妖狐の当主 1
お洒落なモスグリーンの招待状が10枚ほど私の部屋に届けられたけれど、レレさんがすぐにどこかへ持って行ってしまった。
高校までずっと桜子と一緒で孤立させられて、友達なんかひとりもできなかったし、大学はやっと離れたけれどアルバイトで忙しすぎてそれどころじゃなかった。
こういう事を人に言うのは恥ずかしく、情けない……と思ってしまう。頭ではそんな事ないと分かっていても気持ちがついていかない。
週末の予定を聞いて、気軽に遊びに誘える友達なんて私には皆無だし、ましてやパーティーに誘えるような知人なんていないに決まってる。
「今日は狐の当主からランチのお誘いが来てます!サンルームかぁ。何を着ましょうか!」
レレさんがクローゼットと睨めっこをして、その隣で涼風がクマの着ぐるみを引っ張り出してる。(わりとクマ率が高いのは気に入ってるんだと思う)
「これにしましょう!絶対可愛い!!」
藍色のベルベットキャミワンピース。
肩紐は配色の黒い幅広ベルベットリボンになっていて可愛らしい。
「今冬だよ?寒くないかな」
境目屋敷の中は床暖房が効いていてすごくあったかいけれど、さすがにキャミソールワンピは大丈夫なんだろうか……。
「サンルームをなめたらいけません!!暑いぐらいになりますよ!あとこれ絶対可愛いですから!!!狐の野郎、センスだけはいいな!あ、あと顔も良かった!!若負けてる~~~!」
「あはは、あ、涼風!下着をはこうね?着せてあげるからおいで?」
元々涼風が狩衣の下に着ていたのは金太郎の前掛けの様な下着で(初めて見た、あれ実在するんだな)新しく用意したトランクスタイプの下着とランニングの肌着の着方が分からないのか放っておくとスッポンポンの上に着ぐるみを着ようとする。
着ぐるみは後ろジップなのでうまくできない涼風は、足と腕を通したところでレレさんや私の前に来て背中を向けるのが可愛い。
涼風にちゃんと肌着を着せてクマの背中を閉じてやると、手に棒を出した後どこかに消えた。四つ守さん達の所にお稽古に行ったんだな。
「笹音さんと二人きりは緊張するな…………月宗様も、一緒ならいいのに……」
「くぅう!今のセリフ若にも聞かせたい!!」
「何を話したらいいか…………」
「今日はいい女風にコテで巻いて横に流しましょう!いい女は喋らずツンとしてればいいんです!なんならサングラスもしますか!」
クスクスと笑い合い、マキノさんも加わってあれでもないこれでもないと言いながらアクセサリーを選ぶ。
月宗様から送られたオパールのイヤリング。
小さくて華奢なデザインで、丸いオパールの周りにアンティークゴールドの粒が並ぶ。
「二十歳になったら、ピアスを開けたいと思っていたの。イヤリング、落とさないと良いけど……」
「おぉ!良いですね!若に言ったらいいですよ。妖力の扱いが上手いんで気づかないうちにちゃちゃっとやってくれますよきっと!蚊に刺されたみたいに!!」
「ええ本当!?」
「あの人できない事ないんで!」
「羽根の制御も??」
「羽根?若ほど早く飛ぶ八咫烏はいませんし、羽根で起こす風にまで妖力のせるでたらめっぷりです!四つ守も強いんですけど守られる必要なんてないぐらいべらぼうに強いのが若ですよ?羽根のコントロールなんて八咫烏一じゃないですか?」
私の前で羽根のコントロールができない月宗様を思い出してニマニマしてしまう。
「あれ?そんなに強いのに、嫁取りまでして力が欲しいの??」
「狐と犬っころの当主も強いんですよー。しかもあちらは一族全体の力も強いですからね。当主の力だけで言えば若も負けてないんですけど…………八咫烏は少数精鋭ですし、私達みたいになんの力もない者も多いですから……。花嫁は当主に力を授けますけど、力を授かった当主の率いる一族は繁栄すると言われてます!八咫烏、お嫁さんもらった事ないんで他族情報ですけど!!」
「強くなって、何と戦うの?」
刀とか剣とか、涼風の鉄でできた棒とか、ちょっと大げさじゃないだろうか。
「おわっ!時間です!!ちょうどいいんで狐野郎に聞いたらいいですよ。あいつ説明も上手いんで!くぅぅ、若、また負けてる!!」
グイグイと背中を押されて部屋を出て大階段の踊り場に出ると、笹音さんが手すりに体重を預けて待っていた。私を見てにっこりと笑う。
「お美しいですね。冬の妖精の様です。あなたに似合うと思った私の見立ては間違いじゃなかった」
手すりに半分腰掛けたシャドーストライプのスーツを着た笹音さんはポケットに両手を突っ込んだまま話す。
この人のこんな崩した立ち振る舞いを初めて見た。
いつもピシッとして隙がない感じなのに。
長いサラサラとした銀髪を柔らかく一つに縛る水色の組紐が揺れる。
細身の体にベストのあるスーツが映えて、組紐とお揃いの色目で揃えたネクタイのおしゃれ度が高い。
もう海外俳優みたいに見える。
雑誌の表紙にそのままなりそうだもの。
「エスコート致しますよ、姫君」
指先にキスが送られて、どういうリアクションをして良いかわからず固まった私を見てクスクスと笑う。
この人、こんなひとだっけ?




