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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第1章
19/98

……お前に、サクラが殺せるか?

 お風呂っていいですよね、大好き。やっぱりね、直接湯船に浸からないとね、醍醐味ですわ、身体洗浄機もアリっちゃありだけどさ、なんかあれはね、こう、日々の疲れを癒す力に欠けるというか、ほっこり湯上がり美人感が足りないというか『上気した若いおなごの瑞々しい色気を感じさせてあの唐変木に少しくらいは私の悩みを思い知らせてやりたい大作戦』の妨げになるという理由にて却下します。


 やったぜ。


 まぁ、私がいま浸かってるのは、損傷細胞借替機(そんしょうさいぼうかりかえき)なんですけどね、ぷくぷく……ハナコさんの力で、学園にニ台しかないという、この超贅沢治療器に放り込まれた私は、折れた手足の修復中なのです。ちなみに、当のハナコさんは、自力で回復できるそうですよ? おかしいよね、確か、全身がバッキバキになってたとか聞いたんだけどね、そういやロボ君も平気そうだったな……まぁいいけどね、もう驚かないよ。


 しかし、呼吸器も無しに頭から……ん? 頭から行く必要あったのか? ハナコめ、また、ゴリラ的おっちょこちょいか……全裸でこのカプセルに落とされた時はね、よもや新手の暗殺かと、彼女を疑いもしたのですがね、なんだろうこのお風呂、水中で息ができるよ、なんでだろ、快適温度だし、ある意味死んじゃったよ、天国かよ。


 ぷしゅん、と滅菌ドアの開く音。誰かが治療室に入ってきたのでしょうか、お見舞いかな? あ、そうか 、なんで外の音が聞こえるのかと不思議に思ってたけど、お見舞いに来た人の声が聞こえるようになってるんだね、なるほどね。


「サクラさん……良かった、経過は順調そうですね」


 計器の数値はモリモリ上がっているのでしょう、おかげさまで、私は元気だよ、ありがとね、ハナコさん。見えないし、返事は出来ないけど、ちゃんと聞こえてるよ。


「明日には出られるそうだ、ただ、代替細胞の寿命は短いからな、安定するまでは自宅待機になるぞ」


 うん、さっき保健の先生に聞いたよ、あの赤いロン毛の、なんか幸薄そうなイケメンの人、結構若いし、女生徒から人気あるだろうな……なんて言ったっけ、そうそう、ケン先生だ、サクラ覚えた。


「サクラさん、正式なお詫びは、落ち着いてから、させて頂きます……わたくしが付いていながら、サクラさんを、また、恐ろしい目に合わせてしまうなんて……申し開きのしようもありません」


「おい、いい加減にしろ、また腹を開くつもりか、さっきから何度目だ、この腹軽女め」


 なんだそれ、新しいな、てか何度目って何よ、またやったの? 怖いからやめてください、ほんと、ハナコさんには一度、お腹の貞操観念について、しっかりとお話しする必要がありそうですわね?


「……なんだか、侮辱されているような気もしますけれども、今のわたくしには、反論する権利もありません……どうか、ご存分に、罵ってくださいまし……」


 あぁ、声だけで分かるよ、ハナコさんってば、すんごいションボリンヌしてるよ、そんなに気にしないでったら、ハナコさんが居なかったら私、こんな悠長にお風呂に浸かってる場合じゃなかったんだよ? 感謝してるよ、明日になったら、いっぱい伝えるからね、だから元気だして……というか、ロボ君よ、なんか言いなさいよ、フォローしろよ、その口は飾りかよ、友達が落ち込んでるんやぞ……友達だよね? いつも喧嘩してるけどさ、結構、相性いいじゃん、ねぇ、羊丼なら作ってあげるからさ。


「……失敗ってのは、取り返せるもんだろ、生きてればな……腹を切るのはいつでも出来るが、それは、捨ててるだけだ、逃げてるだけだ……少なくとも、俺は、そう思ってるし、今も、そうしてる」


 あれ、珍しい、ロボ君がそんなこと言うなんて……でも、うん、ちらっと聞いただけだけど、ロボ君が言うなら、なんか説得力あるよね、ハナコさんも、敗残兵とかの話は知ってるみたいだし、なんだ、うん、心配すること無かったね、ちゃんと、友達してるじゃん。


「……その考え方、正直、わたくしには、理解できません……ですが、辛島さま、あなたが、わたくしの事を励ましてくださっている事だけは、理解できました、ありがとうございます……ふふっ、少しだけ、見直しましたわ」


 ん? なんか、ちょっと、あの、大丈夫ですかい、発展しない? これ、大丈夫? 立ってない? いや、だからどうだとか、そういうことはないですけどね! なんやロボ君め、なんのつもりか、このすけこまし! 緊急排水ボタン押してやろうか!


「……辛島さま、教えてください、サクラさんのこと……わたくしは、サクラさんをお守りしたいのです、初めて出来た……おともだち、なのです、初めて、見てくれた人なのです、わたくしを、真っ直ぐに……ですから」


「駄目だ、お前は信用できない」


「っ、何故ですか! わたくしは! 」


 なんでだよ! まだ信用してなかったのかよ! おかしいやろ! この冷血漢! ロボ! にゃんこ一等兵!


「お前は、サクラを守らない」


「馬鹿なことを! 言わないで! 」


 そうだぞ! 何言ってるの! ハナコさんは、さっきもバッキバキになってまで、戦ってくれたんだぞ! 分かってんのか! 痛かったんだぞ! いくら治るからって、痛いもんは痛いんだぞ! いくらロボ君でも、言っていい事と悪いことがあるぞ! 本当におこるよ!


 もこもこ、と、お風呂の中で泡を吐き出す私の耳に、ロボ君の声が聞こえてきました。


 吐き出す泡の音のせいで、かすれてはいたのですが、それは、何故だか私の心に張り付いて、いつまでも残り続けていたのです。



「お前は、サクラの事を一番に考えている、サクラの為を想って行動する、だからこそ、信用できない」



 その時の、ロボ君の表情が見えなかったのは、幸運だったのでしょうか、それとも、不幸な事だったのでしょうか。天国のおばあちゃん、私には、分かりません。



「……お前に、サクラが殺せるか? 」




 分からないよ、おばあちゃん。





これにて第1章の完結です。

ここまでお付き合いしていただいた皆様には、なんやかんや感謝しております。

第2章については、少しだけお休みを頂きまして、明日から再開しようと思っております。


ワハハ


かしこ

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