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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第1章
18/98

……なんだ、匂いなら気にするな、前もそうだったろ?

 はい皆さんこんばんは、佐倉サクラです、ぴーすぴーす。


 いえ、もちろんね、状況は何も変わっていないのですがね、なんかこう、ロボ君が来るとね、気が抜けるというか、落ち着いちゃうというか、なんとなく、どうにかなるんじゃないかなって、こう、安心感? みたいなのあるよね……ちょっと漏れたけどね、ちょっとだからセーフだよ、内緒だよ。


 というかですね、こうして気を紛らわさないと、ホント痛いの、さっきまではね、気を張ってたからね、アドレナリンとかイソフラボンとか、脳内でドッパドッパだったからね、分からなかったんだけど、折れてるからね、これ、ポキポキに、あ、やばい、意識したら駄目だ、歯ァ食いしばれ! このサイコ野郎に、私が悶絶してるとこなんか、見せてやるもんか。


「くふ、くふふ、戦場(いくさば)だって……さすが、敗残兵は、言う、ことが、違いますね、すごいや、さすが辛島先輩だ、腹を切らずに、生き恥を晒した、唯一の、天領騎士ですもんね、無様に、東京まで逃げ回して……捕まってからは、なんでしたっけ? そうか『剣姫』の、性奴隷、してたんでしたね、本当に凄い、あんなの相手して、生きて、られたんですからね、すごいなぁ……その傷も、そのときですか? くふっ」


 ん? なんか、結構興味深いお話が……うぅん、ちょっとだけ気になるけど、人間、他人には知られたくない事もあるよね、私もそうだし……今のは聞いてない事にしよ、うん。というか、ホントこいつムカつくな、このサイコゲスパーめ! えぇい、ロボ君やっちゃって、こんな奴、ぎったんぎったんに畳んでやってください、私はハナコさんが気になるから、そっち行くから、さり気なくね、よじよじ。


「あ、そうだ、動かない、でくださいね、サクラさん、殺しますよ? だから、アンタは死ぬまで、までまで、動くなよ」


 ぐえ、捕まった。くっそ、ちくしょう、離せ、やったるぞ! そのブラブラさせてる気持ち悪いやつを、蹴っ飛ばしてやる!


 みぢっ。


「いっッッ!」


 痛ったい! なんて力だろう、握られた右の手首が、折れたのか? これ、いや、なんか潰れたっぽい音がした、あぁ、しばらくご飯、作れないよ、指もポキポキなのに、どうしよう、ウチの子はみんな大食いなのに……悔しいなぁ、私、なんにもできない。


「……それで、良いのか? 」


「はぁ、なんですか、いいですよ、動くなよ、喋るなよ、殺しますよ」


 つい、と丹波……あぁ、もう丹波でいいや、奴は空いた手をロボ君に向けて伸ばすと、そこから何かを撃ち出した。ぱん、と乾いた音の後、ロボ君の左肩が赤く弾ける。


 これは……唾弾撃(スピットファイア)だ、超圧縮超高速で体内の老廃物を飛ばすやつ、うわー、戦い方まで汚いな、こいつ。


「……サクラに、聞いて欲しい事がある、とか言ってたろ、言わなくて良いのか? もう言ったのか……なら、もう、思い残す事は無いんだな」


「え? ええ……くふふっ、ホント、馬鹿、ばっかり……笑えます」


 うん、そう思う、そこだけは同意するよ、でもな、お前よりは遥かにマシだぞ。


「もう、いいですよ『野良猫』が何を遠慮してるんですか、人間みたいに……ほら、何かしたいなら、やってくださいよ、出来ないだろ、大層な腕自慢らしいけど、何ができるんだよ、やってみろよ、やったら殺すぞ、コイツをさぁ! 」



「……サクラ、抜け、俺は信じてる」


 え? 抜く? 何を? ……あぁ、ロボ君の剣? え、でも、この中じゃ使えないとか言って……あ、そっか、穴が空いたから使えるんだ……えぇ、いやいや……いやいやいや!


