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第30話 近いに限る!

「言わずとも僕には分かる」第30話です。

お読みいただきありがとうございます。

「二人はなんで喧嘩してたの?」


 僕は落ち着いてから二人にそう聞いた。

あのキスの直ぐ後、僕は脱力してその場に座り込んでしまった。

落ち着くのに何分かかったかも覚えてないし、自分の顔がゆるゆるになっていた気がするがそれも曖昧だ。

とにかくパニくっていた。


「そうだよね、神崎っちからするとわけわかんないよね(笑)」


 と蒼井さんは話を始める。


「あーまあ、事のあらましを言うとウチが咲凪の家賃を内緒で少し肩代りしてあげてたんだよね。

 でもそのことが何日か前にマーちゃんから漏れちゃって。」


「マーちゃん?」


「あ、ごめん、ウチらのアパートの大家さんの奥さん。

 政子さんだからマーちゃん。

 にしても、まさかそのルートから話が行っちゃうなんて盲点でしたハハハ…。

 でウチが仕事から夜帰ってきたら咲凪がプンプンでさ。

 玄関先ですぐに喧嘩になっちゃったの。」


~~~


「家賃の事、どういうこと?

 私が聞いてた額と違う。

 汀が多めに払ってるってこと?」


「…あー、それね。

 それは~、えっと…。

 うん、まあ確かにウチが少し多めだね!

 でも咲凪はいつも頑張ってるし、これくらい良いじゃない!

 ウチからのお礼だよー。

 そんな固くなんないでさ!

 本当いつも助かってる助かってる!」


「はぐらかさないでよ!」


「咲凪…?」


「なんで隠したの?

 私の目を見て答えて。」


「えっと…。

 咲凪が苦しそうだったからお金のことが安定するまではウチが頑張ればいいやと思って…。」


「そんなの隠す理由になってないの分かってるわよね?

 勝手に同情して欲しくない。

 …。

 ねえ、汀。

 私、あなたと対等だと思ってた。

 でも汀にとっては違うんだ…。」


「咲凪…。」


「来ないで!

 今は一人にして…!」


~~~


「って咲凪が飛び出して行っちゃって。

 帰ってからも中々話しかけれられなくて——。」


 そこに「いや、違うわ。」と斑鳩さんが割って入る。


「最初は汀の方から何回か仲直りしようと言い出して来たけど、私が聞く耳を全く持たないものだから汀もへそを曲げてしまったの。

 それに絶交とか、帰らないって口走ってしまったのも私。

 本当に反省してる。」


「いや、ウチも悪いよ。

 自分だけを責めないで。」


 斑鳩さんは神妙な面持ちでコクと相槌を打った。


 なるほどな~。

マジで二人暮らしなのか。

話を聞く限りだと喧嘩の原因は気持ちのすれ違いで間違いないな。

斑鳩さんは蒼井さんに一方的に負担を掛けてしまう自分が許せない。

蒼井さんはこっそり裏で支えてあげたかった。

何かは知らないけど斑鳩さんも収入があってモデルの蒼井さんよりどっちかと言うと少なくて、詳しくは聞きづらいけど少し前に言ってた斑鳩さんが何回か夜飯を食べなかったって言うのは多分節約のため。

そういうのを蒼井さんは見てられなかったから嘘の数字を教えた。

でもその行為が斑鳩さんにとっては労りじゃなく侮りに見えた。

そして拗れてしまった。

お互いのことを思いやるからこその喧嘩ってちょっと眩しすぎるな。

尊っ。

…。

いや、待て!

そういえば仮転校の件は!?

本当に二人とも海外に行く可能性があるのか?


「斑鳩さんって、海外に行くの?

 仮転校って本当なの?」


「あ、それ…!

 実は嘘なの。」


 やっぱり…!


 斑鳩さんは気まずそうに身じろぎする。


「ずっと仲直りしたい気持ちはあったけど喧嘩したまま今日を迎えてしまって。

 きっかけは今朝の自己紹介の時。」


《斑鳩さんとは喋ったことが無い。》


「そのセリフを聞いた時、汀にとって私は他人でいたい人間だと本当に思われてるかもしれないと思って怖くなった。

 このまま本当に絶交なんて絶対嫌だと思ったの。

 だから転校とか物理的に距離を取るだなんて嘘を仄めかしてしまった。

 ただ“仮転校”って言葉は今初めて聞いたけど。」


 じゃあ、あの女子二人組の前に話がどこかでねじ曲がったんだな。

いい加減なタグ付け。

でもそういう偽情報自体は斑鳩さんが作ったってことか。


 斑鳩さんはさらに言葉を続ける。


「そのことに何かしら反応してくれるんじゃないかって。

 仲直りできる機会を作ろうと思っただけだったの。

 今思えばデマを吹聴することになってしまったわね。

 でもあの時はそんなこと考えられないくらい必死だった、だなんて言ってもどうにもならないでしょうけど。」


 マジか…!

