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197話:引き継ぎます

 私は騎士三人と、オリガさんを残して巨大変異種を追うことになった。

 オリガさんは救護のために残る。

 けどここは高い壁の上で、疲れ果てたトビアスたちをすぐさま助けることは難しい。


 と思ったら、オリガさんは何処に用意してたのか鉤のついた縄を取り出した。

 慣れた手つきで石壁を破損させる勢いで鉤を食い込ませると、固定を確認して縄をするすると降りて行く。


「昨今の学者は…………いや、やめておこう。先を急ぐ」


 サンドロさんが何か言いかけてやめた。

 うん、オリガさんはたぶん特殊例だと私も思います。


 そして私は引き続きイーサンの馬に同乗させてもらい、先導はサンドロさん。

 けど身軽になったアルヴィンが一人先行することになった。

 私たちは気を引いてた教会の三人の役割を引き継いでおびき寄せを行う。


「巨大変異種が森に入らず真っ直ぐ進んでる理由はわかるかい?」

「普通に魔物もいないんだと思う。さっきまでの騒ぎで周辺にいたのは逃げただろうから」


 元から東の森から出て来る魔物は少ない。

 だから教会の三人がちょっと無理をすれば駆除できるくらいだった。


 けどこのまま生殖可能な捕獲対象がいなかったら、スライムの巨大変異種は森に分け入る可能性もある。


「おわ!?」


 先を言ってたアルヴィンに気づいた巨大変異種が、体の一部を伸ばして襲いかかった。

 アルヴィンは速度を上げて回避。

 けど私たちの行く手では、巨大変異種の一撃で哨戒路を舗装した石が割れて歪みとなる。

 馬が足を取られたら転倒と落下の恐れがあった。


「跳べ!」


 サンドロさんの号令でイーサンが馬を操った。

 石材が浮いたところを跳躍して馬に避けさせる。


 その間もアルヴィンが狙われ、行く先は次々に足元の危うい危険地帯へと変わった。


「う、た、助けないと!」

「いや、このまま先行させる。そのほうが他が安全だ」


 揺れる馬上で必死に声を絞り出すと、サンドロさんの非情な判断が返った。

 私は息を呑むけど、イーサンには驚きもない。

 つまりアルヴィンが一人先行した時点で決まっていたことなんだ。


 私を連れた二人が安全を確保するための囮。

 アルヴィンは一人巨大変異種につけ狙われながら馬を駆る。


「アルヴィンを心配してくれるなら、奮闘を無駄にしないようこの後のことを頼む」


 イーサンがいうとおり、まだ何も解決してない。

 ここを走った後は教会で迎え撃つ必要がある。


 私はこの上から援護もしくは攻撃を担う。

 さっきの攻撃で、一人単発の攻撃をしても痛痒にもならないことはわかった。

 それでもやり続ければ巨大変異種は脆くなるという。

 だったら数がいる。

 この巨体を一カ所に釘づけにしておく数が。

 その数を補うのが教会で迎え撃つ人たちで、ちまちま攻撃をする私では駄目だ。


「だからアルヴィンだけで先行して安全確保なんだろうけど」

「教会が近いぞ」


 激しい蹄の音の中で私の歯がゆい思いは拾われることなく。

 サンドロさんに言われて、私は伏せていた顔をあげる。


 テーセの街を覆う壁は高いけど、一番高い教会の尖塔は壁を越えていた。

 それが確かに近づいている。


「あ? 団長! 誰かいます!」


 アルヴィンが先から声を張り上げた。


 私は馬の鬣越しに先を見据える

 すると外壁の上に誰かいるのが見えた。

 揺れが酷くて焦点が合わないけど、魔眼が知った人だと認識する。


「司祭さん!?」


 騎士たちも知ってるけど馬を操るのに精いっぱいでよく見えていなかったらしく、私の言葉に驚いた様子を見せた。

 それに司祭さんがいるなんて思いもしない場所だ。

 そこは巨大変異種の進行方向真正面の外壁の上。

 教会からは確かに上がる階段があるんだけど、なんでそこ!?


