58 どんなに時が移ろおうとも、姿形が変わろうとも。
58 どんなに時が移ろおうとも、姿形が変わろうとも。
こまちゅ「グレイプニルを壊したら、もう2度と
ヒトの姿になれぬのだぞ!!」
ゼット「俺は、この森を守りたい。
エルフの皆を守りたい。
こまちゅにとって大切なモノは
俺にとっても大切なモノなんだ。
そのためなら、いいよ。
2度と戻れなくても。」
ゼットは、左手の手首に装着した
腕輪を叩き壊した。
冷凍庫を開けたときのように、
辺りに白い煙と冷気が漂い、少しヒンヤリした。
白い煙が晴れると、そこには全身白い毛の
大きな狼の姿になったゼットが立っていた。
その大きさは、体高2メートル。
全長3メートルに及んだ。巨大な白い狼であった。
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ーーダークエルフ国サイドーー
虫のボスキメラと
レスベラが激しい攻防を繰り広げる。
キメラ「なかなか粘るな!おとなしくしてれば、
ラクに死ねるぜ!
早くラクになっちまえよ!」
レスベラ「硬えな。しかも素早い連撃。
腕と剣が3本ある奴と
斬り合ってるようなもんだな。
刀1本だと受けるだけで手一杯だなぁ。
この硬いのを斬るには…。」
レスベラは、ヌルとの稽古で
言われた事を思い出していた。
それは、しなやかな身体を活かした弾性と、
長い手足を活かした遠心力の話だった。
レスベラ「そうか。
この間合いはアタシの間合いじゃ
ねえな。
こんな腕力頼りの攻撃じゃ
硬い奴は斬れない。」
レスベラは、キメラの攻撃を受けるフリを
しながら、フェイントでキメラの攻撃を躱した。
空振りをしたキメラの僅かな隙を突き、
キメラの腹に蹴りを入れ、間合いを少し広げた。
レスベラは刀を大きく振り上げ、体をしならせる。
そして思い切り振り下ろした。
キメラはサソリのような長い尾で反撃に出る。
力をタメ、弾性と遠心力で速さと重さが
乗ったレスベラの一太刀が、
キメラの尾を切断した。
焦ったキメラが一歩退いた。
レスベラは刀を振り下ろしながら、
しゃがみ込むように低い姿勢に。
そこからさらに一歩踏み込み、
ジャンプをするかのように自身の
体を持ち上げる。
振り下ろしからの
返す刀でキメラを斬り上げる。
刀を使い、まるでキメラを持ち上げるか
のように下からの斬撃に自分の体重を乗せた。
キメラはまるで袈裟斬りをされたかのように、
下から斜めに両断された。
先程まで斬れなかったカマも、
キレイに切断されている。
レスベラ「やっぱ稽古は大事だなぁ。
フレームアイにも
遊んでもらわねーとな。」
レスベラが辺りを見渡すと、
昆虫軍団は、ほぼ壊滅していた。
レスベラ「クルム!森の方に行こうぜ!」
クルム「走って行くの?めんどくさ。」
渋々とクルムが走り出した。
レスベラも追いかける。
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ーー白エルフの森サイドーー
大きな氷狼へと姿を変えたゼットが走り出すと、
ゼットが通った跡に霜が降り、火が消えた。
ゼットが高速で燃える森の外周を周り、
炎を消し止めた。
ゼットが、こまちゅの前で足を止める。
その時、いきなりゼットの目の前に人が現れた。
現れたのは、年老いた小人のような
魔道士風の男であった。
男は、ゼットの前左足の爪の先に
指輪のような魔法具を嵌めた。
ヌル「隠蔽魔法か!
俺やエルフを騙すとは!
かなりの実力者か!?」
こまちゅが動揺している。
こまちゅ「……アレは……。」
レイカ「マズイね。」
男「やった!やったぞ!幻獣『氷狼』!
まさか人間に化けていたとはな!!
さぁ、お前はレイド様と隷属契約が結ばれた。
最初の命令だ。
エルフを皆殺しにしろ!!」
(魔法具"完全隠蔽の腕輪"は、
一度でも誰かに触れると効力を失う。
…俺はもう逃げられん。
頼むぞ氷狼よ。)
ヌル「飛蝗も、アマツも、スカディも。
ダークエルフ国襲撃もミスリードか!
本命は、ゼットさんの捕獲か!」
ゼットが苦しみだした。
男「どうした!早くやれ!」
男がゼットの脚に蹴りを入れた。
男「ギャアアアア!」
男はゼットに踏み潰された。
ヌルはスキル『操作魔術A級』を手に入れた。
ゼットが遠吠えのような声を上げ、暴れ出した。
ゼット「オアアアアアアアアア!!」
ゼットが次々とエルフの兵士たちを襲い、
薙ぎ倒す。
その動きは速く、普通の人間では
太刀打ちできそうにない。
ヌルは地面に剣を突き刺し、魔力を送り込んだ。
地面から土で出来た腕を造り上げ、
ゼットを捕らえようとするも、
速すぎて捕まえられない。
ヌル「速い!ダメだ!!
