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41話 作物祭り閉会【3色のカブをいただきます】

「まさか全チームが、許容量限界まで育てるとは誰も思わんじゃろ!」


 作物祭りの勝敗を競うため『魔性カブ』を用意したのはアレスターだ。詰め寄るオーク、エルフチームを抑えつつ、逃げようとする彼に納得のいく説明を求めると。


「あらまぁ! もう始まっていたのね」


 畑にやってきたのは、エプロン姿がよく似合うノーム族の彼女――。


「シンシア? どうしてここへいらしたんですの?」

「吸血鬼さんにね、『審査の公平性を保つために来てくれ』って言われたのよ〜」


 まさかアレスターが、第二の審査員を呼んでいたとは。


「それでシンシアさん……カブが同じ大きさに育ったのは、どういうわけなの?」


 シンシアの、「代わりにおばあちゃんが説明する」という言葉を聞いていたドラグが、いつも通り遠慮がちに尋ねると。


「これはね、よくあることなのよ」

「え……?」


 彼女が笑いながら放った言葉に、私だけでなくその場の全員が固まった。

 自然に関わるエキスパート、つまりノーム族を束ねる彼女によると。このカブは魔力をうちに貯められる許容量がある程度決まっており、突然変異でもない限りは一定の大きさで成長が止まるという。


「では、アレスターが言っていた『許容量限界』というのは……」

「『成長の限界』ってことね」


 アレスターは、まさか全チームがカブを限界まで育て切るとは思っていなかったということか。


「なら、味で勝負するしかねぇっつーことだべか」


 オークの長ディズロムの言葉に、エルフのシスコン、ナノがすぐさま反応した。


「臨むところだ、野蛮な連中め」

「ちょっとナノ……ディズロムさんも、落ち着いてくださいませ!」


 一触即発の空気で睨み合う両者の間に入ろうとした、その時。先に2人の間へと入っていったのは、視界を覆う大きな黒い影だった。


「あ、あのさ……どうせなら、みんなで食べられるように切ろうよ」

「ドラグ様……」


 あんなに他との関わりを避け、私の後ろに隠れることもあった夫が、自分から提案して交流を促している――彼の成長に、思わず口角が上がってしまう。


「そうですわね! 皆さん、ご自分たちの作ったカブの味が気になるのではないでしょうか?」


 すると両チームとも、ドラグの提案に賛成の声を上げてくれた。

 さっそくカナメロの指示で、力自慢のオークたちが巨大カブを切り分けはじめる。続いてミス・グラニーの指示で、エルフたちが手を使わずに魔法で皿へ盛り付けていく。そうしてあっという間に、畑はカブの立食パーティー会場となった。


「ではまず、審査員を務めるワシが食べて評価を述べようかの!」


 すっかり元気になったアレスターの前に、黄色く硬そうなカブ、緑色の宝石みたいなカブ、そして薄桃色のもっちりしたカブが並ぶ。

「美食家」を自称していたが、はたして味をどう評価するのか――。


「むっ、これはっ……!」

 

