1 初恋
こんな気持ち初めて……。
これが恋ってやつなのかな……?
胸が締め付けられる。
食事が喉を通らない。
「葵?食欲ない?どっか具合が悪いの?めまいする?」
心配そうに、そう聞いてきたのはパパだ。今は二人で夜ごはんを食べていた。
「ううん。そんなんじゃないから大丈夫だよ」
「あとで念の為、体温測ろうね」
「わかった」
本当にそんなんじゃないのに。
でもパパがそうやって心配するのには“わけ”がある。それは私の体が弱いからだ。
私は生まれつき、持病を持っている。めまいを起こしてしまうのだ。原因は不明。病名もなし。
そんなんだから、中学もろくに満足に行くことができず、結局高校には進学しなかった。
今は自宅学習をし、週に3日、女性の家庭教師の雫ちゃんに勉強を教わっている。
高校……行きたかったな。
でも仕方がない。こんなんじゃきっと周りにも迷惑をかけてしまう。
パパは家の隣に構えている、小児科の院長をしている。元々はおじいちゃんが開業した地域密着型の病院。でもおじいちゃんが亡くなる少し前に、パパが院長になった。
ママは私がまだ小3の頃に、事故で亡くなってしまった。それからはずっとパパと二人で暮らしてきた。
そういえば、その頃から体調が悪化し始めたんだ。
ごはんを食べ終わると、パパは体温計を差し出してきた。
「はい。熱測って」
「はい」
平熱だ。
それもそうだ。
私が今罹ってる病は“恋の病”なんだから。
「よかった。それじゃあはい、いつものお薬」
「うん。ありがとう」
パパから薬を受け取ると、私はそれを水と一緒に飲み込んだ。私はこれをずっと飲み続けないといけないらしい。
でも……これを飲んでも効いている感じがしない。毎日ではないけど、やっぱり定期的にめまいを起こすから……。
まあ……病名がわからないような病気なんだから、仕方ないか。もしかしたら飲まなかったら、もっと酷いことになってるかもしれないんだもんね。
数種類の薬を飲み終わると、私はリビングのソファに座った。
それにしても……
結城さん……かっこいいなぁ。
私にとっては初めての恋だった。
16歳にして、初めての恋をした。
小学生の時も、中学生の時も、学校を休みがちだったから……。
でも…
私の恋はきっと叶わない。
こんな体だから……。
結婚どころか、恋人を作るのもきっと難しいだろう。
わかってる。
わかってるけど……私は恋をしてしまった。
だけど……勝手に想いを寄せているだけなら別にいいよね?
そのくらい……許されるよね?
私はそっと、高鳴る胸に手を当て、ひとりでそんなことを考えていた。
今日は起きた時から体が怠かった。
「葵?また具合悪くなっちゃった?」
パパが心配そうに、ベッドに横たわったままの私を見ていた。
「うん……少し怠い……」
「わかった。それなら今日の家庭教師はお休みにしようか。そのままゆっくり休んでるんだよ?ごはんは用意していくから、食べられそうな時に食べてね」
パパ……
こんな私でごめんね。
「ごめんね。いつもありがとう。パパ、忙しいのに……」
「何言ってんの。パパは葵のためならなんだってできちゃうんだよ?」
得意げな顔をしてパパはそう言った。
なんだかそれがとても温かく感じ、面白くも思った。
「ふふっ」
「なに?」
「……パパがパパでよかった。パパが私のパパでよかった」
静かな部屋の中で、パパはやさしく微笑んだ。
ママが死んでしまってから、パパは一生懸命に私のことを育ててくれた。苦手なはずの料理も頑張ってくれ、今ではたくさん美味しい料理を作ってくれる。
パパは近所でも評判のいいお医者さんだ。私がスーパーで買い物をしていると、患者さんの親御さんから声をかけられ、パパのことを褒める言葉や、感謝の気持ちを伝えられたりもした。
私にとって、自慢のパパだ。
高校には行けなかったけど、私は特別な経験をしていると感じていた。
正直……
高校には行きたかった。青春がしたかった。こんな感じだから友達もいないし、ドラマや漫画でそういうシーンを見るたびに、胸が締め付けられた。
だけど……
この生活に不満はなかった。
優しいパパと、初恋の彼……。
私にとっては潤った毎日だった。
「今日は何かいい掘り出し物あった?」
夜ごはんの時に、パパがそう聞いてきた。“掘り出し物”とは、スーパーでの特価のものや、おつとめ品のことだ。
「うんっ。今日はね、椎茸が100円で売ってたんだよっ」
「ははっ。だから今日は椎茸料理がいっぱいなんだね」
パパは楽しそうに笑っていた。
私は……そんなパパの笑顔が大好きだった。
ママはもういないけど……ちゃんとうまくやってきている。ママがいないのは寂しいけど、パパと二人でもちゃんと生活をしている。
ママ……
安心してね?
パパは私のことを大切にしてくれてるよ。
ちゃんと天国で見守っててね。
私はたまに、心の中でそう呟いていた。
「あ、葵ちゃん。最近どう?体調の方は」
結城さん……
その顔を見ただけで、胸が締め付けられた。
結城さんもパパに似て、柔らかい雰囲気を持つ人だ。
今日は診察のために、午前の診療が終わる頃に、私はパパの病院に来ていた。まだ最後の患者さんの診察中らしく、私は待合室で順番を待っていた。
「最近は、割と調子がいいです」
「そっか。ならよかった」
パパと同じように、結城さんは柔らかく笑った。
好きです。
大好きです。
心の中でそう呟くと……
「僕はまだ見習い中だけど、いつか院長のようになりたいから、困りごとがあったらなんでも相談してね」
結城さんはそう言ってくれた。
そんなことを言われたら……もっと好きになっちゃう……。
私の胸の鼓動が、また早くなってしまった。
このお話は、長編になります。
最後までお付き合いいただけたら、この上のない幸せです。少しでも気に留めてくださったら、応援していただけると励みになります。
気持ち悪い描写もあると思いますが、フィクションとして、狂った世界をお楽しみいただければと思います。
(*'▽'*)




