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自序
そこは、まっしろな場所でした。
まっしろな空、まっしろな大地、どこまでもまっしろで、地平線も水平線もありません、いえ、本当に空と大地があるのかも分からないでしょう。
でも、辛うじて、上と下があるのは分かりました、何故ならば、まっしろな世界の真ん中に、小さな鏡台が置かれていたからなのです。
欅で作られた、茶色の古めかしい一面鏡、小さな椅子にも背もたれはありません。
鏡台の上には、銀色に輝く杯と、一冊の日記帳。
こんな場所で、いったい、誰が日記をつけていたというのでしょう。
なので、その人が不思議に思ったのも、仕方ありません。
なので、その、まっしろな人は、それを手に取り、ぺらぺらと捲り始めるのです。
ほんの少しの、期待をこめて。