「あちらも目的は同じようだ」


 イーサンが馬を操る合間に様子をかがったらしくそう言った。


 つまり誘き出しの囮だ。

 司祭さんは手に白い杖を握って魔法で攻撃を繰り出した。

 その刺激は巨大変異種の気を引けてるかは微妙なところだけど、司祭さんは攻撃をやめない。


「ねぇ、このまま行ったら!」

「アルヴィン! 急げ!」


 私に続けてサンドロさんが声をあげた。


 イーサンは手綱を引いて馬の足を緩める。

 逆にアルヴィンは鞍から腰を浮かしてスピードを上げた。


「どうするの!? このままだとあそこに巨大変異種がぶつかる! それに司祭さんも危ないよ!」

「たぶん、司祭はわかっていてやってる。だからアルヴィンが間に合えば」


 イーサンは緊張の面持ちでじっと見つめながら答える。

 私も倣って見つめるしかできなかった。

 ただ手には三叉の杖を構えて、二人が巨大変異種に捕まった時にはすぐさま解放できるよう備えた。


 アルヴィンは巨大変異種を追い越して司祭さんの下へ走る。


「掴まれ!」


 アルヴィンは片腕を伸ばして体勢を低くする。

 落ちそうな危ないかっこうで、司祭さんへと駆けた。


 司祭さんは白い杖を放り出してアルヴィンに捕まる。

 駆け抜ける馬はそのままに、二人は巨大変異種の前にある外壁の上を過ぎた。


「あぁ!」


 見ている間に巨大変異種はためらいなく教会に続く壁に体当たりをする。

 穴が開いてるはずだけど壁は重さに負けるように歪んだ。

 私たちも足元が大きく揺れて動けなくなり、イーサンとサンドロさんは馬が暴れて落ちないように必死に宥める。


 巨大変異種は瓦礫と共に街の中へ三分の一ほど入ったようだ。

 巨大変異種が動くたびに足元が揺れ、そして雄叫びが上がった。


「かけろ!」

「この声、サキア?」


 通りの良い号令がこちらまで聞こえる。

 さらに雄叫びに続いて水の音が断続的に上がった。


 サンドロさんとイーサンが慎重に馬を進める。

 私たちは様子が見える所まで来て下を覗き込んだ。


「ともかくかけるだけかけて! 水はこっちで操るから!」


 下ではルイーゼが魔法使いらしい人たちを統率して杖を構えてる。

 巨大変異種に向けてかけられる水が届かないと、魔法で操って送り出してるようだ。

 一から水を操ってやるよりも魔力の消費は少ないだろう。


「目や口に入ったらすぐに退け! 近づきすぎるな!」


 冒険者らしい人たちと後方待機状態のヘルマンが注意をし、サキアは水をかける人たちを監督してる。


「水はこれで最後! すぐに退いて次の水を補充して!」

「よし、削るぞ!」


 サキアが桶や鍋で水をかけてた人たちを後退させると、ヘルマンが勇んで前に出た。

 後に続く冒険者たちも意気を上げて巨大変異種に殺到する。


 水がかかったところを削るように攻撃し続けると、見る間にひと回り小さくなる。

 けどまだ巨大変異種の三分の一のひと回り程度を削っただけで、全体としては誤差だ。


「アルヴィン!」


 イーサンの声に見れば、崩落寸前の外壁近くにアルヴィンと司祭さんがいた。

 馬が怯えて暴れるので降りる様子だけど、どうやら巨大変異種の起こした揺れに巻き込まれることなく逃げ果せたらしい。


 アルヴィンは一度手を振り、退避するために司祭さんの案内で離れていく。


「こちらも馬からは降りよう。だが、ここからどうする?」


 サンドロさんは馬首を元来た方向に向け、いつでも逃げられるようにしつつ聞いた。

 私はここから攻撃のために来たけど、ここに来るまででやった感じ普通に魔法放っても捕まる人をちょっと助けるだけだろう。


 下では数に任せて水をかけて、削って、また水をかけ、そっちのほうが効率的だ。

 けど時間としてドラゴンがどれくらいで来るかわからない。

 他人を囮にして時間をかけるなんてやり方も、私の心情的に抵抗が強い。


「…………大技使います。動かない今がきっとチャンスです」


 入ってる三分の一は任せて、私が狙うのはまだ外にある三分の二だ。

 ともかく巨大変異種の中まで毒を入れ込んで脆くする。

 そのために私は杖を構え直した。


毎日更新

次回:降らせます

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