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第39話:銀髪王女様、少年錬金術師に感謝する

〘ツバサのお家〙の、レトロな内装に包まれたリビング。

 落ち着いた茶色のソファでくつろぐ姉の姿を見て、ジゼルは肩の荷が下りた気分だった。


(……よかった。姉さんはもうすっかり回復したみたい……)


 唯一の家族であるロザリー。

 彼女に苦しめられていたのは事実だったが、帝国の環境では仕方のないことだとも、ジゼルは感じていた。

 ロザリーとジゼルによる"魔波"の発見と開発は帝国の歴史を変え、文化を変え、国の目指す方向性をも変えてしまった。

 "魔波"により、人々は好きなときに好きな人間と繋がることができるようになった。

 全自動ゴーレムが雑務を担い、たしかに国は著しく発展した。

 だが、浮いた時間に仕事を前倒しするようにしたら、さらに日常が加速し、結果として以前より仕事に追われる状況が生まれてしまったのだ。

 ロザリーは茶を飲み干すと、モーリスに優しく語りかける。


「……モーリス、悪いがお茶のおかわりをくれるか?」

「はっ、承知しましたっ」

「お前はいつも妾のために働いてくれるな。こんな優秀で態度もいい部下を持てて、妾は幸せな女王じゃ。ありがとうの、モーリスよ」

「……女王様ぁ……」


 以前では考えられないような穏やかな微笑みに、モーリスは泣きそうな顔となる。

 そのまま、ツバサからティーポットのセットを貰うと、丁寧に追加のお茶を注いだ。


(モーリスさんへの当たりも、以前より弱くなって本当によかった……)


 微笑ましい光景を見て、ジゼルは心底思う。

 秘書役の彼は、ロザリーのプレッシャーを一身に受け止める立場だった。

 常日頃から責めないよう何度も話していたが、ロザリーは決して改めない人間だ。

 でも、ツバサと出会ったおかげで、本来の真面目でありつつ優しい心を持った彼女に戻ることができたのだ。

 護衛の騎士たちも近くに来ると、そっとジゼルに話す。


「……ツバサさんがいらっしゃって本当によかったですね。この家もなんだか、訪れる者を優しく包み込んでくれます」

「大峡谷の自然も女王様の心を癒やしたようです。帝都にはこれほどの森や川はありませんから。自転車でのサイクリングもすごく気分爽快でした」


 ツバサが錬成した〘蒸気魔導具〙の数々は帝都にはまったくない機能、そしてデザインの物ばかりで、彼らは大変に喜んだ。

 宮殿の魔法使いや錬金術師たちに話したら、至極興味を惹かれるだろう。

 きっと、アナログで手間暇かかることが、むしろ感激すると予想された。


(帝国と大峡谷の文化が混ぜ合わさったらどうなるのでしょうね……)


 サイバーパンクな世界とスチームパンクな世界。

 相対する両者が混合したら、それはとても素敵な世界になりそうだなと思った。

 いずれはツバサも宮殿に案内したい。

 自分たちの暮らしてきた世界がどんな世界なのか、知って欲しかった。

 心の中でそんなことを思い感謝していると、ツバサがこちらに来た。

 ランドも一緒だ。


「ジゼルさんもおかわりを飲みますか?」

『まだまだたくさんあるレムよ』


 自分を救い、姉を救い、そして国民たちも救ってくれた、小さくも頼りがいのある錬金術師……。

 彼の傍にいるだけで、ジゼルは心が満たされた。


「ええ、ぜひお願いします」


 カップを差し出し、淹れ立てのお茶を入れてもらう。

 漂う白い湯気を見ながら、ジゼルは静かに思う。


(ツバサさん、ランドさん、私といつまでも一緒にいてくださいね)


 彼女の心は、優しい琥珀色のお茶と同じように温かくなった。

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