 駄目でしょそんなの! 衛星軌道からだよ? 落ちて来るんだよ? そりゃ、それが出来るのが騎士だけどさ、キャッチし損ねたら、学校が無くなっちゃうよ? ハナコさんに言われたでしょ、使うときは、ぴったりくっ付いて使えって、苦い顔されながら言われたでしょ? この首飾り握ったら、私の頭の上に落ちて来るまで、コンマ1秒もかかんないんだからね? そっからじゃ間に合わないよ、そりゃ、信じてるけどさ、決めたけどね? 助けに来てくれたのは嬉しいけども、それとこれとは別でしょう、無理無理、ごめんなさい、心中したいなら他を当たってくださいませよ。


「ぎぃっ! こ、コイツ、馬鹿か!?」


 すぱっ、と私の手を離し、青ざめた表情の丹波が距離を取る。




 ……へ?



 え、やだ、私、握ろうとしてる。


 なんでだろ、手が、勝手に。


 ……あぁ、そっか。



「信じてるよ……わたしも」




 ぴいん、と、小さな発振音、そして、次の瞬間には、天井を突き破り、一本の太刀が降ってきました。とにかく一瞬の事であり、私が覚えてるのは、何か空気が重くなったような、全身を押されるような圧力のみだったのです。


 天空から舞い降りる剣は、膨大なエネルギーを抱えているのですが、その全てを関節と筋肉と細胞で吸収し、自らの力に変えるのが騎士なのです、そんなとんでもない事が出来るからこその騎士なのです。でも、普通に抜刀したとしても、それなりの衝撃波は撒き散らすんだもの、ましてやこんな条件では、ロボ君やハナコさんはともかく、私の身体は保たないでしょう……うぅ、ごめんねばーちゃん、でも、笑って生きたんだから、怒らないでね。


 ふわり。


 覚悟を決めて、ぎゅう、と目を閉じていた私の頬を、何か、温かなものが、優しく撫でたような気がしました。


「……よく頑張ったな……あとは俺に、ぜんぶ任せておけ」


 え? なに、今の? 風? それとも、なに?



「なん……いま、の……抜刀、したの、か? 」


 丹波の方も、混乱している様子、そりゃそうでしょうよ、私だってわかんないもんよ、え? 天井の瓦礫も? どこよ、ホコリも立ってないじゃない……なんて、優しい抜刀。


「さ、終わりだぞ、フルチン野郎」


 あ、訂正、訂正します、優しくは無いよ、すんごい冷たい声、見えないけど、きっと、眼の方も冷え冷えだよ、あんなん向けられたら、漏らしちゃうよ、もう漏れてるけど、ちょっとだけね。


「ばっ……やっ、やってみろ! 反転してやる! 返してやる! いいのか、サクラさんも、消えてなくなるぞ! そんなの駄目だろう、やめろよ、やめて! 」


 多分、丹波もそうだったのだろう、完全に萎縮しちゃってるよ、いろいろと……見てないけどね。


「結界、障壁、反転反射、そんなのは、幾らでも斬ってきた……吸血鬼も、な」


「僕は! おうに……」


 最期に、何か言いかけた丹波であったのだが、首だけでは、二の句が継げないだろうか、まぁ、呆れた訳じゃないだろうけどね。




 ぴょいん、と天井の大穴から、ロボ君の太刀が巻き戻されてゆく、宇宙(そら)に向けて、まるでロケットだ……いつも思うんだけど、アレって、どうやって飛んでるんだろ? てか、弩級刀とか言ってたのに、なんか普通のサイズだよね……もっとすごいの期待してたのに。


「立てるか? 立てないか、あっちのゴリラも……いや、あれは歩かせるか」


 ひょい、と私を抱え上げるロボ君は、相変わらず、アレでした。うん、おかしいよね、もっといたわれよ、ポキポキやぞ、まずさぁ、甘くってさぁ、優しい言葉をかけてからさぁ、涙を拭ってさぁ、そっと抱きしめろよ、そしたら落ちるんだからさぁ、簡単でしょうに……もう、歯がゆいなぁ、ちくしょう、なんかモヤモヤするだろ、すっきりさせてください。


 この王子様に不平不満はあるのですが、また助けてもらっちゃった訳だし、ハナコさんの事も気になるし、あちこち痛いし、とっても痛いし、ひとまずは我慢しとこう、ぐぬぬ、いまにみてろよ。とはいえ、意思表示だけはしておかねばならないのだ、私は、しかめっ面を彼に見せて、嬉しさと恥ずかしさを隠し通す事にした……まぁね、ささやかな乙女の抵抗ですよ。



 ありがとう、ね、ロボ君。




「……なんだ、匂いなら気にするな、前もそうだったろ? 」



 んん? いま、なんて?



 ……えっ? えっ?




 ぎやぁぁぁあぁぁっ!!





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