自序
そこは、まっしろな場所でした。
まっしろな空、まっしろな大地、どこまでもまっしろで、地平線も水平線もありません、いえ、本当に空と大地があるのかも分からないでしょう。真ん中に小さな鏡台があるだけの、辛うじて、上と下があるだけの、そんな世界。
そんな、まっしろな世界の真ん中にひとり、小さな鏡台の椅子に座るのは、どこまでもまっしろな人でした。まるで、頭からすっぽりと、シーツを被ったような、輪郭のはっきりしない、もやのような白い人。
まっしろな人は、日記を読むのに夢中です、もう、何年も、何十年も、何百年も、読み続けているのです、飽きる事なく、見続けているのです。
けれど、それも当然でしょうか、このまっしろな人は、今までずっと、ひとりきり、何千年も、何万年も、何億年も、旅してきたのですから。
それから、どのくらいの時が過ぎたのでしょう、このまっしろな世界の真ん中に、一本の線が生まれました。まっしろな世界の遥か向こう、遠く彼方の地平線。
この世界に、空と大地が生まれていたのです。
ですが、まっしろな人は気付きません。
日記には、まだまだ続きがあるのですから。




