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王城の倉庫掃除と迎えに来てくれる人1

「「「倉庫掃除のお手伝いを頼めないでしょうか、オルガネーゼさん!」」」

「え、っと」


 朝、倉庫の扉を開けたら待ち構えた城の侍女達に泣き付かれた。

 しかも比喩ではなく、割と本気で泣きかけている。


「また聖女の差し金か」


 騒ぎを聞きつけた倉庫の隅で寝落ちていたカーレクティオン様も、のそのそとこちらへやってくる。

 だが普段近づくだけで人を散らす彼にも負けない事情が、侍女達にはあるらしい。


「違います! 単純に倉庫掃除が地獄なんです!」

「倉庫って、王城の倉庫ですよね?」


 王城の倉庫とは、こことは全く別の巨大な物置だ。

 私も話にしか聞いた事は無いが、様々な献上品などが収められているらしい。

 王都で住んでいるだけでは手に入らない貴重な品もあるらしく、その点については私も魅力を感じている。

 そして私の問いに、一人の侍女が頷いた。


「はい、そうです。もうすぐ大掃除の時期なので」

「あー、毎年怪我人出してるアレか」

(え、そんなに危ない作業なの?)


 内情を知っているらしいカーレクティオン様は侍女の話に頷いているが、私はそんな危ない大掃除は知らない。


(魔物か何かが倉庫に巣食っているのだろうか)


 流石にこんな片隅でもないお城の倉庫で、そんな事が起こっているとは思えないけれど。


「そんなに毎年怪我する人が出るんですか?」

「ええ。作業を楽にするための魔法使いと組んでいるんですが、毎年うまく行かずに衝突してしまって」

(あぁ、なるほど)


 怪我の原因を聞いて安心する。

 詳しく話を聞けば全く違う部署の人間が集められて、指示も適当なうえで作業をしているとか。

 それならば、そうもなるだろう。


「それで今年こそ何とかしようとコイツを呼んだ訳か」

「「「お願いです! 私達を助けてください!」」」


 壁にもたれかかって半分寝ながら聞いていたカーレクティオン様の言葉に、侍女は一斉に頭を下げる。

 とは言っても、即決はできない。


(どうしましょう)


 私としては正直、興味はあっても行きたくはない。

 確かに王城の倉庫に立ち入れるのは魅力的だが、ついこの間私は聖女の息が掛かった侍女に闇討ちされかけた。

 今回もそうでないとは言い切れない。


(とりあえず、カーレクティオン様の意見を聞きましょう)


 外の事情を知らない私が判断するより、そちらの方がいいだろう。

 丸投げな気もするが、今は業務時間でもあるので上司である彼が正しいという事にする。

 だがその答えは期待していた「指示」ではなく、「許可」という形で戻ってきた。


「お前が行きたいのならいけばいい、多分やり方が雑なんだろうしな」


 カーレクティオン様の判断は、結局私の判断に任せるというものだった。

 彼は今まで私の行動を制限するような事はした事がないし、それはありがたく思っている。

 だが今回に関しては命令して欲しかった。


「恩を売ってやりやすくするのも手だ、最終的にはお前の判断に任せる」


 カーレクティオン様にそう言われてしまえば仕方ない。

 私はようやく自分の頭で考え始めた。


(恩を売るというか、人間関係を広げるのは有りかもしれない。現状私が頼れるのはカーレクティオン様だけなのだし)


 そう考えれば、今回掃除に参加して彼女らが何を思っているのか知るのは有益だ。

 特に今回は私がカーレクティオン様の関係者だと大体の人間は知っているはず。

 ならば変に手を出してくる人はいないと考えていい。


「じゃあ少しだけ」

「やったあ!」


 私の返答に、侍女達が諸手を挙げて喜ぶ。

 自分が参加する事に、こうも喜んでくれるのは存外嬉しくなってしまう。

 だが同時に、そんなに大変なのだろうかとも勘ぐってしまうが。


「ただし食事はこちらで取らせるからな」


 そんな事を考えていると、カーレクティオン様が口を挟んだ。

 食事の事は何も考えてなかったが、確かに場所が大きいから何日も掛かるかもしれない。


(けど、そんな事を気にしてるなんてなんだか意外)


 聖女を警戒しているなら行かせはしないだろうし、そうでないならこちらで食事を取らないのは彼の負担が減る事だ。

 食堂で虐められてから福利厚生だと言って食事を作ってくれているが、さすがに食事が他所で用意されている時までは用意しなくてもいいのではと思ってしまう。

 もちろん食事を用意してくれるのはこの上なくありがたいし、約束された安心があるからこんな事を言えるのだが。


「もう聖女様の息は掛かってないですよ」


 侍女もそう反論するが、そういう事ではないのだろう。


(だからこそ余計理由が分からない)


