うつし世のデート 1
無事に希望用紙を提出してほっとしたところで、月宗様からメッセージが入った。
————『正門で待ってる』
どうやってか雲雀君達にも連絡がいっているようで、私がソワソワしだしたのを生ぬるい目で見てきていたたまれない。
葉の落ちた銀杏並木を通り、奥のレンガのアーチ門の下に、大きな黒いバイクに腰掛けた月宗様が見える。
涼風がトートバッグからピョンと降りて、走って月宗様に体当たりをするのが可愛い。
「終わったか?」
涼風を小脇に抱えた月宗様が言う。
グレーのボタンダウンシャツにスーツ姿。この季節にスーツだけで寒くないんだろうか。
「うん、迎えに来てくれて、ありがとう」
「涼、これ乗って帰れ」
フルフェイスのヘルメットをポンポンと二人に投げながら月宗様が言う。
「了解~」
二人を見送ると私にマフラーをグルグルと巻きつけ、お揃いの小さなスヌードを涼風にズボッと着せた。
「月宗様は、寒くないの?」
私はレレさんが用意したウールのダッフルコートにマフラーでモコモコしてるのに、月宗様はジャケット一枚。
「俺らは人間より強いからな。涼風のは気分だ」
「ふぅん?」
「怖かったか?」
駅方向に歩きながらポツポツとおしゃべりをする。やっぱり、心配をかけたんだな。
「ううん、みんなが守ってくれたから、大丈夫」
「昼メシは食ったのか?」
「あ、うん。学食でね、みんなで食べたよ?あの二人が目立っちゃって大変だった……」
ふっと、目だけで笑うこの人の笑い方が好きだ。暖かく、包み込まれてる様な気持ちになる。
「あそんで帰るぞ」
「うんっ!嬉しい……」
うちの大学は都心にあるので駅まで出ればなんでもある。買い物もできるしお洒落なカフェもたくさんある。
八咫烏の彼とこんな普通のデートができるなんて思ってなかったから素直に嬉しい。
駅までの道を手を繋いで歩く。
涼風は小脇に抱えられたまま楽しそうにしてる。
「涼風おまえ、面はどうした」
あ、やっぱりそこ気になるよね。
可愛いし。
涼風は小脇に抱えられたままジタバタと動き、クマ着ぐるみのお腹にあったらしいポケットからクシャクシャになった布面を取り出してパタパタと振った。
「お、おう、便利だな、その服……」
「あははは!」
新しくできた商業施設をひやかしながら歩き、女子が好きそうなアクセサリーショップや雑貨屋の前に来るとそっと背中を押して誘導される。
高級路線の店舗ばかりだったから今まで入ったこともなかった。キラキラしていて、何もかもが可愛くて、ふわふわした気持ちになる。
「どれが欲しい、全部か?」
子供服のショーウィンドウ前で、マネキンを見て足を止めた私の頭を撫でて聞く。
「あ、あのポシェットがね、涼風にちょうどいいかなって」
斜めがけの丸い小さな小さなバッグ。ジップで開け閉めできて、太陽を模しているのかオレンジ色でまん丸。プラスチックのキョロッとした目がついていて可愛く、小さくSUNと刺繍が入っている。
すぐに店員さんとアイコンタクトをとった月宗様が私に手渡す。
初めてのデートがこんなハイスペックな人でいいんだろうか。
「私、ダメな子になる気がする……」
「なんでだ?意味わからん」
「なんでも。涼風、おいで?」
涼風を立たせてバッグを斜めにかけてやり、手に持ったクシャクシャの布面を綺麗に畳んでポシェットに入れてあげた。
「おうちに帰ったら、お名前かいてあげるね?」
私が言うと、じっと私を見、ジップをそおっと開けたり閉めたりを繰り返した後、肩紐をギュッと握りぺこりと頭を下げた。
この子のお気に入りはわかりやすくて可愛い。
「ふふふ、大切な物はそこに入れておでかけしようね?」
涼風は少し考えた後、空間に手を突っ込んで藍染めの三角積み木をとりだして、そおっとポシェットの中に入れた。
可愛いがすぎるな。
「疲れただろ。少し休憩するか?」
「あ、うん、でもこの辺はカフェは沢山あるんだけど、どこもいつもいっぱいで……」
カフェ難民になること必須の地域だ。月宗様が行列に並ぶ姿が想像できず、庶民がどう案内したらいいのか迷う。カフェなんてほとんど入ったことないし。
「大丈夫だろ」
なぜかエレベーターホールにエスコートされて戸惑う。この上はホテルになっていたはず。すごく高級な。
エレベーターの扉が高層階で開き、見えた先はホテルのラウンジで、壁一面のガラス窓から街並みが見える。
「お待ちしておりました」
ウェイターが頭を下げる。いらっしゃいませの間違いかな。
「奥の席を」
「かしこまりました。人払いをいたしますか」
「いや、適当でいい。周りの席は空けておけ」
「ご随意に」
ポンポンと交わされる会話に呆気に取られていると、月宗様に手を引かれる。
「青幽グループ!?」
ニヤッと笑って空いた手で涼風を抱き上げ、ズンズン進んでいく。
「やっぱり私、ダメになると思う…………」




