サナエさんの徒然揺蕩
--- イシュタル大陸 イシュタル帝国 ベレギニア地域 帝都:ティエンフー
現在、サナエさんはティエンフーの国際空港にいる。
これから空港を出て、地下鉄と徒歩で待ち合わせ場所に向かう予定である。
「セレン。 ここから目的地までどれくらいかかるの? 」
『そうですね。 電車に揺られて徒歩ですので 半時(1時間)程度でしょうか』
空港に迎えが来るかと思ったが、そんなことはないようだ。
とはいえ。サナエさんはそんなことは気にしない。
新しい街に興味津々のようである。
しかしながら、さっそく地下鉄の洗礼をあびる。 乗車した後、しばらくすると隣の車両でケンカが始まる。 近くには酩酊者や歌を歌っている者もおり、なかなかの混沌ぶりである。
そして、いつも通り、彼女を遠巻きから好奇の目を向けられる。 これは、いつもの事として、誰も自分に声を掛けてこないのは幸いである。
始まったケンカは、鉄道警備トークンにより対応されているようで、早い段階で静かになる。 地下鉄らしい衛生感であるが、治安に関しては、警備トークンの強力な力で、管理されているようだ。
それであれば、自分に声をかけて来ない理由も納得がいく。 ちなみに、周囲に迷惑を掛けていない? 酩酊者は放置のようだ。 暴れなければ基本無視との判断なのだろうか?
満員電車であれば地獄であったが、昼間ということで空いているため心地よくはないが、途中下車をすることなく目的地に向かう。
地下鉄は、しばらくすると地上に顔を出す。そこにはエリスを凌ぐ都会の風景が顔を見せる。 高層ビルが林立し、ビル間を大型運搬ドローンが飛行している。 ハイウェイも高層エリアを通っており、多くの車両が行き交っている。
ハイパービルディングと呼ばれる超高層建築物においては、車両からではてっぺんすら見えない。
乗車している地下鉄もいつの間にかレールが、空をはしっている。
「凄いわね。ウェヌスの首都を標榜するだけの規模はあるのね」
『推定人口5000万人。郊外を含めた人口は、1億人ともいわれています』
セレンが解答する。
「集中しすぎていない? 」
『それもこの都市の魅力でしょう。過密都市は首都のシンボルです』
「それもどうかと思うけど? 」
地下鉄は目的の駅に着く。地下鉄と言いながら、駅は地上になっている。
そして駅舎もまた、地面ではなく建物の上にある。
3階くらいだろうかそこから地上に向かう。建物内は、地上までスロープのせん状の動線を移動するようだ。 エレベーターやエスカレーターの利用もできるようであるが、スロープで歩いた方が早い。
「これ、電車に乗るのも一苦労ね。ラッシュ時とか大丈夫なの? 」
『大丈夫ではありませんね。 時たま通勤時に乱闘騒ぎも起きるようです。 帝都の名物らしいですよ』
「……」
(どんな名物なのよ)
商業ビルディングのためか店舗も充実している。 昼間のため営業しておりそれなりに活気がある。
「……あのデザイン……いいわね。 ちょっと見て行っていい? 」
サナエさんが、気になるブディックを指をさす。
『待ち合わせの時刻までには、まだ余裕があります。 いいでしょう』
セレンの了解を得て、ちょっと楽しくなってきているサナエさんがいる。 あちこちの衣料品を見て楽しんでいる。
ラッシュ時でなければ、駅への通路はかなり楽しいルートに見える。 各フロアでウィンドウショッピングを楽しみながらフロアを下がっていく。
「いいわね。楽しくなってきた! 」
『それはなにより』
セレンが相づちを入れてくれる。
駅のビルディングから地上に出る。 屋外に出るとまさにコンクリートジャングルかウォール街と言った風景が目に飛び込んでくる。
流石に空飛ぶ自動車はないが、ビルの谷間になっており、空は狭い。 大型ドローンが、荷物を運んでいる。 先ほどの地下鉄からの光景を地上で見ている。
「セレン。待ち合わせ場所はどっち? 」
『では案内しましょう』
道を歩くとやはりサナエさんは目立つ。
マールス人の相貌は、先天的に惑星間基準でどうしても優れている部類にはいる。
そのためやたらと瞥見される回数が多くなるのは仕方がないのが、彼女としては、鬱陶しこと極まりない。
加えて地下鉄のように鉄道警備トークンもいないため、彼女へのナンパも多い。 しかし、それらもいつも通り躱していく。
大柄なウェヌス人相手でも、こちらにはトークンがいるため、相手も無理強いできない状況になっている。 トークンがお守りになっている。
ティエンフーは、まさに雑踏と呼ぶにふさわしい状況であり、自動車も多く、自動車音や騒音の中、目的地に進んでいく。
(エリスも凄かったけど、ここはそれ以上に圧迫を感じるわね)
実際、エリスのよりも人口密度が高い。加えて、密集しているため争いごとも絶えない。
先ほどの乱闘が帝都の名物と言っていたのも恐らくそのような背景によるものだろう。
(好戦的なのに密集するってどうゆうことかしら? 離れていれば争いも起きないと思うけど)
そんなことを考えて、周囲を観察しながら移動しているサナエさん。
『近くですね』
先を歩いているセレンが、角を曲がり、状況を報告してくる。
周囲の建物が高く、壁のようになっているため大通りまで出ないと、セレンが示している場所が見えない。
セレンの所まで、小走りで駆け寄り目的地の場所を見て、彼女は唖然とする。
「……なに……ここ」
・
・
・
密集都市の真ん中に開けた巨大空間が広がる。
(公園? それにしても広すぎる)
<帝国統一広場>
と看板に記載されている。
『イシュタル帝国が大陸を統一した記念に造られた広場です』
「へーこれだけ密集した地域にこんな広い土地があったわね……」
『いえ。 あったわけではないようです。 ここにあった建物を一切合切取り壊して造園したのでしょう』
「なんでそんなことを」
『皇帝の力の象徴でしょうね』
「力の象徴? 独裁者とかは、普通は銅像とかじゃないの? 金ぴかのヤツ」
『ウェヌス人の感覚としては、破壊される可能性ある銅像は、野暮なのでしょう。破壊できず、かつ己の力を示す手法、街中に強制的に開けた空間を作れる権力は、彼らの力の示し方なのでしょう』
(なるほど……そうゆう考えもあるか)
しかし、家族連れや子供たちが駆け回っている辺り、そのことを認識しているのかしら?