 発言の根拠がないのだ、推測もしようがない。

 だがその疑問の対象であるカーレクティオン様は、恥ずかしげもなく私達に伝えた。


「違う、ソイツの胃袋を掴んでおきたいんだ。大事な倉庫番だしな」

「「「え」」」


 予想外の答えに私達が驚いて固まる。

 だが肝心の主人は「眠いから戻る」と倉庫の奥へと引っ込んでしまった。

 当然カーレクティオン様の言葉を聞いた侍女達の口は止まる事を知らない。


「あの人って料理するんだ」「ちょっと待って、あの人ってあんな人なんの?」「っていうか大事な倉庫番って」「そもそもあなた、ここで寝泊りしてるの?」

(あらぬ誤解をされている)


 他の言い方をできただろうに、何でカーレクティオン様はあんな言い方してしまったのか。

 おかげで侍女達の盛り上がりは、膨れ上がっていくばかりだ。


「い、いいから倉庫に行きましょうよ」

「ダメですよオルガネーゼさん! まだまだ話したい事が」


 見た目は可愛らしい侍女ばかりだが、一度話題を見つけると食らいついて放さない。

 しかも今は何人もいるため、余計に勢いが増している。


 けれどそれは、うるさくて二度寝ができなかったらしいカーレクティオン様によって止められた。


「いいから行け!」

「「「はい!」」」


 背後から大声で怒られて、私達は慌てて王城倉庫に退散する。


(でも、今のは私まで謝らなくても良かったわよね)


 勢いで返事してしまったけれど、後からそう思った。




(うわあ、既に大ゲンカしてる)


 侍女に促されて巨大な倉庫に足を踏み入れる。

 するともう、そこかしこで拳やら魔法やらを交えた喧嘩が勃発していた。


(年若いとはいえ、貴族が集められているとは思えないわ)


 王城で勤務している使用人は、ほとんどが貴族の行儀見習いだ。

 だから庶民と違って最低限の礼儀はあるはずだが、これでは場末の酒場と変わらない。


「ちょっ、ちょっと喧嘩は……え?」


 仲裁に入ろうとした瞬間、違和感を感じる。


(鼻を衝く匂い、これは)


 今までそれを知識でしか知らなかったが、これはある素材の情報と一致する。

 思わず私はしゃがみながら、倉庫に響くように叫んだ。


「全員伏せて!」

「っ」


 空気中にそれが充満していたのだろう。

 何かがはじける音の後、それは爆風となって辺り一面を襲った。


「……これは酷いわ」


 魔法で強化された窓ガラスが割れきれずに軋む音、逃げようとして物をひっくり返す人たち。

 思っていたよりも遥かに酷い惨事に、思わず呟いてしまった。


(怪我人が多いとは聞いていたけど、まさか到着早々に爆発が起こるとは思ってなかった)

「ど、どうしたらいいですか」


 今の爆発で心が折れてしまったらしい近くにいた使用人の青年が、震え声で問いかけてくる。

 けれど思っていた以上に酷い惨状に、私の心もちょっと折れかけていた。

 多分今ので貴重な品がいくつか廃棄品になってしまっただろうだから。


「全員外に出てもらうしかないですね、これじゃ掃除が終わる前に倉庫の物が全部ダメになります」




 収拾を一度つけるために、いったん私を含めた全員に外に出てもらう。

 そしてしばらくした様子を見た後、もう一度倉庫に入って爆発した方へ向かった。

 幸い火災は起きておらず、近づくのは容易だった。


「これで火花が起きたのね」


 爆心地付近の床には淡く虹色に光る液体が零れている。

 これは引火性の上に、気化する素材だ。

 そして周りを見渡すと、近くには剣が散らばっていた。

 十中八九これが爆発の原因だ。


「なんで分かったんですか」

「これ自体を知ってたからです、……ってちょっと待って、あなた達もしかして何も分からないでやってるんですか?」


 私に問いかけてきた青年に問い返すと、何を当たり前の事をというように頷いた。


「同じようなものを毎年固めて置いてるだけですよ、専門外の事をやらされてる訳ですし」

「だから失敗するのよ」


 思わず敬語が飛んでしまう。

 ここで作業する危険性を、彼らは何年も作業しているはずなのに分かっていない。


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