其の5 四つの季節と女王の旅立ち
其の5 四つの季節と女王の旅立ち
いよいよです この島に季節が巡り始めるのです!
季節の女王達が 季節を巡らせるのです!!
季節を巡らせるには 季節の女王がこの島の高くて大きな塔に入って 毎日お祈りをしなければ なりません
季節の女王は 春 夏 秋 冬 の四人です
春には 春の女王が塔に入って 毎日 春のお祈りをします
夏には 夏の女王が塔に入って 毎日 夏のお祈りをします
秋には 秋の女王が 冬には 冬の女王が 毎日お祈りをします
そうして 島の季節は 巡っていくことになるのです
さあ 島の人々が 今迄誰も知らない 春が始まろうとしています!
春の女王は 年老いていましたので
ゆっくり ゆっくり 島の東のお城から 歩いて塔に向かいました
春の女王が歩いた跡には 春の花が咲き始めました
それは この島には今までは無かった花々でした
年老いた春の女王が 腰を少し曲げながら大変そうに歩いているのを見た島の人達は 馬に乗せて 塔まで連れて行ってあげようとしました
しかし 春の女王は言いました
「塔に向かうのも 季節の女王の仕事なのです 季節は少しづつ変わるもの どうかそっとして下さいな」
その言葉を聞いた島の人達は 春の女王が塔に向かうのを 見守ることにしました
それは 他の女王も同じでした
ですから この後ずっと島の人達は 季節の女王が塔に向かうのを 見守ることがほとんどでした
ただ一人を除いては ですが・・・
春の女王が 塔にたどり着くと 塔の魔法じかけの扉は勝手に開きました
そうして 春の女王が塔の中に入ると 扉はまた 勝手に閉まりました
春の女王は 長い階段を上って行き あの王様と始めて合った 塔の頂上の丸い広間へと たどり着きました
そして 疲れた身体を 広間の石の椅子にあずけて一休みしました
それから「やれやれ では さっそく始めようかね」と そう言った後に 少し疲れた春の女王でしたが 早速 お祈りを始めました
春の女王は 塔の広間で 声高らかに春を宣言します
「今ここに 春の始まりを告げます 春の風を!」
すると 塔の周りから穏やかな風が広がりました
それは いつも夏の暑さのこの島にとっては とても涼しい風でした
春の女王は 毎日 朝と 昼と 夜に 欠かさずに春のお祈りをし続けました
島は 日増しに春めいていきました
それは とても・・・とても・・・ 心地のよい季節の始まりでした
島には それまで誰も見たことの無い 春の草花が生え始めました
それに合せて 白や黄色やムラサキ色のチョウチョや 色々なハチや てんとう虫などが島のアチコチに出てきました
そうした春は 海の近くから始まりました
それは 不思議で美しい景色です
島の人達の心は ウキウキとしていき 子どもたちは 見たことの無い花や虫達に 大はしゃぎでした
それでも 土にしっかりと根ざしていた木々は いつもとあまり変わりませんでした
木々達が変わっていくには それから 何年も何十年もの時間が必要でした
それは 木々達にとっては とても辛くて 厳しいできごとだったのです
常夏の島に根ざしている木々達は そのほとんどが 枯れていく運命だったのですから・・・
春の終わりごろ 夏の女王が 島の南のお城から塔に向かって歩き始めました
夏の女王は 黄色い素敵なドレスを ヒラヒラと春の風になびかせながら 楽しそうにして塔に向かいました
その歩いた後からは 夏の熱い空気と 地面からは夏の花と虫達が出てきました
夏は常夏のこの島にとっては いつもの季節でしたから 島の人達は あまり心配しては居ませんでした
夏の女王が 塔にたどり着いて 塔の頂上へと着いた時
年老いた春の女王は
「やれやれ やっと私の仕事が終わったみたいだね」と言って 夏の女王と互いにお辞儀をしました
夏の女王は「後は 私の季節ですから 来年までごゆっくりと おやすみ下さいませ」と言って 春の女王に優しく声を掛けました
そして島には 夏がやって来ました
その夏は いつもの夏よりも 暑い夏でした
それは 夏の女王の歳が 今 一番元気な時だったからなのでした
島の人達は いつもの体に慣れた夏になると思っていたので 思いの外 うんざりしてしまいました・・・
暑かった夏も終わるころ 秋の女王が 西のお城から 塔に向かって歩き始めました
秋の女王が歩いた後からは 秋の乾いた清々しい風が吹いて 草は少しずつ黄色く色付いていきました
それまで 島の人達が 誰も聞いたことの無い キレイな声で鳴く虫達も現れました
秋のトンボが数匹 秋の女王の周りを スイスイと飛んで付いて行きました
秋の女王は キレイな透きとおった声で 少し淋しげな秋の歌を歌いながら 歩いて行きました
秋の女王が塔に入ってお祈りを始めると 島は高い山の上の方から 赤や黄色の枯れ葉色に染まっていき
最後は 島全体の草や木の葉が 枯れていきました・・・
しかし 中には おいしい実を付ける草花も生えていて 島の人達は 珍しい野イチゴや 草の実を食べては その甘酸っぱい味に感激しました
今はまだですが やがて生え変わっていく木々にも 秋の木の実ができ
島の人達が耕す畑にも 沢山の大麦や小麦 豆や秋の野菜が採れるようになります
水田には稲が金色に輝き たくさんのお米を実らせるようになります
この先 秋は美味しいものが たくさんあふれる季節になるのです
この先やがて島の人達は 秋の事を 『実りの季節』と呼ぶように なるのでした
そしてついに 島の人達が最も怖がり 準備してきた 冬の女王の季節になろうとしていました
小さな女の子の冬の女王が 暮らしている北のお城から塔に向かうのは とても大変そうでした
その姿は 人間で言えば5歳くらいなのです・・・
秋風が吹くなかで 冬の女王は時々転びそうになりながら 一生懸命に脚を運びます
冬の女王が歩いた後からは 冷たい風が吹いていて 体の周りには 白い雪がチラチラと舞っていました
それでも今は 秋風の方が とても強かったのでした
それに 秋の女王は気まぐれに雨を降らせたり 小春日和にしたと思ったら 嵐にもするので 純白のドレスは 舞い上がる土埃や 跳ねた泥にくすんでしまい 土の道や野山を歩くうちに 靴やドレスの裾も すっかりと汚れてしまっていました
それは 服だけではありません まだ背の低い小さな冬の女王は 背の高い草よりも低かったので 足や手や顔にまでも 泥と埃で薄汚れてしまい 透きとおった白い肌には 至る所に転んでできた擦り傷や かき分けた草でできた切り傷ができてしまいました
それでも冬の女王は 赤い小さな唇をギュッと結び 凛と前を向いて 塔を目指して歩いていました
その姿は とても健気で 島の人達の心を強く打ちました
しかし それでも島の人達は直接助けることはできないので 小さな冬の女王のことが かわいそうになってしまいました
それで島の人達は 冬の女王の周りを皆んなで囲んで 雨や風よけになってあげたり 草をかき分けてあげたりしました
冬の女王は 恥かしそうにして 島の人達に小さな声でお礼を言いました
そして「私が早く塔に着いたら 皆さんが困るのですよ 私の季節は きっと短いほうが 良いのですから」と幼い声で心配そうに言いました
それでも島の人達は 冬の女王を取り巻く 冬の冷たい空気に震えながらも
この小さな女王のことは 放おっては置けなかったのでした