 オーク族のカブを口に含んだ瞬間、アレスターの身体が小さくのけ反った。


「噛みごたえとかすかな酸味がある、力がみなぎるような味じゃ!」


 なんだろう、このグルメ漫画のようなノリは――ともかく、次々と繰り出される食レポは意外でもなく上手い。さっそく黄色いカブの味が気になってきた。


「おお、こちらはなんという極上の舌触り……」


 エルフ族のものは、「上品に溶ける爽やかな食感で、魔力が湧いてくるような味」――今度のアレスターは、あまり喋らず旨みと香りを口に留めているようだった。

 そして最後――私たちのカブに、アレスターが手をつける。


「ふむ。やはり、お主の匂いがするのう」


 不思議な気配を漂わせる赤眼と、不意に視線が合った。


「えっ……?」


 私の血で得た魔力を吸わせたカブ――「甘くクセになる味」、と妖艶な笑みを浮かべながら評する少年執事から、思わず顔を背けてしまった。

 あのショタじじ吸血鬼、いったい何を考えているのか――いつかの晩に指を這った舌の感触を思い出し、顔と手が熱くなる。


「えっと……どういうこと?」


 アレスターと私を見比べるドラグに、何も言うことができなかった。

 せっかく仲直りできたというのに、今度はアレスターとの仲を疑われたらまずい――。


「うぅ、気になるべ……オラたちにも喰わせてくれ!」

「わ、私たちも……!」


 皿へ殺到するオーク族とエルフ族が落ち着いた頃を見計らい、カブを口にすると。


「なるほど……ですわね」


 アレスターの詳細な食レポ通り、同じカブとは思えないほどに食感や味が違う。そして黄色のカブも緑のカブも、食べ応えのある美味しさだった。

 そして私たちの育てたカブは――。


「甘い……」


 これは最初の頃、甘やかして育てた結果なのか。それともアレスターが言うように、私の血が甘いのか――果物のような食感を楽しんでいると。


「あら……?」


 オーク族のカブの前でウロウロしている、難しい顔をしたエルフが目についた。そして、彼を少し離れたところで見つめているのは――。


「カナメロ?」


 両チーム、自分たちのカブを試食しながら賑わう中。何度も前髪をいじっているカナメロを見守っていると。彼女は黄色い沢庵のような味のカブを皿に盛り、無駄に顔だけは良い2.5次元俳優に近づいて行った。


「まさか……そのまさか、ですの?」


「ん」とカブを差し出すカナメロに、気づいてしまった――あの緊張した様子、もしや彼女は、ナノに特別な目を向けているのだろうか。

 同じ異種族を愛する者同士、これは応援せざるを得ない。


「カナメロさん、がんばっ」


 誰にも気づかれないよう呟いた、その時。


「要らん」

「だぁーっ! あの良い年したツンデレエルフめ!」


 思わず飛び出た叫びに、周囲の視線が一斉にこちらへ向いた。


「あ……な、何でもありませんわ!」


 恥ずかしい――が、今は生まれつつあるラブの行方を見届けなくては。

 すぐさまお上品な笑みを浮かべつつ、再びナノとカナメロに視線を戻した。

 ばっさりと断られたカナメロが、手を引っ込められずに固まっている。ここはお節介だとしても助けに入るべきか――足を一歩踏み出した瞬間。


「わ、私はいただきますっ」


 カナメロの皿を取ったのは、()シスコンのミス・グラニーだ。


「ナイスですわ、ミス!」


 するとシスコンエルフは、渋々ながらも、ようやく皿を受け取ったのだ。姉の助力があったものの、カナメロは微笑んでいる。それは彼女が花冠をくれた時に見せた笑顔よりも、ずっと美しく輝いていた。


「……ふん、うまいな。森の木の実には劣るが」

「……うん!」


 するとその様子を見ていた他のオークやエルフたちが、自分たちの皿から離れ、別チームの皿へと近づいていった。そしてなんと、彼らは相手が作った野菜を食べはじめたのだ。


「ふむ、これは妙だがうまいねぇ」

「んだべ? アンタらのカブもなかなかだ」


 さらにナノよりもずっと素直な彼らは、互いの仕事を認め、その味を褒め合っている。


「皆さん……!」


『オークたちがエルフの森に攻めてきた』、と耳にした時は、まさかこんな風になるなんて想像もできなかった。

 種族の別なく打ち解ける光景に、思わず口角が上がる。同じ目標を目指し励むうちに、いつの間にか仲間意識が芽生えてくれたのだろう――。


「しかし困ったのう」


 背後でカブを黙々と食べていたアレスターが、「どれも美味しく決め難い」と言い出した。


「確かにそうですわね……」


 この和やかになりつつある空気の中、勝敗を決めるべきなのか。また睨み合いが勃発してしまうのでは――カブを囲んで笑い合う彼らを見つめ、悩んでいると。お馴染みの「あらまぁ」の声が上がった。


「仮にも『プロ』として呼ばれたのよ。私も、ちゃんと味合わせてもらうわ」

「シンシア!」


 そうだ、アレスターが呼んでいた第二の審査員がいるではないか。

 カフェで食事も提供している彼女の舌は信用できる。「いよいよ勝敗を決めます!」、と畑中に響くよう声を張ると、会場の全員がこちらを振り返った。


「じゃあ、いただくわね」


 100を超える視線を浴びながらも、シンシアは笑顔でカブを口にする。時々ニッコリと笑い、頬を押さえながらすべてを食したシンシアは、やがて空になった皿をガーデンテーブルに置いた。

