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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第二章 師匠 - 役立たず晴佳と魔法茸屋ソノップ
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0027 野営 #03

 竈と焚火の火、それから簡易屋根(タープ)の上に(とも)された『燃やさない』炎などの(あか)りの中で、(はる)()たちは食事を摂った。


 晴佳の捏ねたパンはおおむね好評だった。

 晴佳自身はもう少し塩気が多い方が美味しいと感じたが、スープの干し肉の塩分なども考えると薄味の方がいいのかも知れない。何よりも、ラフィが「……ぎりぎり、合格」とつぶやいたことが嬉しかった。


 ウィーテとラフィが絞ったジュースは爽やかな味わいだった。何種類かの土地の果物と、数種の香草(ハーブ)で作ったらしい。

 あの果汁の多いシダレットという果物も入っているのだとジェラーノが教えてくれる。


「体の中から浄化するハーブも入っているのよ」とレグが説明する。

「あたしたちは物見遊山の旅じゃないわ。北の巫女さまにお会いするというのが最重要目的だから、その障害になりそうなものは極力排除しなければならないの」


 野営の時には特に、浄化や守護などの効力のある食べ物や呪符など、なんでも利用すべきだとレグは考えているらしい。



 ――それなら何故、俺なんて拾ったりしたんだろう。諜報員(スピオン)かも知れない者ならその場に捨てて行けばよかったじゃないか。しかも今じゃ立派なお荷物だし。




「何か言いたそうだな? ハル」とロードが晴佳を見て首を傾げる。


「ひょっとしてまだ納得できないのか? だがやはり茸体(マシュ)は――」

「あ、いえ、それはまぁ、あれですけど……」


 晴佳は慌ててロードの言葉を遮る。

 気に掛けてもらっていること、心配されていること自体が晴佳の負担になるなどと言うのは、贅沢もいいところだ。



「ハルどうしたの? わからないことがあったら何でも訊いてもらって構わないのよ?」とレグも食事の手を止めて晴佳を見る。


 晴佳は、何か代わりになりそうな質問を……と考える。


「あ、そうだ、あの、今更なんだけどさ。なんで俺のこと『ハル』って呼ぶんだ? 確か俺が起きた途端に呼んでたよな」



「あぁ、そんなこと――ハルを拾った時、あなたに名前を訊いたのよ」

 レグはこともなげに答えた。


「え、いつの間に」

 晴佳には訊かれたという記憶がない。



「前にも言ったけど、その時は諜報員(スピオン)かも知れないっていう疑いもあって――気絶してるから、丁度いいかなって」


 てへ、というオノマトペが付きそうなわざとらしい笑顔でレグは言い訳をする。

 諜報員という言葉に晴佳はピクリと反応したが、どうやら今の口振りではいずれにせよそれを理由に捨て置くことにはならなかったようだ。



「……まあいいや。で。『晴佳』ってのは、こっちでは発音しにくいのか?」

 少しだけ安堵して晴佳は続ける。



「あぁ……そうじゃないんだけどね。まだちゃんと口が動いてなかったようで、『ハルクァ』に聞こえたの」


「はるくぁ?」


「そう。こっちでは『役立たず(ハルク)』って言葉があって……その役立たずをひとまとめにして指す言葉で、揶揄やちょっとひねくれた愛情を持って使われるのが『役立たずども(ハルクァ)』という――あの、宿の酒場で飲んだくれているような男たちのことを指す言葉なのよ」


 レグは少し言いにくそうにうつむく。



「ひでー偶然だな。まあ実際、俺は役立たずだけどな」


 晴佳は笑った。しかしレグは顔をしかめる。


「ここの男どもは実際役立たずも多いわ。黙っていても最低限の生活は保障されているし、結婚すれば更に安泰よね。むしろ女性の方が職を持たない場合の不安におびえているかも知れない」


「うん?」


「でも男性だって、決して無職という立場に甘えているわけじゃないのよ。茸採師(オフスタ)蜂蜜採り(イムキア)もほとんどが男性だし。ただ、男性に合う職が少なかったり、危険なものが多かったりするだけで――だから、決して、自分のことを役立たずなんて言っちゃ駄目!」


「お、おう? ってか俺は一応、修業中の身なわけだし……」


 自嘲のつもりではなかったがレグの勢いに気圧され、晴佳はたじろぎながらこたえる。もっとも、まだその修業とやらも始めてはいないのだが。


「あ、そ、そうよね……まぁ、今は役に立たなくても、修業を積めばいつかきっとできるようになるわ。ハルならね」


 なんだかよくわからない展開になってしまったが、誤解されるような名前よりは、あだ名と同じ『ハル』が通り名になる方が晴佳(じぶん)にとってもいいことなのだろう。晴佳はそれで納得することにした。



「修業と言えば――直接茸採師には関係ないかも知れないが、護身術や剣術程度なら私にも教えることはできるぞ。どうだ、ハル」

 スープの器を膝に置き、ロードが口を開く。


「え、それって――」

「いつまでもお守りされてるんじゃなく、自分のケツは自分で拭けって話だよ」


 テラーが口を挟み、途端にレグに睨まれる。「食事中よ、テラー」


「……言い方はよくないが、そういうことでもある。私たちもいつまでハルと一緒にいられるかわからないからな。北の巫女にお会いする前に別れることになる可能性だってないわけじゃないんだ」


 晴佳は目を丸くする。

「えっと、俺もその『北の巫女』さまのところについてっていいの?」



 ――俺なんて余所者で、しかも役立たずのお荷物なのに?



 一人増えればその分食料も必要になる。当然経費も余計に掛かる。それならば適当な街で(おに)(もつ)と別れた方が旅が滞りなく進められるはずである。


 晴佳自身、いつ「お前はここに残れ」と言われるか考えなかったわけではない。ラフィが懐かないのもそういう理由なのだろうと考えていたため、晴佳の方から積極的に関わることもしなかった。



「何を言ってるんだ。当たり前だろう? ハルは元いた世界に戻りたいと望んでいるんだよな?」とロードは首を傾げる。


「え、戻れるの?」思わず晴佳は訊き返す。



「……あまり期待させると駄目だった場合のショックが大きいかと思ってたんだけど」とレグがため息をつく。


「戻れる可能性はあるわ。巫女さまは()()のご出身だという話もあるし、実際異界とこちらを行き来できる者たちもいるのよ」



 晴佳の胸が期待に高鳴った。

 先程見上げた他の領地の(あか)りから予想しても、巫女のいる場所はとんでもなく遠いのだろうということは理解できる。

 元いた世界に戻れるのは何年先になるのか、今の晴佳には見当もつかない――だが可能性はゼロではないのだ。そう考えただけでも、この先を生きるための力が湧いて来る。



「俺……還れるかもなんて考えてなかったから、それだけでも夢みたいだ」


 晴佳の声がうわずる。

 ロードは慌ててつけ加えた。


「すまんがハル、還れると決まったわけじゃない。もしそうだとしてもいつの話になるか――」


「わかってる、それでも嬉しいんだ。ありがとう。そのいつかのためにも、俺は生きなきゃいけないんだね。だから自分の身くらい守れるようになれ、と」



 喜びに頬を紅潮させ、晴佳はロードを見つめる。ロードはその視線を受け束の間戸惑っていたが、やがてふっと微笑んだ。


「ではこれから私はハルの親鳥、ハルは私の()()ということになるな――言っておくが私は厳しいぞ。この世界を飛ぶには相当の覚悟が必要なのだから」


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