第7章 「親の心、子知らず」
2028年、レッドゾーン。
「ブラッディ・バレンタイン」事件の直後。
ムラダディ――それがこの街の名前だ。
美しい青い惑星に存在する、耳慣れず、地図にもほとんど載らない小さな町。
周囲を覆い尽くすほどの山々と、深く生い茂るチークの森。
そしてこの国の過去に横たわる、数えきれない闇を静かに葬り続けてきた場所でもある。
……本来なら、土の一片に至るまで、緑が息づく美しい街だった。
だが残念ながら、すべては変わり果ててしまった。
エイリアンの侵略が始まり、数百万人の命が奪われたあの日――
この小さな町も、再び悲劇を生み落としたのだ。
私たち人類は、その出来事を「ファースト・インベージョン」と呼ぶ。
事件の後、世界の指導者たちはこの町をレッドゾーンに指定し、完全に封鎖した。
その決定を聞いた外の人々は、この小さな町に様々な呼び名をつけ始めた。
エイリアンの街。
悪魔の街。
地獄の街。
神に罰された街――など、実に多くの名で。
そしていつしか、この小さな町はゆっくりと本来の名前とアイデンティティを失っていった。
2028年3月8日、レッドゾーン。
崩れ落ち、荒れ果てたこの小さな町の中心には、
いくつもの避難テントが張られていた。
そのテントの中からは、
人々の口から途切れることなく祈りや嘆願が――
数百、いや数千にも及ぶ声が響き続けている。
悲しみと絶望が満ちるその場所で、
人々はようやく、自分たちが神の前でどれほど弱く、
どれほど無力な存在なのかを思い知り始めていた。
家族を失い泣き崩れる者。
自らの弱さを呪う者。
神に許しを乞い、地に伏して祈り続ける者。
その陰鬱な空間の中で――
ひときわ鋭く耳をつんざく叫び声が上がった。
片足を失った一人の老人。
怒りと失望に満ちた目で空を指差し、
声を枯らしながら叫び続けていた。
「神よ! なぜ私たちが苦しまねばならないのだ!?
なぜ私たちだけが痛みに沈まねばならない!?
外には、私たちより罪深い者がまだ大勢いるというのに!
神よ! 答えてくれ!」
老人は地面を何度も叩きつけ、
嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。
別のテントからも、 意識の戻らない十代の息子の名を、 何度も何度も呼び続ける母親の叫び声が聞こえてきた。
「リファル! リファル! 起きて! お願いだから、この世界で母さんと父さんを一人にしないで! あなたがいない世界でどう生きればいいのか、母さんには分からないの!」
母親は叫びながら、避難所のテントの敷物の上にぐったりと横たわる息子の体を必死に揺さぶり続けた
しかし、それでも少年はまったく目を開けず、 母親の呼びかけに応える気配すら見せなかった。
「看護師! 看護師! 早く来てください!」 母親の悲鳴に近い呼び声がテントの中に響き渡る。
その声を聞いた看護師は、 負傷者の手当てをしていた手を止め、 額に浮く汗を拭いながら急いで駆け寄った。
「どうされました? 何かお手伝いできることはありますか?」 疲れが滲む顔に小さな笑みを浮かべて、看護師は優しく問いかけた。
「息子が! 息子がまだ目を覚まさないんです! 早く! 早く起こしてください!」 母親は取り乱しながら叫んだ。
看護師は黙って少年の状態を確かめた。 外傷も、血の跡も――何一つ見当たらない。
しばらく考えた後、答えを見つけたように息を吸い、 ゆっくりと口を開いた。
「お母さん……。 今のような時は、私たちにできることは多くありません。 どうか神様に祈り、委ねましょう。 きっとその御恵みによって、お子さんは目を覚まし、元気になりますよ。」
「……本当ですか?」 母親の声は震えていた。
「はい。私の経験では、こういう場所こそ『奇跡』が起きるものなんです。神様に近づくよう、そっと導いてくださるのですよ。」
看護師は静かに微笑んだ。
母親は看護師の顔を見つめた。 その表情は驚くほど澄み切っていて、 白い衣服とともに、まるで一点の曇りもない光を放っているように見えた。
まるで―― そこに天使が翼を広げて立っているかのように。
「…………」
看護師は、母親の表情が落ち着いたのを確認すると、 静かに立ち上がり、次の患者のもとへ向かっていった。
看護師が去ってしばらくすると、
母親はそっと両手で息子の片方の手を包み込むように握った。
「慈悲深く、恵み深い神よ……。
なぜこの子に罰や試練をお与えになったのか、私には分かりません。
ですがどうか……どうか、この子からその苦しみを取り去ってください。
この子こそが、私にとってこの世界でたった一つの、何よりも大切な宝なのです……」
母親は必死に祈りを捧げた。
しかし、どれほど心を込めて祈っても、
少年は目を開けることなく、静かに眠り続けているだけだった。
子の眠りが続くのを見て、
母親は胸を押しつぶされるような思いで、天に向かって叫んだ。
「神よ! なぜ私の願いに応えてくださらないのですか!?
