十四:気の乗らない再会
ペット探しや遺品の回収も、依頼を紹介してくれる仲介者に預けるのが決まりになっている。
端末から転送装置を取り出し、気弱にみーみー鳴く猫をその上に乗せた。璃桜が触れようとすると威嚇して爪を立てるのに、暦に抱えられると途端におとなしくなった。
無事転送されたのを確認し、二人は黒塗りの車に乗り込んだ。今日の依頼はこれで終わりだが、まだ半日仕事が残っている。
ギルド『澄ノ江』の社長代理として父・要の依頼を肩代わりする羽目になった暦は、相棒の璃桜を頼りにしながらも着実に依頼をすべて達成している。
というのも璃桜の補佐によるところが大きく、よほど緊急の依頼でない限りは比較的簡単なものからこなすようにまわしているのが大きい。
いきなり旧式ロボや異形を相手に戦うというのは、十五歳の少女には酷な仕事だ。
簡単で小さなことから積み重ね、最終的に戦闘へと暦が辿れるように、璃桜が確実なステップを踏ませてくれていた。
現在達成した依頼は、猫探しを合わせて二十件。のこり百八十件は、多少なりとも旧式ロボとの接触が必要不可欠となるものだった。
仕事といっても年中無休というものでもなく、土日は必ず休みが取れるし、緊急の依頼が入ってしまった場合はそのぶん振替として必ずどこかしらで休みをとれた。
就寝も二十二時と早く、食事も買い物も自由にさせてくれる。常に命がけの魔窟に潜っている割には拍子抜けするほどゆるやかなギルドであった。
仕事に慣れて落ち着いた頃、暦はようやく友人のレアへ連絡することができた。
事情を察知した学園長により、レアには暦の身辺事情を伝えていたらしい。いつまで経っても帰ってこないうえに連絡もくれない友人を心配したレアが、新しく担任となってくれた先生を通じて学園長に相談したのがきっかけだったのだ。
学園長からは暦からの連絡を待て、という指示を受けたという。着信音がならないよう設定してある端末でも、万が一暦が魔窟にいて、なおかつわずかな音にも鋭く反応する旧式ロボから隠れてやり過ごしている場合という、ごく限られた危険性を考慮しての強い指示だった。
レアはそれをしっかり守った。仕事が落ち着いて暦から通信をつないだ時、「待っていたのよ」と安堵に満ちた声が聞こえた。
端末ごしに聞くレアの声が、今となっては懐かしい。
『学園長からあなたのことを聞いた時、私はからかわれてるんじゃないかって思ったのよ』
「それは仕方ないよ。私だって父様の話を聞いた時はレアと同じ気持ちだったもん」
『でもお変わりないようで安心したわ。怪我でもしていたら、血の気が引くだけじゃすまなくてよ』
「ごめん、急なことだったから、すぐにメールはしようと思ったんだ。でもこっちに来てから、妙に時間が取れなくて」
『いいのよ、元気な声が聞けただけでも充分だわ。ご飯は食べてる? ちゃんと眠れて?』
「どっちも平気だよ。ちゃんと休みはもらえるし、璃桜……ああ、父様の部下ね、その人の料理、おいしいの」
『あらあら、それならわたしも一度ごちそうしていただきたいわ』
「伝えとくよ。……っていっても、そっちに戻れるのがいつになるかがわかんないけど」
『お仕事が全部終わるまでは学校に戻れないんですってね。わたしとしては、早く会いたいけれど、焦って失敗しちゃダメよ。
あなたのお仕事は、一歩間違えると命を落とすんだから』
「わかってるさ。慎重にやるし、戻る時はちゃんと連絡するよ。それまでは仕事に集中するから、そっちも高校生活楽しんでって」
『もちろんよ。あなたのために、しっかり授業を聞いて、きれいにノートを取っておいてあげる』
「頼もしいね」
『だから、いつでも安心して戻ってきて大丈夫よ。体に気をつけてね』
「ありがとう。レアも、体に気をつけて」
暦は端末の通信を切った。
端末をポケットに仕舞いこみ、暦はさっきまでほころんでいた顔を一気に引き締めた。
璃桜の運転する黒塗りの車の助手席、旧時代のラジオは璃桜が止めてくれた。
「友人との近況報告はすんだか」
「うん。もう平気」
暦は璃桜に連れられ、とある新型ロボット製作会社へ向かっている。その社長とは長い付き合いがあるため、社長代理になった暦を挨拶によこすというわけだった。
会社のえらい人との顔合わせなんて、と暦は正直避けて通りたい。が、ないがしろにしてはいけない関係者であると璃桜は言う。『澄ノ江』で働いていた璃桜が重々しい口調でそう告げたのだから、言われた通りにした方が賢明なんだろう。ただの子供には遠すぎる常識があるのだ。
ただそれを抜きにしても、暦は今回の会合が死ぬほど億劫だった。
「あのさ」
「どうした」
「この会社の社長……ホントにこの人なの?」
げんなりした表情で、端末に映し出した社長とやらの画像を拡大する。
璃桜はそちらに視線を結局向けないまま、頷いた。
「うむ。新型ロボット開発業会社水宮社長、三波殿。その男で間違いない」




