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1RooM  作者: 千ノ葉
3/11

2日目

次の日は至って普通の日。

けたたましいアラームの音もうるさい親の声も無く、いつまでも寝ていられる。

"規則正しい生活"がモットーの家では考えられないことだ――

とは言っても、昨日寝た時間が早かったせいか起きた時間は6時半、太陽もまだ寝起きのようで頼りない光でカーテンの隙間から僕の部屋を照らしだしていた。


もう少し、寝ていたいところだが、重たい身体を起こし、すぐ傍の簡易キッチンまで歩み寄る。

喉が渇いていたので水で喉を潤そうとしたからだ。

だが、コップが見つからない。昨日のうちにやっておけばよかったと少し後悔だ。

まあ、そのことを今言っても仕方がない。僕は蛇口を覗き込むようにして口を開ける。


キュッ、キュッ――


蛇口を捻る音とともに、冷たいモノが僕の口の中に侵入してくる。

だが、その味は明らかに"おかしい"。

田舎育ちの僕でも都会の水が不味いことは知っている。

その理由としては浄化段階で大量の塩素などを投入するからだ。

だが、僕が"おかしい"と思ったのはそんな理由からではない。


瞬時に吐き出した水の色は赤、そして口の中には鉄の味が広がる……

流れ続けている水の色も赤……流れの悪いシンクの中にはその水が溜まっている。


「うわっ……錆水だ……」


思わず声を上げてしまう。田舎の水道ならともかく、いくらボロ物件だとしても都会でこんな錆水を味わうとは思わなかった。

しばらく水道を出しているとその色は赤から透明に変わった。

それを見て僕は安心する。この不味い水を飲料、料理それにお風呂で使わなくて済むのだから。

錆水を飲んでしまっていいことが一つあった。目がパチリと覚めたことだ。まさに怪我の功名。

そのまま顔を洗い朝ごはんの準備をする。ご飯は定番のカップラーメンだ。

食糧が未だ揃っていないこの状況下、栄養面には目を瞑ろう。


それからダラダラと段ボールを開け、生活必需品を揃える。昨日の内に大方やっていたので大した労力ではない。

とはいってもダルイ作業ではあるのですべての段ボールを潰し終えたころにはもうお昼の時間である。

それから買い物などでその日は潰れた。



二日目の夜、僕は炊くことを失敗した堅いご飯とスーパーで買ってきたお惣菜を食べていた。

その味気ない食事ですでにホームシックである。


夜の時間はひたすら長い。

いくらチャンネル数の多い関東圏のテレビといえど、この暇さを消し去ることはできないようだ。

荷物が多くなるのを恐れ、ゲーム機の類を実家に置いてきたことは失敗だったらしい。

仕方がないので、シャワーを浴びてさっさと寝ることにした。


ロフトに上がり目を閉じる。昨日よりかは疲れていないのでどうしても寝付けない。

だが動くのも気だるい。ひたすら目を閉じ、眠りの園へ誘われるのを待つ――――


ザー……


どこからか小さな音が聞こえてくる。僕は自然とその音に耳を傾けた。

その音はテレビの砂嵐の音のようで途切れることなく僕の耳に入ってくる。

この部屋からではない。先ほどテレビの電源は切ったのだから。


おそらくは、右の部屋――僕の部屋が105号室なので103号室からだろう。

104号室ではないのかという疑問が帰ってきそうだが、このアパートには4の付く部屋が存在しない。

元来日本では4という数字が忌み嫌われている。4は死という字を連想させるからだ。

それを配慮したオーナーが部屋番を1つずらしたらしい。


ザー……


その音は鳴り止まない。しかたがないので僕は音楽プレーヤーを耳に押し付け、その音をやり過ごした。


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