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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第1章
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……味が、しないよ

 西京の北に浮かぶ孤島、聖十字学園は、通称『学園島』と呼ばれる大きな島である。その名の通り、この島全体がひとつの教育施設であり、初等部から大等部まで、貴人要人有名人、およそ一般市民とはかけ離れた者達の子女が、集まって生活しているのだ。


 なので、本来ならば、私のごとき、どこの馬のボーンともつかぬちんちくりんが入学できるような場所ではない。およそ50万人程の島民達も、その全てが学生達の生活を支える為に存在しており、飲食店から娯楽施設、ちょっと違法なあれやこれやまで、この島に無いものは無いとまで言われているのである。


 おばあちゃんの葬式直後、訳も分からぬうちに拉致され、西京の装甲港から超電磁水上翼船に揺られる事、1時間と45分、私はこの学園に放り込まれ、今も訳の分からぬままに、なんとかどっこい生きているのだす。


「わからないこと、だらけだよね……」


「そうですね、先輩、頭悪そうですし」


 はい、かっちーん。なんなんコイツ、後輩のくせになまいきだぞ、というかね、今いちばん分からないのはね、シャーリーくんの存在なのだよ? そこのところ、分かっているのかね? チミぃ。


「……あの、なんで、いっしょ、に? 」


 合成牛丼のどんぶりを抱えたまま、おそるおそる、私は問いかけるのです、なんだよ、いいだろ、怖いんだよ、だってさ、この子も結構なアレだよ? 昨日あんな別れ方したのに、なんで同席してんの? まさか牛丼狙いか? あげないよ?


「ボランティアです、お構いなく、むしろ僕が構ってあげてるのですからね、どうせ、寂しくひとりご飯だったんでしょ」


 ぐぅ、なんて失礼な子だ、いくら本当のことだとはいえね、残酷な真実から目を背けている相手にね、それをあえて突き付けるというのはね、とても、残酷なことなんだぞ、やめてください、お願いします。


 今日の昼食も、いつものオープンカフェであったのですが、いや、爆弾おにぎりや牛丼のあるカフェってのも、いかがなものかと思わなくもないんだけどね、とにかく、明日からの共同生活を前に、仕事を片付けたいと張り切るハナコさんは、昼食もとらずに活動しているらしく、孤独にグルメ中の私を見かねたシャーリーくんは、隣の席に腰を下ろした、と、いう事らしい、なんだ、良いとこあるじゃん、でも、もう少し愛想よろしく。


「う、うん、ありがと、シャーリー、くん」


「……くん? 」


「ほわっ!?ご、ごめ……」


 うわ、しまった、思わず普段の呼び方で、でも、ズボン履いてる方が悪いんだからね、脚出せよ、いいから出せよ、目の保養になんだろ、うへへ。


「まぁ、いいです、呼び方は気にしてませんから、ただ、見下してる相手にくん付け呼びされて、少し気に障っただけです、気にしてません」


 気にしてるやん、超気にしてるじゃん、なにこいつ、毒舌属性も持ってるのか、そうまでして目立ちたいのか、このいやしんぼめ、牛丼はあげないよ。


「へぇ……子猫ちゃんとハム子ちゃんとは、変わった組み合わせだね、これはお得だ、おにいさん、両手に花してもいいかな? 」


 キラリと歯を光らせた美形笑顔(イケメンスマイル)、特盛りの栄養ランチを抱え、金髪碧眼のイケメンが現れた。……あれ、この人誰だっけ? どっかで見たイケメンさんではあるのだけど、私、記憶に無いなぁ、こんなイケメン、忘れるはず無いんだけどなぁ。


「駄目です」


「マコっちゃんはつれないねぇ、あ、サクラちゃん久しぶり、今日は怪獣と一緒じゃないのかい? 助かっちゃったな、流石に三人も相手したんじゃ、おにいさん、真ん中の手を封印解除しなきゃならなくなっちゃうからね」


 うん、何処から突っ込んでいいか分からないけど、とりあえずしばこう、あと、こいつは変態確定だ、名前は思い出さずにおくからな!


