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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第1章
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……血抜きをどうするか、それが問題だな

「ですが、はっきりと分かりましたわ、ええ、連続誘拐事件の犯人が分かりましたとも、丹波ジン、中等部三回生、丹波重工業の常務執行役員、家柄的にそう問題のある相手ではありませんし、明日の朝一番に確保して、取り調べと……いえ、そう、その前に……報いを……まずは、自らの犯した罪科が、どれ程に許されざるものなのかを、思い知らせてっ……」


「すとっぷ」


 どすっ、と、私の必殺技(えくすかりばー)が炸裂し、舌を噛んだハナコさんは、嬉しそうに悲鳴をあげるのです、なんでだよ。


「相変わらず馬鹿な奴め、今の話を聞いて、どうしてそうなるんだ、そもそも、疑うとしても女の方だろうに……そんな事だから『怪獣ゴリラ』なんて呼ばれるんだぞ」


「ぶふっ」


 ちょ、やめて、なんで被ったの、エスパーかよ、わたし、声には出してないぞ、あ、無理、これツボに入っちゃった、ぶふふっ。口を押さえて身体を曲げる私に、しかしハナコさんは、何やら満足気な表情なのです、ちょっと、だからなんでだよ、なにロボ君に向けて『よくやった』みたいな顔してんのよ、やめて、そういうの、私弱いんだから、くふふふっ。


 今日は我らが新居に向けて、初めての帰宅中、今まで住んでた女子寮より、少し遠くなってしまったのだけども、やっぱりウキウキするのです、だってさ、初めての道、初めての景色、初めての家に、それに、それに、初めての、友達との、新しい生活なのですから。ううゥー、どうしよう、こんなん、楽しみに決まってるよ、さっきから妙にテンション高いのも、変な笑いのツボにハマっちゃうのも、きっとそうなんだよね、うん、楽しいんだ、ワクワクしてるよ、私。



 新しいおうちのある場所は、高級住宅地ではありません、未だ開発途中なのか、綺麗に整地された区画内には、ぽつぽつと空き家が立ち並び、人の住んでいる家にだけ、ガイドレールと街路樹が繋がっていました。そして見よ、その、一番奥にあるのが我が家なのです! ベニカナメモチの低い生垣から、にょっきりと覗く白くて四角い飾り気の無い建物、剛性漆喰壁の上には、南国情緒溢れる赤い耐爆瓦! 白い強化木材の窓枠! かっこいい! 素敵、お庭にはまっさらな芝生と……あれは……ああっ!


「もこたん! 」


 ただっ、と駆け寄り、私はその白い生物を抱きしめました。やったぜふかふか、お日様の匂いや! ちくしょう可愛いなぁもう。


「もこたん、今日から一緒だよ! お留守番ありがとね、お庭、綺麗になってるよぅ! 」


 めぇめぇ。


 なんとも可愛らしく鳴くこの子は、合成羊のもこたん、我が家の庭師兼番人兼愛玩動物なのです! かわいい! やわっこい。先日、家と一緒にロボ君に頼み込んで購入したのですが、少々荒れていた庭木も芝生も、彼女が綺麗に食べ揃えてくれました、うぅん、有能だよ、かわいいし……おっと、しかし、まだ驚くのは早くてよ? この合成羊ちゃんはね、庭のお手入れから害虫駆除、番犬がわりにもなる上に、なんと、可愛いのだ! どうだびびったか、ほめたたえろよ、ワハハ。


 てろり、と、カメレオンのように長く伸びる舌で、私の頬が、ぺろぺろと舐められる。合成羊ちゃんは、こいつで虻蜂蝿蚊からゴキゴキまで、全てやっつけてくれるのだ、なんたる有能、まさに万能、一家に一台だよね、くんかくんか。


「サクラさん……その、あまり触らない方がよろしいかと……その、そういった家畜は、色々と汚れていますし、その、なんと言いますか、においが移ってしまいますわ」


「やだ」


 おやおやぁ? お嬢さまは生き物が苦手でしたか? ぐふふ、こいつぁイイぜ、この子は私ルームで飼うとしよう、あの怪獣ゴリラから、ぶふっ、ちょっとまって……ゔぅん、私を守る番人となってもらいましょう、えへへ、今日は一緒にお風呂もはいろうね。


「匂いはともかく、あまり情を移すなよ? とりあえず庭の手入れが済んだら解体(ばら)すんだからな」


 ……ん? なんだって? ぱちくり。


「まぁ、ちょっとした引っ越し祝いだ、鍋にでもするか、華村は料理もできるとか言ってたが……本当に大丈夫なのか? 最初に言っておくが、もし、食い物を粗末にしたなら戦争だぞ、見栄を張ってるなら今のうちに謝っとけよ」


 ……んん? ちょっと待って、なんかおかしいから。


「はぁ……全く、これだから中京の騎士は嫌いですわ……どうせ、天然肉の味も分からず、生で噛り付いていたのでしょう? なんて野蛮な……ですが、そうですね、不本意ではありますが、今日からはひとつ屋根の下、同じ膳を食む仲ではありますし……ふふ、わたくしの腕前を、披露して差し上げようかしら」


 ねぇ、ひょっとして、ひょっとしてだけど、いやいや、まさかね、食べるとか言わないよね?


