其の3 季節の女王と使者の声
其の3 季節の女王と使者の声
彼は 右へと曲がりながら上に向かっている神様の塔の階段を上ることにしました
どれくらい経ったのでしょうか
どれくらい上ったのでしょうか
階段が捻じりながら上に向かって続いているなか その捻じりが段々とキツくなっていったその時
彼は急に 広い場所に出ました
そこは 円形に広がったの石床の広間でした
広間の真ん中には 大きな石でできた椅子がありました
丸いドーム型の大きな天井からは ロウソクが沢山並んだシャンデリアが吊り下がっていて 揺らめく炎が辺りを明るく照らしていました
彼は そこで出会いました
年齢が全く違う 二人の美しい女性と 一人の品のいいお婆さんと 一人の幼い女の子とです
その女性達は 横に並んで 微笑んでいました
幼い女の子は 彼を見ると 怖がるようにして 隣のお婆さんの影に隠れてしまいました
彼女達は 彼のを待っていたようです
すると天井が まばゆい白い光に包まれました
その光は シャンデリアの明かりが溶け込んで見えなくなる程でした
『よく ここ迄来られた 島を治める定めの者よ』
彼は まばゆい光の中から部屋に響く声を聞き 驚きました
彼は その声に訊きました「あなたは 誰ですか?」
『私は この世界を見通す者 この島の行く先を 憂う者』
彼は「では あなたが 神 なのですか?」と その声の主に訊きました
すると光の中の声は答えました
『お前たちにとっては そうかも知れぬ しかし 私は 神の使い そして お前と お前の子孫に 役目を与えるために ここに来た』
彼は 訊ねました「私と子孫に役目を? それは いったい何なのでしょうか?」
『それは お前と お前の子孫が 代々この島を平和に治めること』
「役目?・・・そうですか・・・」彼は その言葉を聴いて 覚悟を決め言いました
「解りました 私は この島の王になります」
光の声は最後に言いました
『それで良い 王になった後は お前と子孫の努力しだいだ 良い国を作れ・・・・』
そうして 光は消えていき 部屋の中は シャンデリアの明かりが照らすだけになりました
すると彼の目の前に立つ女達は 彼に向かって 丁重なお辞儀を 一人ずつし始めました
「私は 春の女王です 王様」
少しシワガレて落ち着いた声をした 艶つややかな緑色のドレスを着た 肌の血色の良い 金色の髪の品のあるお婆さんでした
「私は 夏の女王です 王様」
にこやかで ハキハキとした声をした キラキラとした黄色いドレスを着た 黒髪に小麦色の肌の キレイな女性でした
「私は 秋の女王です 王様」
透きとおった声をした 鮮やかな朱色のドレスを着た ツンとした雰囲気の 黄色っぽい肌した 赤毛の若くてキレイな女性でした
彼は それぞれにお辞儀を返しました
「・・・・・・・・・・・・」
秋の女王に隠れながら 真っ白いドレスを着た小さな女の子が こわごわと 彼を見つめていました
「この子は 冬の女王ですのよ 王様」
秋の女王は 小さな冬の女王を 彼に紹介してくれました
「冬の女王 お会いできて 光栄です」
彼は片膝を付いて 冬の女王に向かって 深々とお辞儀をしました
小さな冬の女王は 白く透きとおった肌をしていましたが 恥ずかしそうに頬を赤くしながら 彼の顔を見て ちょこんと 可愛らしいお辞儀をしました
「私達は この島に 季節をもたらすために 使わされました」
春の女王が 少しシワガレた落ち着いた声で言いました
「私達は この塔の この部屋で祈ることで この島に それぞれの季節をもたらしまの」
夏の女王は ハキハキと言いました
「一人の女王が一つの季節をこの島にもたらし 支配します」
秋の女王は 透きとおった声で言いました
「塔に入る女王は 一つの季節に 一人だけ」
春の女王は 噛みしめるように言いました
「他の 三人は 塔の外の世界で暮らし 次の自分の季節に備えて ゆっくりと休みますの」
夏の女王は 楽しそうに言いました
「ですから お解りですね 王様?」
秋の女王は 彼に近づき イタズラな目で微笑んで言いました
「私達が この塔に入って季節を変えるまでの間 安心して暮らせる 小さなお城を建てて下さいな」
夏の女王は 両手を大きく広げて 弾んだ声で言いました
「お互いの力が お互いの邪魔をしないように この島の四隅にお願いしますよ」
春の女王は 低い声で念を押すように言いました
「それが 王様がこの島の人達に言い渡して任せる 私達とこの島のためにする 最初の大仕事なのです!」
夏の女王は 得意げに ハキハキと言いました
「そのお城ができるまでは 私達は 王様と一緒に居みますから よろしくお願いしますね」
秋の女王は 彼の手を取って お辞儀をしました
王様と呼ばれている彼は、又も驚きました
それは 彼は ボロ屋に住んでいて 食べ物の蓄えも お金も 少ししか無かったからでした
それでは 女王達に 満足な食べ物を出すことも 暖かなベッドを用意することも できそうに無いと思ったからです・・・
すると そんな彼の心を見通したように 秋の女王は言いました
「私達は 食べ物を食べることはできますけど ずっと食べなくても 平気なのですのよ」
「それに 私達のお城ができるまでは 季節を変えませんから 心配はいりません」
夏の女王は 朗ほがらかにそう言いました
「島の人達には 冬を越せる暖かな家の建て方を教えなければならないからね・・・今はまだ小さなこの子が 大っきくなる前にね」
春の女王は 小さな冬の女王の耳元の 銀色の髪の毛をそっとなでてあげがら 何か楽しそうに言いました
そう言われた冬の女王は 恥ずかしそうにモジモジとしていました
女王達の話を聴いて 彼は心底 安心して 彼女達を連れて村に戻ることにしたのでした
長い長い塔の階段を下りてやっと出口にたどり着いた時 そこで待っているはずの塔の扉を開けた案内人の男は もう どこにも居ませんでした
彼は心配になって 探そうとしたのですが
「あの男は 役目を終えて もとの世界に帰ったのですよ」と 春の女王が 彼に笑って言いました
「何も心配いりません さあ 参りましょう」
秋の女王は 透きとおった声で皆に言いました
彼は この不思議な女王達の言葉を信用して
(きっとあの不思議な男は 神の使いだったのだろうと)と思いました