 そして、彼女の下す評価は――全員の視線が一気に鋭くなる中。


「ぜんぶ優勝はダメなの?」

「え……?」


 いつもの朗らかな調子に、思わず目を丸くした。

 それは一番理想的な形だが、これはただの勝負ではない。


「この勝負には、それぞれの種族の命運がかかっているのです!」


 シオンに移住したいオーク族、大喰らいのオークを受け入れたくないエルフ族、そして労働力(オーク)講師(エルフ)をどちらも雇いたい私たち――事情をすべて話すと、シンシアは再び「あらまぁ」と優しい調子で言った。


「それなら、わざわざ勝敗をつけなくたって解決しているじゃない」

「解決って……?」


 するとシンシアは、私の隣にいるドラグに「だって」と微笑んだ。


「オークさん自身やエルフさんたちが不安に思っていた作物づくりを、オークさんは実際に成し遂げることができたのでしょう?」


 それは、その通りだ――いくら勝負がかかっていたとはいえ、彼らは「できない」と言っていたことをやってのけたのだ。


「それに。一緒に頑張って、一緒に美味しいものを食べたら、彼らはもうシオンの仲間でしょう?」

「シンシア……」


 その言葉に、自然と頷いていた。

 私も最初森へ向かう時は、「現実のオークは武器を振るう恐ろしい種族」だと思っていた。しかし彼らのテントで葡萄酒を振る舞われるうちに、そんなことは忘れていたのだ。


「皆さん、彼女の意見……どう思われますか?」


 静まり返った彼らに問いかけると。オークたちは、「意外と農業楽しかったべ!」と口ぐちに言い始めた。オークの長ディズロムも、達成感に満ちた表情で頷いている。そして素直じゃないナノも、「多少は認めてやる」、とディズロムを睨みつけつつ吐き捨てた。


「つーことは、オラたち、シオンさ住んでもいいってことだが?」

「……自給自足が絶対条件だ! ね、姉さん?」


 まったく素直ではないが、耳を赤らめつつ顔を背けたナノの言葉に、オークたちは雄叫びを上げた。


「ドラグ様! これ、良い流れでは?」

「うん。結果的に、エメルが最初に設定した条件が達成できたってこと……だよね?」


 私たち領主夫妻が勝利した時と同じ条件――農業に従事する労働力とその講師が手に入ったということだ。


「やりましたわ!」

「わっ……!」


 こちらに微笑んでいたドラグの両手をとり、力いっぱい握りしめた。

 不安にさせた夫と気持ちを確かめ合ったり、アレスターに血を分けたりと、ここ2週間は色々あったが――何はともあれ食料作りの労働力を確保できたのだ。

 握った大きな手を、湧き上がる喜びのままにブンブンと振っていると。なぜかドラグは急に俯いてしまった。普段は真っ白な頬が、少し熱を持っている。


「ドラグ様、どうかされまして?」

「いや……君から触れてくれるようになったんだなって、噛み締めてた」


 不意の微笑みに、握った手を緩めると――今度は黒い大きな手が、私の手を握り返した。


「……ドラグ様」


 この距離が心地よい。ずっとこのままでいたい――が、胸のブローチが「領主代理、しっかりしろ」とでも言いたげな輝きを放っている。

 名残を惜しみつつ手を解き、盛り上がるオークたちへ向き直った。


「ではさっそく、『オーク農園』を開園するにあたり、役割分担を行いましょう!」

 

 みんなの気持ちが盛り上がったまま、この流れで人員配置を決めてしまいたい。

 カブを育てる片手間に用意していた資料を取り出すと、彼らはまだ興奮気味ながらもこちらに顔を寄せた。


「さすがは領主代理さまだべ、用意がいいな」

「ふん……これくらいはしてもらわんとな」

「こ、こら、ナノ!」


 オークの長ディズロム、エルフの長ミス・グラニーとおまけにナノ。代表にあたる彼らが前に来たところで、「経営サイド」と「実務サイド」に分かれた人員配置図を広げた。


「まずは私の右目――【能力(スキル)鑑定】を発動して適性を判別する前に、皆様の配属希望をうかがいたいと思います」


 そう、和やかなこのままの雰囲気で、オーク農園の開園計画は進んでいくと思っていた。

 しかしこの時の私は、忘れていたのだ――霊峰のごとく高い、彼ら魔族のプライドのことを。

次回:不幸イベントの代名詞エルフ「【能力鑑定】……だと? 人間のお前が、いつの間にそんな高度なものを身につけた?」


転生後妻の「公開告白イベント(強制)」も必見です!

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