高台のデート
私が抱っこするには積み木が重いので、月宗様がひょいと涼風の首根っこを掴んで自分の肩に肩車をしてくれた。
「結衣が重いだろ。積み木は小四郎に持たせるか?」
きょとんとした涼風は二本指で空間を縦に切る動作をすると、そこがパックリと分かれて中に虹色の空間が見えている。
風呂敷ごとその空間に積み木を入れ、少し考えた後ぐいと片腕を肩まで中に突っ込んだ。
しばしののちに出てきた小さな恐竜の手には、藍染された四角い積み木が一つ握られていて、涼風は満足した様にまた空間を閉じている。
「何でもありですね…………」
光久さんがあっけに取られた声を出す。
「涼風すごい!積み木どこに置いたの?」
「れれ」
「ふふ、レレさんきっとびっくりしたねぇ!」
「腰ぬかしてるかもな」
月宗様が笑う。恐竜着ぐるみの腕ですぐに涼風とわかっただろうけど。
積み木をレレさんに預けた涼風は、街歩きの間じゅう月宗様の肩と私の腕の中を行ったり来たりしていた。
◇◆◇
「おまえらは涼風連れて先に帰ってろ」
門前町をみんなで堪能して疲れた頃に月宗様が四つ守に向かって言う。
「よろしいのですか。危険では?」
「いい。俺の刀をよこせ。安心しろ涼風、必ずお前の元に返す」
何を言っているんだろう。現代日本で、危険な場所なんてあるんだろうか。そして普通に銃刀法違反じゃ…………。
月宗様が刀を腰に下げたのを見て、涼風が小四郎君の肩に移動して行き、髪を引っ張って遊び始めた。
「いでっ!涼風まで俺をいじめる!!」
クスクスと笑うと月宗様の視線に気が付いた。
私が楽しそうにすると切長の目が一瞬ふわりと優しく細くなって、眩しそうにする。
胸がいっぱいになって、ともすると痛いと思うほど心臓がバクバクと音を立てる。
初恋って痛いんだなと、彼を見て思う。
過度なほど大切にされて心臓がもたないな。
物語の中の様で頭がふわふわしてしまう。
「何でそんな物騒な物持つの?」
「あ~~~、今日した儀式はただの挨拶だがスタートの合図でもある。今まで結衣と桜子は神界に守られていたが、こっからは俺達に下賜されたとみなされる。やりたい放題やる種族も出てくる」
ぼんやりする頭を叱咤して質問をするとよくわからない答えが返ってきた。
譲り合いのエスコートが無くなるって事だろうか。
「俺達眷属だけなら問題はそう無いが…………眷属の座を狙う種族は他にも沢山いる。大抵は雑魚だから俺がいれば近づいてこないから大丈夫だ」
そう言って月宗様はまた私を抱いて空を飛ぶ。
あたりはとっくに暮れていて、夕日のオレンジが夜の闇に飲み込まれていく様が月宗様の動いた軌跡のように見える。
圧倒されるような黒い気配。
闇なのに、キラキラしているように感じるのはこの人の雰囲気がそうさせているのかもしれない。
「ついたぞ」
「わぁ!!綺麗!」
伊勢を見下ろす高台の大きな杉の上。
街並みの夜景と、湾を通るフェリーの光がキラキラと輝く。
どうやって木の頂点に立つのかは知らないけれど、地面に立つように月宗様は普通にしてる。
私を縦抱きに抱き変えて周りを見やすいようにしてくれた月宗様は何か葛藤している風でワナワナとしている。
「どうしたの?」
「お前を抱いてると羽根が言うこときかねぇ!」
景色を見せに連れてきてくれたのに、月宗様の羽根がどんどん私の視界を黒く染めていく。
あったかいのに、冬の朝みたいな匂いがする。
私の好きな、この人のにおい。
「これでいいよ」
「見えねぇだろうが。意味ねえ…………」
「ここがいい」
「……………………おう」
私を抱いたまま何かをしたのか、サワサワと木が動く音がして、ストンと下ろされた場所は4本の杉の木の枝が複雑に絡み合ってできた床だった。あぁ、また子供の頃の様に木にお願いしたんだなと分かって口元が綻ぶ。
すぐに隙間なく覆い被さる羽で木も見えなくなり、月宗様が私を膝の間に座らせた。
夜の闇より濃い黒が、私をこんなにも安心させる。
「結衣…………八咫烏の里に来い」
「?お嫁に??」
つい口から出た大胆な直球すぎた質問にボボボと顔が赤くなっていく。真っ暗で、気付かれない事が幸いだ。
「…………それは簡単には決められないだろ。境目屋敷より里の方が守りやすい。いずれにせよ花嫁はどこかの里に行く事になる」
「境目屋敷って、あの洋館の事?変な名前……」
「現世と、隠り世の狭間に建ってんだよ、あそこは」
ふぅん。
ドキドキしすぎて話題を逸らした自覚はあるけど、バクバクとした心臓はちっともおさまらない。むしろもっと悪くなってる気がする。
「月宗様」
「ん?」
「月宗様と、一緒にいたい」
「お前…………さらうぞ」
「いいよ」
どうせ私は貴方しか見えてないのだから。




