第40話(最終話):少年錬金術師と幸せな日々
「……それでは、皆さんの健康とより一層の発展を願って……かんぱーい!」
「『かんぱーい!』」
盃のぶつかる甲高い音が響く。
いつもは静かなお家の前も、今はすっかり人……いや、"兎獣人"の皆さんであふれかえっている。
キャロル様たちにおもてなしのことを伝えたら、『絶対行きたい!』とのことだった。
乾杯が終わるや否や、さっそくキャロル様が僕たちの下に駆け寄ってくる。
『ツバサちゃん、呼んでくれてありがとうね! こんな良い場所に住んでいるなんていいな~!』
「こちらこそ来ていただいてありがとうございます、キャロル様」
キャロル様は特に楽しみにしてくれていて、来訪の日を指折り数えていたそうだ。
もじもじしながら、僕を上目遣いで見る(僕の方が少し背が高いから)。
『ツバサちゃん……あのね……』
「はい、どうされたんですか?」
『や、やっぱり……なんでもないっ!』
そこまで話すと、なぜかキャロル様は顔を赤らめそそくさと遠くに行ってしまう。
具合でも悪いのかと心配になるけど、きっとお酒の匂いのせいだ。
なんてことを考えていたら、肩に乗るランドが僕に言った。
『ちょっと邪魔しちゃったレムかね』
「……邪魔? 何の?」
『何でもないレム』
意味深に笑うランドもまた謎だ……。
ジゼルさんはいつもより表情が硬いし……。
いったいどうしたんだろうね。
疑問に思う中、今度はマルクさんがこちらに歩いてきた。
『久しぶりだな、ツバサ殿。ずいぶんと立派な屋敷じゃないか』
「ありがとうございます。みんなで集めた素材のおかげで作ることができました」
マルクさんは満面の笑みで話す。
"兎獣人"は人間に敵対的だったけど、もうそんな雰囲気はどこにもない。
他にも、国のほとんどみんなが来てくれたみたいで、以前国を訪れたときに見知った顔ばかり。
中でも、威厳があふれているのが……。
『……ツバサ殿。貴殿らとまた会えて、我らも本当に嬉しい』
『こんな素敵な場所に住んでいたのですね。眺めがよくて羨ましいですわ』
「王様に王妃様……! 恐縮でございます!」
そう、キャロル様のお父様とお母様。
お忙しいだろうに来てくださった。
二人は琥珀色の飲み物を飲んでは、ふにゃりとした笑顔になる。
『これは誠に美味だな。林檎の絶妙な存在感が素晴らしい』
『こんなにおいしいお酒は、国にもありませんわ』
蒸留所で作ったサンアップルのブランデーを飲んでもらったら、大人たちはみんな喜んだ。 なんでも、このようなお酒は今まで飲んだことがないそうだ。
もちろんのこと、僕たち子ども組はジュース。
キャロル様がまた新しい果物から作った飲み物や、数々の特産品を持ってきてくれて、大変豪華な食事を一緒に食べる。
『……はい、ツバサちゃん。国で育てている、名産品の弾けオレンジだよ』
「へぇ~、珍しい果物ですね~……うう~ん、弾ける~」
見た目は普通のオレンジだけど、果汁がパチパチと弾ける感覚がしておいしい。
まるで、炭酸のジュースを飲んでいるみたいだ。
食事を楽しんでいたら、ずっと黙っていたジゼルさんがサンアップルを乗せたお盆をずいっと差し出した。
「……どうぞ、ツバサさん。私が摘み取ってきたサンアップルです。好きなだけ食べてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
さりげなく弾けオレンジを押し退けるジゼルさん。
キャロル様との視線の間には、なぜかバチバチと小さな火花が見える気がするんだけど……。
『ツバサはモテるレム~』
笑ってないで助けてよ~。
そう思いながらも、吹き抜ける青い空と広大な大峡谷を見て、僕は強く確信する。
僕たちのスチームパンクなアナログ生活は、これからもずっと続くんだ!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。これにて完結となります。
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読んでいただき本当にありがとうございました!