なぜ私たちばかりを苦しめるのですか!?
私たちの罪とは何なのですか……? 私の罪とは何なのですか……!?
なぜあなたは私たちに呪いばかりを与えるのですか!?」
「私は誓います……。
あなたの御名にかけて、私のすべてにかけて……。
この子に、必ず幸せな人生を与えます……!
どんな代償を払ってでも、この子の命を脅かすものから守り抜きます……!
だからどうか……どうか私の祈りに答えてください……」
母親の声は泣き叫ぶように震え、テント中に響き渡った。
テントにいた人々は皆、
耳を塞ぎたくなるほどのその嗚咽と叫びをただ黙って見つめていた。
そして――
数瞬の沈黙のあと、本当に“奇跡”が起きた。
まるで、母の祈りに応えるかのように。
母親が握りしめていた少年の手が、
かすかに――しかし確かに、握り返したのだ。
「……母さん?」
少年が小さくささやいた。
「リファル……?」
母親は、目の前で起きている出来事をまだ信じられないような表情でつぶやいた。
次の瞬間、考えるよりも早く、
母親は息子の体を力いっぱい抱きしめ、声をあげて泣き崩れた。
「リファル! リファル!
ああ……アルハムドゥリッラー……! 体は大丈夫? どこか痛くない?」
母親は涙を流しながら、必死に息子に問いかけた。
「うん、大丈夫だよ。」
目を覚ましたばかりの少年は答えた。
そして、自分たちの方をじっと見つめる人々の視線に気づく。
――その目は、
驚き、不安、安堵、憐れみ……
さまざまな感情で満たされていた。
「よかった……本当に、よかった……!」 母親は息子の頭を優しく撫でながら続ける。 「もう軍事学校なんて危険な所には通わせないからね。 これからは普通の学校に通いなさい。安心して……」
「……え? なんで急に……」
少年は突然の言葉に固まった。
理解できない。
――たぶん、まだ目覚めたばかりで、
頭の中の思考がちゃんと動いていないのかもしれない。
「大丈夫よ……。
母さんが、あなたを絶対に守るから……。
もう二度と、こんな思いはさせない。
だから約束して……。
もう二度と、母さんをこんなに心配させないって。」
母親は息子を抱きしめたまま、静かに願った。
「……うん。わかったよ。」
少年はその腕の中で小さく答えた。
クリームコーラ&イニシャルR:「読んでくれてありがとう…」
クリームコーラ:「ところで、なんだか物語が少しゆっくりになってきた気がするけど、もしかして君が主人公だから?」
イニシャルR:「えっ!? 最初から寝てばかりの僕が悪いっていうの!? それに前の章ではちゃんとカッコよく登場したじゃないか! なのにどうして今は母さんが主人公になってるんだよ!?」
イニシャルRの母:「あらあら、どうやら私のカリスマ性は息子には受け継がれなかったみたいね… 大丈夫、残りは私に任せなさい。」
イニシャルR:「いやだ! 僕は主人公なんだ! 赤座あかりみたいにはなりたくない!」
クリームコーラ:「はぁ… 二人のことはもう忘れよう。大事なのは――
クリームコーラ&イニシャルR&イニシャルRの母 : 「ハッピー アンド ハブ ア ナイス ウィーーー!」




