三十一:そっけない再会
茜、レア、三波は救急車で近くの病院まで搬送された。全員軽傷で済んだが、念のための検査で残りの半日は病院に放り込まれるだろう。茜の上司とレアの学校の学長には連絡しておいた。そのうち迎えが来ることだろう。
問題は三波だった。水宮の会社は爆破で半壊しており、それを目撃している人間は多数いる。いくらしらを切りとおしても、そのうち色々とため込んでいた問題が全て引きずり出される。璃桜はそうなることを願っていた。
病院へ彼女ら三人が搬送されたのをしっかり確認し、璃桜は眠る暦を背負いながら、最初に向かった鳥居の元へ戻る。
少女一人を背負って電車を乗り継ぐことは、どうも周囲の注目を浴びるらしい。暦も病院にぶち込むべきだったと璃桜は少しだけ後悔した。
電車を降り、やっと鳥居の結界前にたどり着く。水宮に金で雇われた同業者たちによって必要以上に痛めつけられた黒塗りの愛車がそこにぽつんと置かれていた。
そして、その車をぺすぺすと叩いている人間が、そこに一人。
璃桜は止めた足を再び動かす。
「あ、来たんだね」
その者は人懐っこい笑みで璃桜を迎えた。璃桜はため息をついた。
「こんなところで何をしている」
「車の修理。それにしてもひでぇやられようだよね。足を壊すならタイヤのパンクだけでもよかっただろうにさ」
「この車はきみが私に贈ったものだ。きみと私が絡んでいるからか、三波の憎悪を必要以上に受けたんだろう」
「車に罪はないのにねぇ」
にひひ、とその者は笑う。
そして、璃桜の背負う少女に視線を映した。その眼差しに優しさがにじみ出る。
「オレのプレゼントした弾丸、ちゃんと撃てたみたいだね」
「やはりあの弾丸はきみの差し金か。暦にデータを送信するくらいならきみ本人が来ればよかっただろうが」
璃桜の声に怒気が宿る。
「この子のピンチに駆けつけるつもりがなかったと思う? 逆だよ、ほんとはね、すっ飛んであの三波のすましたツラを満足いくまでぶん殴りたかった」
「ほう。それではどうしてそれを実行に移さなかった?」
「これはこの子が引き受けた依頼だからさ。オレが間に入って解決しちゃったら、あの子の為にもならんでしょ」
「一歩間違えれば死ぬ可能性だってあったんだぞ」
「だけど暦は全員生存状態で切り抜けた。結果は……まあ完璧じゃないけど、最悪は回避できた。満点だよ」
璃桜はその者の胸倉をつかみ上げた。暦が背からずり落ちないよう、細心の注意を払う。怒気をふんだんに込めた赤い目で、その者を睨む。
掴まれた方は、怖がる素振りもなく、苦笑で終わらせるだけだった。
「キミがオレにつかみかかるのは久しぶりだね」
「……。きみは最低だな」
「知ってる」
「ふん……。まあいい。
それで? 修理というのはまだ終わりそうにないのか」
璃桜は殴る気も失せて、手を離してやった。
「いや、もう終わってる。ああ、修理代とかの請求書は水宮に送っといたよ。実際の額よりちょっと盛っといたから、余ったお金はボーナスにでもしてね」
その者が車から離れた。ひらひらと手を振ってこの場を去ろうとする。
その背中を、璃桜は呼び止めた。
「いいのか、暦と話をしなくて」
その者が歩を止める。そして寂しそうな微笑で、振り向いた。
「今さら会って、何を話せばいいっていうのさ」
「何だっていいだろう。この子はきみに複雑な感情を抱いているが、心の底では愛しているよ。
きみと会話ができたらきっと喜ぶ。…………まあ、十発か二十発の鉄拳制裁は甘んじて受けとめろ」
「二十発で勘弁してくれるなんて、暦はやっさしー子に育ったねえ。母親に似たんだろうね」
「いや、間違いなくきみ似だ」
「それ褒めてんの? 懸念してんの?」
「どっちだと思う?」
「こら質問に質問で帰すのはナンセンスだって。
まあいいや。オレのいない間、暦をお願いね、璃桜」
「……。まだ戻れないのか」
「ことは少し複雑になっちゃってさ。片づけるのにちょっと時間がかかるんだ。
でも終わったら、必ず帰って来るよ。だからほら、寂しそうな顔しないの」
「誰が寂しがるか。きみじゃあるまいし」
「ひでえ。
それじゃね、璃桜」
その者は、それっきり振り返ることなく、さっさと消えて行った。




