其の18 13人の旅の一行と夢幻《むげん》の雪原
其の18 13人の旅の一行と夢幻の雪原
春の女王を含めて13人となった旅の一行は 春の女王のお城を後にしました
天気はよく 気持ちのいい朝でした
春の女王は 少し厚手の生地でできた いくぶん動きやすそうな緑色のドレスを着ていました・・・
その首元には フードが付いていて 何だか もはやそれはドレスでは無いというような感じでした・・・
それは穏やかに晴れ渡る 6月始めの冬空の下でのこと
幸先の良い出発でした
歩き始めてしばらくの間 誰もが朝の春の女王の言葉を ただの取り越し苦労だろうと考えていました
しかし その考えは間違いだったのだということを 春の女王のお城が遠ざかって見えなくなったころに 思い知らされるのでした・・・
始めは そよそよと緩やかな風が吹いてきました
荷物を背負いスノー・シューを付けた足で新雪を踏みしめながら 汗をかいて歩いていた一行には それは心地よい風でした
すると そう時が変わらない内に あれだけ晴れ渡っていた空に 北の方角から黒い雲が立ち昇って来たのでした
「これは まずいな・・・」一行の一人が 黒い雲を睨んでそう言いました
旅の一行は 一度立ち止まって 頭にフードを被ったり 顔をマフラーで覆ったりし始めました そうして着ている冬着を締め直して 目の前に迫っている吹雪に備えたのです
それから春の女王を列の真ん中にして 互いを見失わないようにするために 互いをロープでつなぎました
一行の それらの準備が終わったとたんに 白く眩しかった雪原は 叩き付ける白い粉雪と 吹き付ける北風が巻き起こす地吹雪の世界へと急変したのでした
たったさっき迄は 照り返す雪の白さに目を細めて歩いていた旅の一行は 今や 容赦なく目の中に痛いほどに入ってくる雪と北風に耐えるために細められていました・・・
それでも13人の一行は 今では歩みの遅くなった春の女王に合わせて 前よりもゆっくりと進みました
春の女王は 年老いていましたが 人では考えられないほどに 寒さは平気そうでした
そんな姿を見ていた旅の一同は やはり春の女王は 特別な力を持っているのだと確信したのでした
それは 四季の島の人々が忘れてしまっていたことでした・・・
そして 一同は思いました
自分達の島は 今迄ずっと季節の塔で祈る季節の女王の恩恵を受けていたのだと・・・
「なんと 有り難かったことなのだろ・・・」
春の女王の 小さくも暖かな背中を見つめながら 近衛兵の若者は呟きました・・・
するとなぜだか 顔に張り付いて溶ける雪に混じって 涙があふれてくるのでした・・・
そうして泣きながら歩いていた若者でしたが このままではいけないと思い始めたのでした
(このままでは 島の人達は きっと冬の女王様のことを憎んでしまうだろう・・・)
吹雪に叩かれて 体に雪が積もっていく中で 近衛の若者は春の女王の体の心配と この先 春が戻る時 四季の塔から下りてくる冬の女王のことも心配していたのでした
そうして四季の塔を目指す旅の一行は 連日の吹雪の中を 新雪を踏み付けながら 一列になって進み続けました
その姿は とても弱々しくて 今にもその場で倒れ込んで動かなくなり 振り続ける雪に埋まって死んでしまいそうでした
夜には 雪を掘った穴の中にテントを張って 強い北風を防ぎながら 少しの焚き火をして夜を明かしました
この時になって 旅の12人は春の女王の近くにいると ちっとも寒く無いと思いました
こんな吹雪の中でも 春の女王は暖かな春の陽気をまとっていて 周りの人達までも暖かくしていたのでした
寒さは大丈夫だと思ったら 旅の12人は力が湧いてきました
あと心配なのは 歩き続ける体力と食べ物のことだったのでしたが それは なんとかできるだろうと思っていました
旅の12人の中には 狩の上手い弓の名手がいましたので 森に入れば 雪色の野うさぎや 鹿を仕留めることもできそうでしたし 水は焚き火をして 鉄の鍋に雪を入れて溶かせば手に入れることができました
焚き木も 森に入れば簡単に手に入れることができるはずです
そうして9日の間 12人と春の女王の旅の一行は 時に黙々と 時に声を掛け合いながら 命を燃やすようにして雪原を進み 丘を超え 林を抜けて森に入りました
森に入ると常緑樹や 松やらの針葉樹など たくさんのの木々が 旅の一行の周りを守ってくれる壁のようにうになって 雪を降らす強い北風と地吹雪から守ってくれました
ここ迄来た一行は 春の女王のお城を出てからの四季の塔へと向かう道のりが 半分を越えたと思いました
ここからは丘や 低い山々を越えて行かなければ ならなかったのですが
この先に行くほど ずっと松などの針葉樹が続いているので 風だけは大丈夫そうだと思いました
ただ その風に大きく揺れる木々のザワザワとした不気味な音は 春の女王は平気でしたが 他の旅の12人の心を不安な気持ちにさせるのでした・・・




