山田 優一(やまだ ゆういち)9
動けずにいた僕の代わりに、滝中から銃口を逸らしたのは、渡部から死角になっていた所に居た橘誠也だった。
滝中の親友だ。
「大丈夫か、怜、凛」
橘に背中を蹴られ、ツンのめりながら倒れた渡部の手から銃が転がり離れていった。
篠本さんを庇う滝中を、更に庇う様に立っていた凛ちゃん…そしてその隣で呆然と立ち尽くす僕。
何の役にも立ちもしない。
イケメン2人が手を取り合い立ち上がり、自分の片想いしている女の子が2人に向けて笑顔を送っている。
ただ、その図を立ち尽くして見てる僕。
座り込んだままの篠本さん。
倒れたままの…渡部。…?渡部…?
渡部が居るはずの場所を見ると、居なくなっていた。
あいつは音もなく移動したのか!?と思った矢先に、首根っこが引っ張られ僕は後ろに倒れた。
そのまま引き摺られて行く…振り返ると僕の襟を掴んだ渡部が、鬼の形相でドアに向かっていた。
イケメン2人と僕の好きな女の子…更には他の人達との距離が開く。
僕は助けを求め様としたが、首が締まり声が出ず無様な格好でバタバタと手足をばたつかせる。が、振り解く事が出来ない。
「クッソ!クッソ!1人しかヤれなかった!クッソ!もう1人くらいはもう1人くらいは!」
何かブツブツ言っている。
ドアの開く音がして、段差に腰を打ちつつ引き摺り出される。
体育館の外に。
そして、また僕らの周りが暗くなった。
「一思いに死ねたら良いな」
頭の上で声がした。
上を向くと、渡部の顔がこちらを向いていた。
笑っている様にも見えたが、ほぼ影で見えなかった。
徐々に渡部の顔が近付いてくる。
寝た体勢の僕は触れまいと、肩を押し返してみたが、凄い力で押されているかの様にびくともしない。
渡部の身体が更にグッと僕に迫ってくる。
表情はさっきより見えた…笑っている。
何かが僕の顔に落ちて来た。生暖かい…液体。
触って確かめる事は出来なかった。もうすぐ真っ正面に渡部の顔…否、胸が迫って来ていた。
バキバキバキ…
何かが折れる音が響いた。
それに続いて僕の胸辺りに何かが落ちてくる。
ビチャビチャと液体の音がした。
「じゃーな…」
渡部が最期の一言みたいに言い捨てた後、僕の頭上側から更に何が折れていく音がした。
渡部がどんな格好をしているか僕には分からなかったが…多分、この音は渡部の身体から聞こえている…。
身体中の骨が折れていく音だった。




