第38話:少年錬金術師、銀髪王女様にプレゼントを贈る
「『……今日ものんびり(レム)~』」
みんなでお家の前に座って景色を眺めていると、自然と言葉が零れた。
ロザリー様たちが宮殿に帰ってから、あっという間に三週間が過ぎてしまった。
おもてなしの慌ただしくも楽しい日々は過ぎ去り、もうすっかりいつものスローライフが戻っている。
お客さんとわいわい過ごすのももちろん楽しいけど、やっぱりこうしてのんびりしているのもいいね。
青い空と白い雲、眼下に広がる濃い緑の木々が活力を与えてくれる。
さてさて……いつまでもこうしていたいところだけど、今日は大事な錬成があるのだ。
僕は立ち上がり、隣のジゼルさんに話す。
「実は、ジゼルさんにプレゼントがあるんです。尤も、今から錬成するのですが……」
「えっ、そうなのですか」
「いつも僕たちのためを助けてくださっているので、そのお礼です」
「『ツバサ(さん)~……』」
そう伝えると、ジゼルさんとランドは目をうるうるとさせてしまった。
"スターフォール・キャニオン"に来てから、ジゼルさんにはお世話になりっぱなしだ。
少しでも恩返しできたらいいなと、とある物を錬成することを思いついたのだ。
その錬成する物は……もうイラストに描いてある!
【蒸気な本】を《スキルオン》して、ジゼルさんとランドの前で広げた。
「プレゼントとは……蒸留所で~す!」
「『おおお~!』」
描いたのは、ウィスキーやブランデーのの蒸留所。
スチームパンクが似合うし、〘蒸気の魔導具〙にピッタリだ。
タンクに食材を入れれば、それにあったお酒を蒸留してくれる優れ物。
必要な素材も、毎日のお散歩もおかげで全部集まっているよ。
ジゼルさんはお酒が好きだけど、中でもウィスキーとブランデーが好きと聞いた(異世界にもあるんだね)。
キャロル様から貰ったお酒はワインや果物酒の類いだったので、いつか飲ませてあげたいな、と思ったのだ。
ジゼルさんは、ぽわ~とした様子で呟く。
「いやぁ~、ウィスキーが飲めるのですね~。ブランデーも飲めるなんて夢のようです~。あの芳醇な香りと強いアルコールが恋しい~」
『ボクまで楽しみになってしまうレム~』
ランドもワクワクとした様子。
ゴーレムに年齢があるかはわからないけど、大人になってからにしようね。
蒸留所はお家から少し離れた場所にしよう。
森の手前の開いているスペースに【蒸気の本】を置き、精神を集中させる。
「それでは……《蒸気錬成》!」
白い粒子が生まれ出て、徐々に大きな建物へと形を変える。
十秒も経たずに、とても立派な蒸留所が完成した。
思わず、僕たちはハイタッチする。
「『……いえーい!』」
中に入ると、張り巡らされたパイプや立派なタンクに圧倒されてしまう。
前世のテレビで見学番組を見たことがあるけど、実際にあんな感じだ。
まだ新品なのでピカピカ。
仄かに香るお酒の匂いは気のせいかな?
僕の隣でそわそわするジゼルさん。
「さっそく、何か作ってみますか?」
「ええ、ぜひ!」
とのことなので、畑からサンアップルをいくつか採って、タンクに入れてみる。
レバーを引いたら醸造が始まるようだ。
「ジゼルさん、どうぞお願いします」
「いいんですか? いやはや、緊張しますね……えいっ!」
『動いたレムー!』
ジゼルさんがレバーを引くと、ゴウンゴウン……と蒸留所が稼働した。
琥珀色の液体が、備え付けのガラス瓶にゆっくりと溜まっていく。
発酵とか時間がかかりそうだけど、そこは〘蒸気の魔導具〙。
すぐに飲める状態になっているのだ。
瓶一杯分溜まると、ジゼルさんは震える手でそっと飲んだ。
「……あああ~! なんというおいしさ! 林檎の香りと強めのアルコールがたまりません~!」
激しくラッパ飲みしているのだけど大丈夫なのかな……。
まぁ、でも、ジゼルさんなら平気か。
酒乱が発動しないよう静かにお祈りする。
ブランデーを飲んだ後、ジゼルさんは真面目な顔に変わって僕に言った。
「……ツバサさん、本当にありがとうございます。私のためにここまでしてくださって……。お家でののんびりした生活や自転車でのサイクリング、気球でのお散歩など、毎日幸せでいっぱいです」
そう話す彼女の顔は、笑顔だ。
輝く太陽にも負けないくらいの、明るい笑顔。
「僕もジゼルさんがいるおかげで、いつも楽しいです。こちらこそ、一緒にいてくれてありがとうございます」
「これからもずっと一緒にいましょうね……大好きなツバサさん」
僕とジゼルさんはふふっと微笑み合う。
"スターフォール・キャニオン"で出会って数ヶ月経つけど、出会った頃よりもっと仲良くなれた気がするね。
そう思っていたら、ツンツンと何かに腕をつつかれた。
『ボクのことも忘れないでほしいレムッ』
「もちろん、忘れていないよ」
「ランドさんだって、私たちの大事な仲間です」
二人で頭を撫でると、ランドは満足げな顔で喉をゴロゴロと鳴らした。
可愛いね。
その後みんなで話すと、キャロル様たちにもおもてなししたいね、ということになった。
いつものように、僕は拳を突き上げる。
「キャロル様を呼んでパーティーをしましょー!」
「『おおおー!』」
その日から、僕たちはパーティーの準備を始めた。
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