ほとんど僕の読み通りだ。

そんなに切羽詰まってる感じだとは思わなかったけど。

僕、やっぱ天才だな。


「あ、そうだったんだ。

 ごめん、その噂全然ウチ知らなかった(笑)

 でもそれは流石に謝った方が良いんじゃない?」


 と蒼井さん。


「ええ、そうね。

 明日触れ込んだ方たちに謝って回るわ。」


「にしてもここで咲凪に会えたこともそうだし、

 神崎っちが居てくれたことに本当感謝だよ!」


 蒼井さんはまた笑顔で称えるので僕は咄嗟に視線を背けて頷いた。

オーラルフィールドが無い時の僕はこんなもんなのだ。


 にしても謝るってそもそも仮転校が嘘だったって言うの?

全部正直に話したら転校翌日から相当なホラ吹きになっちゃいそうだけど大丈夫?

それこそ僕並みに嫌われそうだけど。


 斑鳩さんが明日どんな言い方するか気になってはいたがそれより重要なことがもう一つある。

声を掛けやすい雰囲気が途切れない内に僕は蒼井さんの方を向いて質問する。


「清峰からここに転校してきた理由はなに?」


「ん~。

 家が近かったからだね。」


「そんな理由?」


「そんな理由って。

 大事じゃない?

 朝の時間って。

 寝癖直したり、メッセージ返したり、洗濯物干したり。

 歯磨きだってぜーんぶ朝にしないといけないだから大変だよ~。

 近いに限る!」


「ええ…。

 清峰ってお嬢様学校でしょ?

 二人とも実家は豪邸とかじゃないの?」


「いや~、それが違うんだな。

 ウチら家が無いから借りて二人で一緒に住んでるの。」


「家が無い!?」


「うん。

 ウチら小学生からの幼馴染でさ。

 まあ学生が二人で暮らすっていうのは変かもしれないけど。

 ウチら貧乏で転校して来たんだよ。」


「貧乏?」


「そう。

 それで二人で生活費を分けて何とかやって来たんだけど…。

 家賃の件はその流れで。」


「え、だとしても親は?

 家族は?」


「ウチら親いないんだ。」


 予想だにしない重い答えをサラッと言いのけられたがどうやらマジらしい。

あの鼓動が聞こえない。

気配すらしない。


 馴染まない空気感に僕は身をすくめて目を泳がせる。


「ご、ごめん。

 触れてほしくない話題だよな。」


「いや、神崎っちなら全然大丈夫だよ!

 神埼っちに隠し事はしないからね。」


「汀、もうそろそろ私いかなきゃ…。」


 先ほどからこの場を離れる時宜を図っていた斑鳩さんが蒼井さんに呼びかける。


「うん、ウチも戻るよ。」


 ドアの方へ歩く斑鳩さんに蒼井さんも続く。


「じゃあね~神崎っち!

 また明日!」


 蒼井さんは外へ出る間際にこちらにひらひらと手を振った。

『勧誘会ね。

今日は予定空いてて普通に見たかったのもあるはあるけど、本当は帰ったら家が空っぽで咲凪が本当に家出したんだってなるかもしれなかったのが嫌で逃げてきちゃったんだよね。

誘い全部受けたのはちょっと間違えたかも…。

半分理由無くなっちゃったけどまあいいか!

今は仲直り出来ただけで良かった…!』


 ポツンと一人、倉庫に取り残された。

ここにもう用はないはずなのに僕はマットに腰を掛けたまま立ち上がれなかった。

膝の傷が今更ズキズキと痛む。

自分のものとは思えないくらいに肩が重く沈む。

これまで神経が昂ってて気付かなかったが僕はここにたどり着く前から緊張の連続で既に疲れきっていた。

その上、倉庫に来てからも嵐のような展開の連続。

もうボロボロ、満身創痍もいい所だ。

…だが知らない二人が仲直りした所を見ただけなのに何故か気持ちだけはヤマメやイワナが好んで息づくような清流くらいに澄んでいる。

僕はいいことした、のか?


最後までお読みいただきありがとうございました。

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