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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第1章
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いやどす

 はい、皆さんこんにちは。


 ん、こんばんわ、かも知れないね? まぁいいや、おはよう、よりはマシでしょう、何となく。


 私の名前は佐倉サクラ、何処にでも居そうかというとそうでもない、17歳の女の子です。艶やかで長い黒髪にはちょっとだけ自信もあるし、結構、それなりに、顔面的な偏差値も高い方だと自負しています。


 していました……ここに来るまでは。


 西京の北に浮かぶ孤島、通称『学園島』と呼ばれるこの聖十字学園。お華族様の子女から政財界のプリンスプリンセス候補、更には芸能人、著名人、とにかくもって、およそ一般市民とは呼べない方々の集まる学び舎。


「おはようごさいますサクラさん、ご機嫌いかがかしら」


 ほらきたコレだ。トーンが違う、優美で典雅、爽やかな朝の空気に乗せて響く声は小鳥のさえずりにも似ており、その笑顔たるや、雲間から光が差す如しかこの野郎。


 はっきり言ってしまえば、超絶なる美少女でありました。ふわりと浮かぶような長い灰金髪に、少しタレ目だけども、綺麗な赤茶色の瞳、ぷっくりとした下唇、抜けるんじゃないかと思う程の白い肌、つるつるだし、全くもって非の打ち所がない……いや、もう少しだけ言っておこう、不本意だけども、目を向けたくはないのだけれども、学園島の豪奢な白い制服を、持ち上げんとばかりに主張する、あれだ、たわわなアレだ。


 まさに完璧、非の打ち所がナッシングやで。身長だって私より10センチ以上高いし、あ、言っておくが私とて、決して低くはないぞ、平均だ平均。


 あぁ? 胸の事は聞くな! 捻るぞ!


「……サクラさん? 」


 おっといけない、不審に思われた、だめだね、挨拶は基本だしね、ここはキチンと返礼しなきゃ、これだから東京の田舎モンはとか思われちゃう。死んだばーちゃんにも顔向け出来ないよ、うん、よし、ここは一発、優美に典雅、あちしの美声にて、可愛らしい朝の囀りをば。


「……あ、あの、お、はよう、ございます……ハナコ、さ、ん……」


 アーッ! もう、ヘタレ! 私の駄目女、つんつるてん、戸棚の奥から出てきたしけた煎餅!


 いいさ、笑えよ、はいはい、どうせ内向的ですよ、緊張しいですよ、内弁慶とは知ってますとも。でもね、こればっかりはどうにもならないんだもんよ、直らんもん、17年かけてこれなんやで。


 しかし、目の前の美少女には、案外好印象のようでしたとさ。この超絶美少女こと華村ハナコさんは、同じクラスに在籍する、そして初めてできた友人で、転校初日から私の事を何かと気にかけてくれる良い人なのです、おのれ、性格まで完璧かよ、ねたましい。


「うふふ、サクラさんは今日も可愛らしいですわね……(おいしそう)」


 うん……ただ、何というか、こう、視線がねっとりしてるというか、妙に見つめてくるし、距離が近いし、ボディタッチも多いし、馴れ馴れしいという訳じゃないけど、なんとなく、なんとなくだけど、ごくごくたまに気持ち悪いのが欠点といえば欠点かも知れないね。まぁ、やはり? 人は誰しも完璧ではありませんし、そのくらいなら許して差し上げますことよ?


「さ、参りましょう、朝礼に遅れてしまいますわ……あ、そうそうサクラさん、今日から一人、クラスメイトが復帰してくるのですが……」


 ん? 転校生? いいぞ、私がなんとなくまだ馴染めていない我がクラスに、新たな風を吹き込むというのか、同じ立場の人間が増えるならば、それを目くらましに先住民ぶってやる、さり気なくな。


 ワハハ。


「あ、あの、あの、て、んこうせい? 」


 身長差がある為に、どうしても上目遣いになってしまうのだ。意図的なものでないとはいえ、きゃるんと見上げる私の愛らしさに、ハナコもメロメロやで。


「う、え、そ、そうですね、いえ、そうではありませんわ、あの方は、元々あまり、登校なさってはいませんので……(ああ、耳の穴をスタート地点に鎖骨の辺りまで舌で往復したいですわ)」


 あ、そうかそうか、復帰とか言ってたもんね、病気かな? 病弱なのかな、こんな名門校だし、なんとなくイケメンのお坊ちゃまの匂いがするね、うぅん、どうしよう、なんだか楽しくなってきた!


