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ロボ君と私的情事 作者:露瀬

第1章

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気持ち悪い

「せんぱーい」

 世の中には『ギャップ萌え』なる感情の揺らめきがあるそうですよ、まぁ、分かる話かもしれません。

「せぇーんぱぁーい」

 普段見せるものとは違う仕草、言動、その落差に覚える意外性、それによる驚き……これが好印象に変換される場合も多々あるでしょう。例えばロボ君みたいにヤクザな男が、可愛らしい熊のぬいぐるみとか抱えて寝てたらね、そらもう気持ち悪いですわ、キュンキュンきますわ、嘔吐感が、おい、限度ってものがあるぞ、よさないか私の妄想力。

「もぅ、無視しないでくださいよー」

 まぁ、今のは例えが悪かったとして、確かにね、普段はちょっと素っ気ない、クールな感じの女の子がね、満面の笑みを浮かべてたりなんかしたらね、そりゃもう驚きますわ、キュンキュンしますわ、それが美少女ならね、尚更ですよ。

「可愛い後輩が声かけてるんですよ? 気付きましょうよー、笑いましょうよー、挨拶がわりに抱き締めましょうよーぅ」

 ……誰だお前!?いや、見覚えはあるよ? こんな美少女ね、一度見たら忘れませんことよ、金色ゆるふわボブでぷりぷリップのシャーリーくんだよね? おかしいよね? お昼に見たばっかだよ? 君はそんなアレじゃなかったよね? もっとほら、ちょっと素っ気ない感じの、無口系女子だったやろ、セリフの後に四分音符どんだけ浮かべる気だよ。

「ありゃ、抱き締めてくれないんですか? んー、じゃあ、こっちから……なーんて、ハグしてもらえると思いました? ざんねんでしたっ、そーゆーのは、男の人から来てくださいね、甲斐性(かいしょう)ですよ、待ってます」

 ちっちっ、と人差し指を振りながら、ロボ君の顔を下から覗き込む美少女は、いひっ、と悪戯っぽく笑うと、何事もなかったかのように、彼の隣に並んで歩き始めるのです。今日はハナコさんが例の調べごとに参加するとかで、女子寮までロボ君に送ってもらい、あわよくばそのまま引越しの手伝いを……仕方ないやろ、まだ手が痛いんだから、重いものくらい持って欲しいんだもん……とにかく、二人して帰宅中だったのですが。

 なんだこれ。

 いやいや、落ち着け、慌てるな、ひょっとすれば双子の姉妹ってこともあるだろう、もしくは第二の人格か、うん、そうだね、中二病だもん、そっちの線もあり得るぞ……若干、仮面(ペルソナ)のチョイスがおかしいけどな!

「なんだ、何か用か」

「うっわー、つれない、相変わらず反応悪いですよ、せんぱい……やっぱり、スカートの方が好きなんですか? 履きましょうか? ……うーん、でも、せんぱい以外の男の人に、あし、見せたくないなぁ……あ、ドキッとした? 今の、ドキッとしましたか? したでしょう、しませんか、つれなーい」

 にっこにっこのシャーリーくんは、満点笑顔ですわ、ほんと、なんだこれ、別人やろ、今なら108点はありそうだよ、でもなんか、落差があり過ぎてクラクラしてきた、ブラックアウトしそうだよ、いや、レッドインかな。

「あの、あの、シャーリーは、いつも、こんな感じだから、その、サクラさんを、驚かすつもりじゃ、ないと思います、から」

 そうなのだ、下校中、突然に現れたのは、昼間に見た三人組なのである、えぇと、なんて言ったかな、この子は。

「そういえば、後で自己紹介すると言ったままでしたね、シャーリー(マコト)です、よろしくお願いします」

 ロボ君の陰から、ひょいと顔を覗かせた彼女は、一度だけ小さく頭を下げると、話は終わりとばかりに、再び彼に絡み始めるのだ。

「そもそもー、学校きてるならそう言ってくださいよー、いつも言ってるのに、なんですか、いつからですか、可愛い後輩とお喋りするチャンス、無駄にしてたんですかぁ? どうせ、他に話せる人もいないくせにぃー」

 ……だから、落差! なんやこいつ、おかしいやろ! 猫かぶってんじゃなかったのかよ! 素なのか、ただの変なやつかよ、ちょっとだけ、あざと腹黒そうだな、とか思ってごめんなさい!

