぇ……ま、それはそれとして、サクラちゃん、ちょっと呼吸を抑えてね、興奮しすぎだよ? 」


 なんやと、私、そんなにハァハァしてた? ちょっと待って恥ずかしい……うぬぬ、なんだろ、最近は一緒に暮らしてるから、ハナコさんが伝染っちゃったのかな、よし、落ち着け私、貝になれ、トコブシになれ、そうだ今晩は貝汁にしよう。


 などと余所事を考えながら、私達が潜んでいるのは、第十三校舎の中庭なのです、もっと正確に言えば、建物の陰から、そこを覗いているところなのです。はしたなくも、この出歯亀に興じているのは、私の他に、金髪碧眼の二人組、シャーリーくんとウォーレン先輩。


「うわぁ、ボタンに手をかけましたよ、こんなとこで脱ぐつもりですかね、いやらしい、サクラ先輩みたい」


「なんやと」


「あの黒髪ちゃんは、先端呪術を遣えるみたいだからね、素人にしては、ちょっとした結界だよ、多少喘いだくらいじゃ、外には漏れないかな……しかし、やらしい娘だなぁ、サクラちゃんみたいだ」


「なんやと」


 中庭の中央には、大きな生造花の藤棚があるのですが、それがちょうど良い目隠しになり、藤色のカーテンの元で睦み合う男女の影を、なんとも艶麗かつ淫靡に飾り立てているのでした。もっとも、えろすな雰囲気を醸し出しているのは、黒髪の女生徒だけであり、赤毛で白衣の男性の方は、それを一方的に押し付けられている様子なのですが。


「しかし、ケン先生も耐えるねぇ……さっさとヤっちゃえばいいのにさ」


「誰もかれもが、ウォーレン先輩と同じ下半身だと、思わない方がいいですよ、この直管一気筒男」


「きとうだけに? あはは、マコっちゃんも、上手いこと言うねぇ」


 ん?……下ネタかよ! ひくわー、なまじ美形だけに、三割増しでひくわー、でも、ちょっと上手いこと言ったな。ワハハ。


「ねじ切りますよ……僕は触りたくないので、サクラ先輩の手を使って」


「なんやと」


 やだよ、私だって触りたくないよ、あのねシャーリーくん、己の手を汚さない仕事ってのはね、賞金稼ぎ失格だよ、どっかの先生に怒られちゃうよ。


「お、いった」


 え? なに、なにいったの? 言ったの? 行ったの? ううん、我ながらはしたないとは思うのですがね、仕方ないよね、こんな場面に出くわしちゃったらさ、見るよね、見ちゃうよね? しょうがないやろ、乙女やぞ、興味津々なお年頃やぞ。中庭に意識を戻した私の目が捉えたのは、黒髪の女生徒ことオーセン先輩が、はだけた制服のままに、ケン先生に抱き着く姿だったのです、えらいこっちゃ。


「あ、あわわ、はわわわわ」


「……何ですかそれ、あざといですよ、気持ち悪い、純情ぶって……サクラ先輩だって、いつも似たような事してるくせに」


「し、して、してないし! してないよ! 」


 してないよ、なに言っちゃってんのこの子はさ! 事実無根だよ! 風説の流布だよ! 誰かに聞かれたらどうすんのさ!


「……風呂上がりに、全身を拭かせるのって、どうなんですかね、男の人に、ですよ? 異常ですよね、ひょっとして、自覚してないとか言うんですか? いやらしい……生まれついての、淫売……ビッチ……パンスケ……」


 ぐ、ぐわー! なんも言い返せない! はい、ごめんなさい、私が悪うございました、でもね、あれはね、ロボ君が勝手に……はい、言い訳ですね、すんまへん、その目は怖いからやめてください……ところで、なんで知ってるの? あと、パンスケってなに?


「……僕は、観てるって、言ったでしょ」


「なんやと」


 マジで怖いな! なんやこいつ、どこで見てたんだ、あと、パンスケってなに?


「あーあ、ついに折れちゃったかー、しーらないぞ、面倒くさそうな女の子なのにねー、サクラちゃんみたいに」


「なんやと」


 なんか、この二人と一緒だと、知能が下がってくような気がするな……うん、そろそろ退散しよう、なんとなく、これ以上は見ちゃいけない気がするよ、だって生々しいもん、居心地悪いし……はいはい、どうせ子供ですよ、なんとなく怖いんですゥ、もう、二人も帰るよ、覗きダメ、絶対。


 ずるずる、と金髪コンビを引き摺りながら、私は中庭を後にするのです。すこしびっくりはしたけども、うぅん、オーセン先輩は、ケン先生の事が、本当に好きなんだなぁ……ちょっと、羨ましいかも、だって、あんなに一所懸命にさ、恋してるんだもん、やっぱ、良いよね、ちょっと怖いけど……でも、前はあんな感じじゃなかったって言ってたし、ケン先生とくっついたら、元に戻るのかな。


「そうかな、うん、そ、そうかも……そうなったら、良いな」


「何がですか、また、いやらしいことを考えてるんですか」


 ちがうよ。


「まったく、サクラちゃんはいやらしいなぁ」


 ちがうつってんだろ! いやらしいいやらしい連呼すんな、子供か! ……よし分かった、こいつらしばく、もう、やったるけんね! 私のエクスカリバー舐めんなよ。


 なんやとの時間は、終わりだ!




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