「あのかたって、いうと、男の、ひと、なの? 」


 この学園は確かに名門ではあるのだけど、それでも、こんな典型的なお嬢様言葉を使うのは、ハナコくらいのものなんだけどね。


「サクラさん」


 我ながら卑しくも、ちょっぴりゲス心が顔に出てしまったのか、ぎぃっと振り向いたハナコの顔は、なんだか(いかめ)しいものでした。なによ、そんな怒らなくていいのに、こちとら女子高生よ、出会いの気配には敏感なんだよ、トキメキのチャンスやろ、分かれよ。


「……辛島さまには、気を付けてくださいね……あの方は、それはもう粗野で乱暴で……いいえ、殿方はみんなそう、汚らわしい、けだものばかりですわ(あぁ、鼠蹊部マラソンしたい)」


「そ、そう、なの? 」


「そうですとも(なだらかな道のりを経て)」


 ふん、と鼻から息を吐き出すハナコさんは、それすら絵になる、とびきりの美少女です、でも、男嫌いなのかな? クラスでも、あんまり男子と話さないし。勿体ない、モテモテなのにね、学年でも一二を争うのにね、主に胸が、ちくしょう。


「うん、きを、つけるね、ありがとう」


「うふふ、どういたしまして、さ、早く行きましょう(ゴオォール! )」


 きゅっ、と手を握られた、やっぱりスキンシップ多いなぁ……女の子同士とはいえ、こんな美少女相手だと少し緊張しちゃうね、なんか周りからも見られてるし、まぁいいけど。



 

 ()所無(どころな)い事情があり、この学園に転入した私ですが、今のところ、ボチボチやれてます、友達もできました。


 おばあちゃん、天国から見守っていてくれてますか?


 私は元気にしています、頑張っているのです。


 色々と大変だけど、うん、大変だけども、それ以上にワクワクする事がたっくさんあります。


 今日だって、ドアを開ければ、また新しい出逢いが待っているのです、ぐふ、イケメンですよ、きっとそう、頼むぜばーちゃん。


 さあ、いざゆかん、希望の明日へ、いや今日か。


「皆さん、おはようございます」


「お、おは、おはよう、ござます」



 しーん。



 あれ?



 なんだろう、いつもならハナコさんが現れたなら、早速に取り巻き連中が囲んでくるのに。というか、なんでみんな壁際に集まってるの?


 でも、がたり、と立ち上がった『それ』が原因だと、すぐに理解できたよ、直感とはおそろしいね。あいや、直感も糞もないか……ん? こら、クソとか下品な言葉遣い、いけないんだよ、レディよ、今の私は東京の農民じゃない、都会のお嬢様なのよ


「え、あ、あ」


 なんて、どうでもいい事を考えるのは、思考の逃避だろうか。のしのし、と歩いてくる『それ』は、なんだろう、誰だろうか、ああ、例の病弱なイケメンさんかな?


 うーん……イケメンといえばイケメンだろうか。身長は175センチくらいかな、体重は70キロちょい、うん、他人のサイズを目で測るのは密かな趣味なんです、けっこう正確だよ。


 黒髪黒目、がっちり細マッチョだし、悪くないね、イケメンというよりは男前と評したいけども、そうだね、悪くないよ、うん、いいじゃないか、好みのタイプだよ。


 ……顔面に刀傷がなければな!


 なんだよ、玄人か! おいよせ、その射殺すような眼をやめろ! こっちに向けんな!なんで微妙に左脚引きずってんのさ、戦場帰りか! ここはお前のような奴の住む世界じゃないよ、さぁ、早く森へお帰り。


 だからさぁ! なんで目の前にくるかなぁ、そっとしておいて欲しいのだけれど……分かった、分かりました、私が森へ行きます。


「辛島さん、おはようございます、サクラさんに何か御用ですか」


 この悪魔の前に、すい、と立ちはだかったのはハナコさんだ、やったぜ、任せた、君に決めた、我が敵をなぎ払え。


「ご用件ならば、わたくしが伺いましょう、ですから、その恐ろしげな……きゃっ! 」


 簡単に押し退けられてしまった防壁は、バランスを崩して近くの机に寄りかかる。ハナコォ! ちくしょう、役立たず、胸だけかよ、でもありがとう、ハナコさんは最初で最後の友達だったよ、きっと忘れないよ。


「……お前、佐倉サクラ、だな」


 うわ、声こわっ! まじで何人殺してんのよ、やだ、泣きそう、ごめんなさい、おばあちゃん、約束、守れそうにありません……そっちに行っても、怒らないでね。


 じぃっ、と見つめてくる黒い悪魔は、縦に傷の入った唇をゆっくりと開くのです。あ、これ死の宣告だわ、終わったわー、てか傷多いなぁ、マメンチサウルスと正面衝突しても、そうはならないぞ、いったい何やったの?


「お前は、今日から俺の彼女だ、そうなった……だから、離れるなよ」


「はあっ!?」


 ナイス代返、言葉を失くした私の代わりに、ハナコさんは見事なリアクションを魅せてくれたよ、さっき役立たずとか言ったことは謝ります、ごめんねごめんね。


 あー、でも、彼女かー、告白されたのは初めてじゃないけど、このパターンは流石に経験ないなー。いやね、こういう男も居るとは聞くけどね? それはゲームの中だけでしょ、ないわー、リアルでこれはないわー、ちょっと想定外過ぎて、思わず髪の毛括っちゃうよ、ポニテにするわ、明日から。


「あ、あ、の……い、い……」


 なので、この俺サマ殺人王子には、万感の想いを込めて、この言葉を捧げますよ、なんかもう周りも凍り付いてるし、聞いてる人も居ないでしょ。




「いやどす」



 はい噛んだ。



 


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