 おぼろげな記憶の海から浮上しかけた彼の名前を、私は忘却の海に投げ込んだ。だが、しばく事は忘れんぞ、やったるわ。


 戦闘態勢の私が腰を浮かせた瞬間に、ぱぁん、と、まるで味海苔の袋を叩いたかのような破裂音。なんだ、どこだ、袋を開けたのか、そんなトッピング知らないぞ、私も欲しい。


「ウォーレン先輩、食事中です」


「あはは、ごめんごめん……また速くなった? 育ち盛りは怖いなぁ」


 二人の様子に変化は無いのだが、なんだろう、少しだけ、ピリピリと空気が震えてるような……なんだろ、これ。


「相席も許可した覚えはありません、消えてください、そのゲス顔は1ナノセコンドだって視界に入れたくありませんので」


「あはは、シャーリーちゃんも手厳しいな、これでも辛島よりは、造りが良いつもりなんだけど」


 びきっ。


 あ、これ、気のせいじゃない、なんか割れてる、なにこれ、ひょっとして、二人とも……騎士? なの? ちょっとやめてよ、どんだけ居るのさ、一般人には、映像以外でお目にかかれないはずでしょ。


「二度はありません、次は殺します」


「うわ、怖い怖い、悪かったよ、そんなに怒るなって……全く、あんな朴念仁(ぼくねんじん)のどこが良いのやら、ねぇ、サクラちゃん? 」


 そうだそうだ、もっと言ってやれ、ロボ君は朴念仁だ、唐変木(とうへんぼく)でスットコドッコイや……でも、変態よりは遥かにマシやぞ! この変態! なんで私の名前知ってんだよ、名乗った覚えは無いったら!


「まぁ、俗物には理解出来ないでしょうね、仕方ありません、教えてあげましょう、せんぱいの素敵なところを……あの人を見ると、ね、疼くんです、熱くなるんです、僕の、ここが」


 ……俗物ゥ! お前こそが俗にまみれとるわ! いや欲か、一瞬だけ考えたけどね! もういい、もう分かりましたー、キミも変態だわ、いや、正直なのはよろしいけども、おかしいやろ、赤裸々すぎんだろ、恥じらいどこいった、落としたんか、早く交番行っといで、もうヤダこいつら、騎士ってのは変態ばっかりか!


「……子宮も無い出来損ないの、いったい、どこが疼くって? 」


 えっ?


 いま、なんか、なんだろう、すっごく、すっごく、ドロッとしたような……悪意? なんか、なんか、嫌な感じがした、金色の前髪を指先で捻りながら、薄く笑うウォーレン先輩の顔には、いや、確かに物凄い美形だし、シャーリーくんと二人並べば、兄妹にも見えるだろうけども、何か、ドス黒い感情が渦巻いていたのだ。それが、あまりに深くて、暗くて……私は、何かの聞き間違いだろうかと、白昼夢でも見たのだろうと、錯覚するほどに、現実味のない光景だったのです。


「だから言ったでしょう、俗物には、理解出来ないと」


 がたり、と席を立ち、食器を抱えてシャーリーくんは背を向ける。意外な事に、先程のような怒りは見せておらず、その、制服の上からでも分かるほどに芸術的な背中のラインにも、震えひとつ、揺らぎのひとつも確認できない。


 ただ、いつものように、去り際に一言、ぽつりと漏らすのだ。


「……ことが済んだなら、捻じ切ります」




 なんだか、すっごく疲れた気がする……正直、この人にはもう関わりたくない、そもそも、この迷惑な先輩が来なければ、もう少しは友好的なムードにて、彼女と食事を終える事ができたはずなのだ、迷惑だ、迷惑極まりない、くそぅ、ロボ君め、どっかで見てるだろうに、なんで助けに来てくれないのさ、ピンチだったんだぞ、王子さまやろ、助けてよ。


「そんな、迷惑そうにしないでくれよ、せっかく助けてあげたのにさ」


 ん? 助ける? 誰が? 誰をさ?


「サクラちゃんに、ひとつだけ忠告しとくよ……あれにはもう、近づかない方が良い、見境のない狂犬だよ、あれは、後先何も考えてないんだからね……まぁ、個人的には嫌いじゃないんだけど」


 クスリ、と笑う先輩は、グラスに残った最後の水を一息に呷る。おおぅ、早いな、なんだ、いつの間にたべたの? ちゃんと噛みなさいよ、というか、ちょっと、人の不安だけ煽って立ち去るなよ、なんだよ、やめてよ、私が何したっていうのよぅ……もうやだ。



「……味が、しないよ」



 三杯目は、食べられませんでした。







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