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第八話『帝国』

«ヴェヴァソニア・フィ・ファリウム帝国»


その国の名は、古く昔、まだ人類が誕生していない頃から存在する。

人類が多大なる発展を見せている今は、『迷宮都市』として知られている。

『迷宮』…即ち、ディーザント巨大迷宮が有名であるだろう。

一番冒険者挑戦数の多い()の迷宮だが、未だに最深部には到達されていない。

最深部には一体何が眠るのか…。

その謎がまた新たなる冒険者を呼ぶのだ。


エルファルド・アキリーン著『冒険者の旅』 より抜粋





冒険者に夢見て帝国にやってきた、十五の少年【ハーゼン】の話だ。

「ふぉぉぉ!でっけー!」

オルガルト王国から馬車を乗り換えて二ヶ月程。

平民だった彼は、貨幣の計算ができなかった。

できる人が周りに居なかったのだ。

結論から言うと、金がないのだ。

「兄ちゃん、帝国は初めてかい?」

「そうなんすよ!自分、オルガルト王国から外に出たことがなくて…、めちゃくちゃ楽しみっす!」

聞けば分かるように、おかしいレベルのポジティブ精神を所持しており、

金がないなんていう危機感は消え失せている。

「そうかい、そうかい。じゃあ、冒険者登録は済ませているか?」

「いや、まだっすね」

「…じゃあ、入れないねぇ」

「うぇ?」

「帝国はねぇ、冒険者未登録の者は『身分証明』ができないとして入れないのさ。まぁ頑張ってくれ」

危機である。

馬車を乗り終えて、名も無き村についた。

「帝国に入るには、冒険者登録…?をしないといけないのか!冒険者になれるのかも!」

彼は、世間知らずだった。

冒険者になるために冒険者登録が必要になることさえも知らなかったのだ。

「お!角小兎(ホーンラビット)かぁ…。これで、宿には泊まれるな!」

ハーゼンの村では物々交換が主流である。




「おや、お客人かな?いらっしゃい。こんな何も無い村だけどねぇ」

村長らしき人が挨拶を交わす。

「そんな事無いっすよ!たぶん!」

「はっはっは!嬉しいことを言ってくれるねぇ。ああ、お客人、宿は決まっているのかい?」

「それがまだなんすよぉ、これで泊まれるところはあるっすか?」

ハーゼンはそう言って、角小兎(ホーンラビット)を見せた。

「ふぅむ。本当にこれでいいのかい?…では、案内するよ。ついておいで」

「よろしくお願いするっす!」

名もなき村は25世帯程の小さなところだった。

農作物、狩猟を(メイン)に生活している。

所々に肉が吊るされてあるため、わかりやすい。


案内されたのは、村長の家だった。

「いいんすか?」

「ああ、勿論だよ」

「では、遠慮なくお邪魔するっす」

そこは、木でできた二階建ての家だった。

二階が寝室になっていて、すぐにそこに行くように言われた。

「いい人っすねぇ…。あっ!そういや冒険者登録できるか聞くの忘れてたっす…」

残りの食料を数えたり、装備の点検などをし終わって就寝しようとした頃に気がついた。

一階から物音がしたため、まだ起きているのだと思い、ハーゼンは降りていった。

だが、一階に行くと誰もいない。

そのことに違和感を覚えたハーゼンは家をくまなく探してみることにしたのだ。

台所、便所、リビングの机の下など、見て分かる場所は大抵見た。

「最後に、倉庫か?」

台所の奥にある扉を開けて、倉庫と思わしき場所へ入る。

蝋燭などはなにもついていなかったため、周囲は暗くあまり目がみえなかった。

「!?誰だ!」

気配を感じたハーゼンは見渡してみる。

すると、人影がハーゼンに飛び込んできたのだ。

至急、懐に持っていた小刀で応戦。

先に倒れたのは侵入者の方だった。

老人はまだ日が浅く、技を覚えられてはいなかったよう。

攻撃特化のハーゼンにかなうわけもない。


その夜は一件落着。

実は、村長は村に来た客人を襲って、身ぐるみを剥いで生計を立てていたのである。

そのことは、まだ誰も知らず村人全員が村長よりも後にきた移民者であった。

誰もが誰も村長の仕事のことは勘ぐることはしていなかった。

偶然とはいえ、村をすくったハーゼンは、村人から盛大なる感謝を受ける。

それが、知る人ぞ知る後の【ハールゼンベルト】の最初の物語である。



因みに、ハーゼンは何故感謝されたのかさえもわかっていない、というのはまた別の話。

そしてまだ、ハーゼンは冒険者にはなっていない。

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