「……まぁ、過度な期待はしないでおくが……二日目は羊丼にするか」


「羊丼! それは、聞いたことがありません、いえ、想像はつきます、牛丼のような食べ物ですわね、あれは、素晴らしいものだと理解できました」


 おいこら、おかしいやろ。


「甘いな、米の代わりにうどんを使うぞ」


「おうどんを!?そ、それは、いったいどのように、甘いのですか、醤油とお砂糖の、黄金の……」


 こいつら、食いもん絡むと仲良いな、でも、食べないからね、肉くらい買ってこいよ、合成肉を。


「トマトが肝だ、旨いぞ」


「とまと! どんぶりに! 」


「たべないよ!?」


 ぷるぷる、と震え始めるもこたんを強く抱きしめ、私はきっぱりと宣言するのだ。かわいそうに、怖かったね、でも、大丈夫、あんな怪獣達の胃袋に、もこたんは渡さないよ、渡さないからね。


「……ちょっと、何言ってるのか分からないな」


「ちょっと、何を言われているのか分かりませんわ」


 わかれよ! 食べないっつってんだろ! ペットやぞ! うちの子やぞ! そりゃ、昔は食べた事もあるけどね、美味しかったけどね! 食べる用とおうち用は違うの! ばーちゃんだって、絶対に一匹は残してたんだぞ! たまに見つめて葛藤はしてたけどな!


「……いいか、サクラ、そいつはな、旨い肉だ、庭の手入れくらい、ホーミングレーザー虫取り付き自動剪定機があるだろう、食べる為に買ってきたんだ、食べるだろう、旨いぞ、羊丼が歩いてると思えよ、旨いんだから」


「たべないよ」


「サクラさん、ペットを飼うなどと、もはや過去の風習ですわ、知育だとか情操教育だとか言う人もいるでしょうが、三年前のクレイジーパンダ病害、未だ後遺症に苦しむ子供もいるのです、あれも、隠れて捨て子パンダに餌をあげた、心優しい少年が原因でした、不幸な事件でした……それはそれとして、その羊は食べてみたいので、羊丼にしましょう」


「……たべないよ! なんでちょっと真面目な前フリしたの! 神妙に聞いちゃったよ! たべないからね! たーべーまーせーんー! 」


 お、おおう、いま気付いたけど、なんかやけにスラスラしゃべれたな。勢いって大事、そうか、これが母性か、母は強しだね、やったぜ、明日にはぼいんぼいんだよ。


 ロボ君とハナコさんは、それからも色々と、説得という名の食欲丸出しトークを続けていたのですが、私が折れる事は無いと、ようやくに理解できたのか、大きく息を吐き出したのです。やれやれ、こっちがやれやれだよ、全く、これは譲れないからね、最初からそう言ってくれてれば、また違ってたんだけどね……んん? なによ、なに笑ってんのよハナコさん、というかロボ君までちょっと笑顔だし、何か面白いことあったかしら? 変なの、それとも、やっぱり二人もテンション上がってるのかな、そうね、そうかもね、ふふっ。


「……まぁいいか、気が抜けた、羊肉は明日買ってこよう、とりあえず荷物解く前に飯にしようか、腹減っちまった」


「ええ、賛成ですわ、今日は簡単なものを作りますから、お二人は部屋割りを決めておいてくださいね、あと、サクラさん、その羊、お風呂に入れては駄目ですからね、家畜用の洗浄機を明日買いにいきましょう」


「ええ……う、うん、わかった、よ」


 う、釘を刺されてしまった、仕方ないか、食べられるよりはましだと考えよう、さっきは我儘言っちゃったし、こっちだって妥協しないと不公平だよね。でも、明日からは私ルームの番をさせるからね。


 いやはや、しかし初っ端から、わたわたしちゃったなぁ……でもまぁ、良かったよ、一安心だね、もこたんの愛らしさは、少しづつ分かってもらうとするよ。んで、晩ご飯はなにするの? わくわく。


 モッコモコのもこたんに、ぴょいんと飛び乗り、私は彼女の背中の匂いを堪能するのだ。ううん、やっぱり落ち着くよ、東京を思い出すね……う、何だよ、ロボ君、なに見てんのよ、あげないよ、たべないからね? というか、なにその優しげな目、そんな目もできたのか……いつもしかめっ面してるから分かんなかったよ、勿体ない、普段から、そうしておけば、結構……かっこい……ん?


 いやいやいや! ほだされんな私! あっぶな! なに今の、なんだいまの、なに考えた、いや、最後まで考えてはいなかったからセーフ、セーフです! 落ち着け私、とりあえず顔は隠せ、何色だか分かんないからね、おっとこれだ、サンキューもこたん、やっぱり有能だよ、よし、背中に埋めとこう、もこもこ。


「そうか……風呂か……茹でれば、バレないか? 設定を間違えたふりして……」


 はい聞こえた。


「……血抜きをどうするか、それが問題だな」



 はい前言撤回、色は分かった。



 赤くなってたよ……怒りでな!



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