せめてアローヒさんがいたなら…。」
こまちゅ「隷属の指輪…。
ゼットを止めるには…。」
こまちゅが、思い詰めた顔をしている。
レイカ「諦めるな!!
ヌルちゃん!
隷属の指輪を解除する方法さがして!」
レイカは、ゼットに向けて風の魔法を放つ。
ヌルがバチバチという音を聞いた。
音のする方を見ると、
うまーるがブチ切れていた。
青白く光り帯電する、うまーる。
うまーる「こうやって服従させてるんだね。
無理矢理。
許せないんだよ。
わたしがゼットくんの相手をするよ。
ゼットくんを必ず助けてね!」
うまーるはヌルのカバンから、火鼠の皮革と
アラクネ絹を取り出し、走り出す。
ヌル「そんなもので何を!?」
うまーるは、ゼットの背中に飛び乗った。
うまーるの両足から雷が放たれる。
うまーる「雷神の進撃【炸雷・サクイカヅチ】」
両脚を使うことで、右脚の電荷の付与と
左脚の放電を時間差無しで放つ
新技のようだ。
そのまま、うまーるはゼットを蹴り離脱した。
ゼットは耐性があるのか、
あまり効いていない様子だ。
うまーるを敵と認識したゼットが、
うまーるを追いかける。
うまーるは人間離れした動きで、
ゼットを撹乱する。
地を蹴り、木を蹴り飛び跳ね、
アラクネ絹を使い空中で急停止など、
トリッキーな動きでゼットを翻弄する。
ヌルはしばらく、うまーるの動きに
見惚れていたが、我に返り検索魔法を使った。
ヌル「隷属の指輪。外せない…!
無理に壊すと、装着した者が死に至る…。
権利の譲渡が可能。しかしこれは…。
これは…。打つ手が無いか?
あった!
……強い魔力で上書きが可能!!
こまちゅ様!強い魔力で上書きが可能です!
ゼット君をおとなしくさせれば!!」
レイカ「アンタ魔力は?
アマツ相手に使ったよね。」
こまちゅ「魔力など、残っておらん。
しかし手はある。」
レイカ「アンタまさか!アレを使うの!?」
こまちゅ「ゼットを殺さずに済むなら
命など惜しくない。」
ヌルも走り出し、うまーるに加勢する。
ゼットはヌルに気づき、氷の爪を振るう。
ヌルは盾で受けるも、吹き飛ばされる。
うまーるが、この隙を見逃さなかった。
火雷を両手で持ち、弓で矢を引き絞るように
ゼットの右前足に狙いを定める。
うまーるが電気のチカラで火雷を放った。
うまーる「ゼットくん、ごめんね……。」
火雷はゼットの右足を貫通し、
足元の木に刺さった。
ゼットの右足が磔にされた。
足を引き抜こうと必死なゼットの首に、
うまーるが飛び乗り、ゼットの顔に
火鼠の皮革を被せ話しかけた。
うまーる「ゼットくん。忘れないで。
ゼットくんが守りたかった森のことを。
ゼットくんが守りたかった
大切なヒトのことを。
エルフのひとたちのこと。
こまちゅ様のこと。
ゼットくん。忘れないで。
ゼットくんのことを
大切に想っているヒトがいることを。」
ヌル「火鼠の皮革…。
状態異常耐性が効いてる…?」
ゼットが苦しみだし、葛藤している。
ゼットは何かを思い出そうとしているようだ。
こまちゅが魔法を使った。
その魔法は、自分の寿命と引き換えに
魔力を高めるものだった。
みるみる、こまちゅの顔が
老婆のようになっていく。
こまちゅが、
ゼットに嵌められた指輪に手を添える。
こまちゅが魔力を込めると、
指輪が輝きゼットは大人しくなった。
レイカが動かなくなったゼットに、
安眠の香り魔法をかけ、眠らせた。
こまちゅ「はぁ。
もっと早く寝かせられなかったのか。」
レイカ「アタシの香り魔法は、
動く相手と相性悪いの!
うーちゃんが止めてくれたから
出来たんだからね!
ちゃんと御礼言いなさいよ!」
こまちゅがゼットの首に手を回し、寄り掛かる。
こまちゅの頬を涙がつたう。
こまちゅ「……旅人たちよ。ありがとう。
……ありがとう。心から感謝する。
……そなたたちは、
私の、エルフの恩人だ。」
こまちゅの左手首に巻かれていた、
荊の腕輪がスルスルとほどけ、
左薬指に移動し、指輪となった。
指輪に小さな4つの薔薇の花が咲いた。
ゼットの左前足薬指の爪に嵌められた
隷属の指輪にも、小さな4つの薔薇の花が咲く。
こまちゅ「……そなたたちのおかげで、
これからも変わらず一緒に過ごせる。
どんなに時が移ろおうとも、
姿形が変わろうとも。
これまでと変わらず一緒に。
病める時も、健やかなる時も、
ずっと一緒に。
供に生きてゆける。」
こまちゅの性格からして、
5個から4個にデザイン変更された理由が
語られる事は、この先も無いであろう。
四つの薔薇の花言葉
【死ぬまで気持ちは変わらない】