「あはは……そのうち、慣れますから、たぶん、あの、それで、僕は丹波ジンと言います、その……彼女は、ああなるとしばらく離れませんから、その、よろしければ、少し、おはなし……」

「丹波ァ、今日は買い物付き合う約束だったよね……初めまして、私はエリアポール噴亭(ふんてい)です、エリアで構いません、そういう訳ですので、失礼します」

「えっ、あぁっ、エリア、待って、少しだけ……すこしだけだから」

 ずりずり、と引き摺られてゆく丹波くん、あらら、もうすでにお尻に敷かれちゃってるね、彼女、図書委員みたいな見た目なのに武闘派なのかなぁ、でも、なんだろ、なーんか、目が、気になるなぁ……怖がってた? 私を? いや、違うな、なんだろう、あー、彼氏を取られちゃう的な、あれかなぁ。でも安心してください、今の私に、そんな余裕は無いのです、不本意ながら、ぐぅ。

 というか、なんで丹波くん、私の名前知ってんだよ、言ってないよね? 私まだ、挨拶してないよね? こわいわー、マジこわいわー、やめてよホント、なんなのここの学生の調査力、やたらと死亡事件に巻き込まれる少年探偵か。

 なんだか疲れてきた私は、手のひらでほっぺたをマッサージしていたのですが、ふと、前を行くロボ君の脇から、こちらを見つめる美少女と目が合うのです。ひぃ、やめて、真顔はやめて、点数下げるぞこのやろう。

「ねぇねぇ、せんぱい、この人とは、どーゆー関係なんですか? 」

「彼氏彼女だ」

「ふぃっ!?」

 ちょっと! やめて、迂闊なこと言わないで、というか、なんかやめて、はず、恥ずかしいやろ! ロボ君はいつもいつも、なんのつもりか! 外堀から埋める気か、遣り手の戦国武将か!

「えー、うっそだー、そんな冗談、騙されませんよー」

 しかし、シャーリーくんの方は、例の悪戯っぽい満点スマイルなのです。ん? 冗談なのかな、そういや、なんとなく怖いからまだ聞いてなかったが、そもそも、ロボ君がなぜ、その……か、彼氏、とか? 言い出したのか、まだ聞いてないよ、いや、冗談ならいいんだけどね、まだ私、赤くなってないし、セーフやで、赤くなるなよ。

「冗談のつもりはないんだが」

「ぶぶー、不正解ー、だって、せんぱい……その人のこと、好きじゃないでしょ? 」


 ちくり。


「それじゃ、恋人同士とは言えません、てゆーかせんぱいって、人を好きになった事あるんですか? ないでしょ? 無理ですって、わたし、知ってるんですからね」

 シャーリーくんは、クスクス笑います。でも、そうだよね、確かにね、見れば分かるよ、うん、分かってた……だってロボ君は、私のほう、見てないもん。

 だから、これは、裏切りじゃないし、騙してる訳でもない、そうなのだ、彼はただ、私を守ってくれてるだけ、理由は分からないけれども、ね。だから私は、それに甘えてる、感謝してるし、申し訳ないとも思ってるけど、そこから、目をそらしていたのだ、ああそうだ、そうなのだ、今、気付かされたよ、なんだ、わたしって、意外と馬鹿だなあ。

「確かに、好きではないな」

「ほら」

 ちょっと! だからってトドメを刺そうとすんなよ、そこは大人の対応しろよ、傷口には触れないように、有耶無耶にしつつも距離を取れよ、自然消滅だろ、分かんないかな、もう、だからロボなんて呼ばれるんだぞ、だから、そっとしておいてよ、流石の私も泣くぞ、というかもう涙出てきてる、なんだよ、止まってよ、知ってたんだから悲しくないったら、かなしく、ない。


「だから、これから好きになる」


 ぐい、と、突然に引っ張られた。

 肩を抱かれて胸に押し付けられた。

 強引、なんて強引。

 そして自己中心的。


 ……馬鹿だなあ、そんな勝手が通るわけ無いじゃん、ホント、人のこころが分かってないんだから。そもそも、ロボ君がどう転んだって、私がどうなるかは、わからないんだぞ、誰にも、わたしにも。

「わ、わたし、も、好きじゃない」

 だから私は、力いっぱい彼の胸を両手で押して、遠ざけるのだ。そんな簡単な女じゃないんだからね、ふん、甘く見るなよ。

 でも、涙は止まっちゃった、ありがとう。

「これ、からは……わか、んない」

「……そうか、期待しとこう」

 あ、いま、少しだけ、ほんの少しだけ、笑った? うわ、笑えるんだ、うわ、ちょっと失礼だけど、うわ、うわぁ。

 ぽっかりと口を開けてしまった私を見たせいか、シャーリーくんも呆れ顔なのです、まぁ、仕方ないよね、逆の立場でも、きっとそう思うよ、ごめんね。

「ふぅん……まぁ、いいですけどっ、でも、気を付けないと、そうなる前に、終わっちゃうかも知れませんよー……あとあと、やっぱりね、思うんですけどー」

 ぽいん、と跳ねるように振り向いたシャーリーくんは、そのまま走り始めた。右手を高く上げて走り去ってゆく彼女の、でも、その声は、風に乗って、私にもはっきりと聞こえたのです。


「気持ち悪い」


 可愛らしい、声でした。




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