緑もあり都会のオアシスのようになっている。恐怖というより安寧の方な気がする。
サナエさんは暫くその光景を眺めている。
しかし、冷静に考えれば銅像よりも、密集都市の建物を強制的にどかして巨大な公園を造る力は、確かに凄い。
これだけの都市であれば地価はべらぼうに高く、土地の権利は複雑に絡んでいるはず。
それを皇帝の一存で更地にする権力。
反発があったことは、外部の人間でも容易に想像が付く。
しかし、更地になっている以上、おそらく全て封じ込めることが、できているのだろう。
分かる人間には、わかる皇帝権力の強さか。
逆にそうゆう人間のみに分からせる方法となれば、なかなか陰湿な方法ともいえる。
その考え方に多少の恐怖が過る。そして目の前のスケールの大きさに唖然としているサナエさん。
「キャミャエル様? 」
突然の呼び掛けに振り向くと小麦色の肌の銀髪の女性が立っている。
髪は後ろで結ってあり、背はサナエさんと同じがやや高い。
「そうですが……」
「私。“アーサ・ブカブ社”の人事を担当しておりますローラ・ヤールと申します。 ここから会社までお送りしろと申し使っております」
「ああ。貴方が案内してくるのね」
「はい。如何でしたか。帝都の御様子は? 」
「凄いわね色々と」
「キャミャエル様は、好奇心が旺盛とのことなので、帝都見学かねてここまで来てもらいました。 本来なら空港に迎えに伺った方がいいかと申し上げたのですが、要らないとの助言もありましたので」
「誰がそんなことを」
「タツマ様と聞いております。 “テキトーでいいよ”と”街中も見たいと思うから歩かせて”と聞いております」
(あんにゃろー)
『事実だと思いますよ。本人の性格をよくわかっていますね』
セレンが同意する。
「……」
(このAIとタツマは、私をなんだと思っているのだろう)
「ご安心ください。ボディーガードも空港から付けておりましたので」
「セレン。あんた気付かなかったの? 尾行されているのよ」
『気づいていましたが、こちらを監視しているだけでしたので。 それに街中でこちらを襲うとは考え難いと判断しました。 サナエが楽しんでいる様子でしたので、進言を控えました』
そうゆうものなの?
「でも噂通りです」
「? 」
「モデル見たいですね。その肌の手入れどうしているんですか! 髪もサラサラで秘訣はあるんですか! 」
「お……おぅ」
急に変わるタイプね。
自分の興奮を直ぐに理解した女性は、軽く咳払いをして
「さっ。向こうの自動車に」
やたら長い自動車が止まっている。
--- 高級車 車内
また随分と車体が長く、移動車両でありながら、乗車席の空間が広い。
「弊社役員用の最上級車をご用意いたしました。乗り心地は如何ですか? 」
今まで貨物車両ばかり乗っていたが、それに比べてれば遥かに乗り心地はいい。
「快適ね。素晴らしいわ」
ただし、妙な音楽やワイワイ騒いだり、気が許せる環境が無いことを除けばになる。
「ありがとうございます。脇のダッシュボードにはお飲み物がありますので、ご自由にお飲みください」
外の景色は、金星の首都を標榜するだけの規模になる。街には多くの人が歩いている。サイボーグ化した人間もかなり見かける。
「因みに、キャミャエル様。 地下鉄はいかがでしたか? 」
「なかなか個性的な車両だとは思ったわ」
「でも治安は安心してください。 ケンカやなどの混乱時には警備トークンが出動するシステムになっておりますので。 まぁ不衛生なのは愛嬌ということで」
あれを愛嬌と言うには、少しきついと思う。
「それにしても、ボディーガードの尾行に気づくとは、優秀なトークンでいらっしゃいますね」
「まーね。 惑星間随一よ」
「キャミャエル様が言うと本当のように聞こえますね」
御付きの女性は上品に笑っている。
実際に、オーバーテクノロジーじみた技術を用いているんだけどね。
「私も人事を担当しておりまして、こうしてお世話をさせていただいております――」
「? 」
「契約とは少し外れますが――」
「? 」
「弊社の広告塔になってみませんか? 」
「無理でしょ。研究開発の仕事で来ているのよ」
「大丈夫です。写真をこう2~3、数枚使わせていただければ。写真を撮って終わりですので、お時間は取らせません。弊社のスローガンにキャミャエル様の姿が、載るだけです」
まーそれならいっか。 しばらくお世話になるんだし。
「それくらいなら構わないわ」
「ありがとうございます。きっと素晴らしいポスターになりますわ」
その後、IDカードを渡される。 サナエさんは招待研究員との立場になるIDカードのようである。 敷地内の移動時は、常に見えるところに付けていて欲しいとの。
とはいえ、周囲の風景が気になり聞き流しているサナエさん。
車両は、コンクリート渓谷を進んでいく。




