2.『マスクマン』
2/6
昼下がりのマンチェスター。
小さな家が連なる南の住宅街に、大きな振動が響く。
家々の人は外を、空を見上げた。
住宅街の空を割き、住人に影を落として、”騎士”が歩いていく。
雑騎士だ。作業用に広く用いられる、人型の機械巨人。
鬱蒼とした森のような淀んだ緑の装甲をあちこちに張り付け、赤の奇妙な紋様を走らせている。
立ち向かうはまた別の巨人。上流階級しか持っていないような、上等な機械巨人重騎士。
その姿を見て、人々は口々に声をあげた。
──「マスクマン」と。
布で締めるようにしている手足は、武骨に鍛え上げられた鎧に覆われている。
対して胴や兜は輝くほどに磨きあげられたその姿、黒衣の人物が白の仮面と胴衣を被っているかのよう。
『ようやく会えましたねマスクマン。私たちの敵!』
「なあ、今回は一体何だってんだい?」
指差し叫ぶ奇妙な緑の雑騎士を横目に、窓から見上げていた住人は、道行く知人に尋ねた。
「あの森の教会が誰か誘拐して、突き止められたら暴れだしたんだと」
「あーマルコさんの酒場の隣の森か?」
「そうそう。なんかあからさまに訳有りそうだったからなー」
わははと、住人は笑っている間に、雑騎士は『マスクマン』へと踊りかかっていた。
話もまるで聞いてもらえず、しびれを切らしたようだった。
『ともに素晴らしい世界を作ろうと言っているではないか!』
叫ぶ雑騎士の戯れ言も、『マスクマン』に届いた様子はない。
暴れる雑騎士をいいようにあしらい、打ち倒す。
転ばしたかと思うと、『マスクマン』は背を向け、その場を立ち去ろうとした。
なにを、と周囲がいぶしがった時である。
遠くサイレンの音とともにまたも”騎士”の重い足音と振動が響いてくる。
「ん? もう来たか」
「今日は早いな、警察さんは」
ふと『マスクマン』の方を見れば、もう姿を消している。
おっとり刀で駆けつけた警察は雑騎士を拘束し、操縦者を引きずり出した。
「あっちゃあ、もう終わっちまったか」
「お開き、解散だぁ」
”捕り物”が終わったとあって、わめく操縦者の姿を遠くに見ながら、見物客は各々別れていく。
「はなせぇ! 私は素晴らしき世界を作ろうとぉ!」
「静かにしていろ!」
警官ともみ合う操縦者の声が、むなしく響いていた。
●
謎の重騎士『マスクマン』の事を、マンチェスターの民で知らないものはそう居ない。
倉庫および町中での『改造雑騎士騒動』以来、彼は”騎士”が暴れる度にどこからか姿を現し、”騎士”を討ち倒せばたちまちどこかへ消えていく。
暗色の体にまるで真白なサーコートでもかけたような胴と兜が目映く光る仮面の重騎士。
「さぁーさーいらっしゃい号外だ!また『マスクマン』がやってくれたよ!今度は誘拐犯をぶっ潰した!」
「ああ、一部くれないか」
「あいよ!」
マンチェスターの中心街。
情報をいち早く伝える新聞を売りさばこうと、青年らは競うように威勢の良い声を道往く人々に放つ。
町中の何処で見られる光景だ。
声が上がるたびに人が集まっては買い求め、積まれた新聞はみるみる間に減っていく。
早速とばかりに一部買った青年が立ち去る後ろで、いよいよ売り切れとなって落胆の声が漏れ聞こえた。
青年が小さく広げた新聞の一面には、『マスクマン』のことがてかでかと書かれている。
これだけにとどまらない。町中は『マスクマン』の噂で持ちきりだ。
「おぉ、すごい。一面に写真だ」
「うわっはあ!いい”アオリ”じゃないの!」
紙面を覗き込んで、ユリエルは興奮の声を漏らした。
そこに写されたのは、相手の雑騎士に手刀を突き入れる『マスクマン』の姿。
足元から見上げる構図と相まって、迫力のある写真となっていた。
「いいね、殴り飛ばすところがきれいに撮れてる。いやはやすごいね、こいつは」
「ふふふ、すごいでしょ私の《ノックス”改”》は!」
ユリエルもまた、誇らしげだ。改めて改良を施したノックス”改”の活躍にご満悦。
日々こうして新聞をめくっては『マスクマン』──ノックスが書かれた記事や写真を選り分けている。
「なによ中々にみんな良い写真を撮るじゃない……!」
「まとめようとするのは良いけど、俺にもちゃんと読ませてくれよ……まだ読んでないんだから」
新聞を取り返したロックは、一面を読み進める。ちょうど先日に相手をした犯人の記事だ。
「なに?『活躍マスクマン 少女誘拐の新興宗教宗主駆る雑騎士を見事撃破』そっかぁ、あれ宗主だったのかぁ……」
「そうじゃなかったらなんだったのよ」
「まさか本気だとは……集まって怪しげな儀式の真似事で楽しんでいるのかと連中は……」
「そこいらへんなめてると痛い目見るわよ」
たしなめるようなユリエルの言葉に、ぴんと来ず、ロックは首をかしげる。
「そうなのか?」
「あっれぇ……昔からよく言わない? アヤカシや精霊は称えるものって」
「そういうものか」
「あの手のは怒らせるととてもこわーい目に合うんだから」
「……うぅむ。大事に扱え?」
「そう。そこらの水からノックスまで、何事も大事に、丁寧に、丁重に──あぁ、何でこっちの新聞はノックスが一面じゃないのよ!」
「まあまあ、新聞も大事にね」
新聞を引きちぎらんばかりに憤るユリエルをなだめる。
取り戻した新聞を読み進めている討ちに、角の一つの記事に目を止めた。
「ふうむ、『ロンドンで貴族邸から宝石等を盗まれる。窃盗団の手口と類似』あっちも色々やってるねぇ」
「シャーロック・ホームズもロンドンでしたか」
「そうそう、すごいよね。ワトソン医師の筆致も素晴らしいよ。ロンドンはああも広大なんだってよくわかる」
ロンドンは全長37マイルにまでまたがる大都市だ。
この辺りではマンチェスターおろか、運河沿いのサルフォードやセントヘレズを足してようやくといったところ。
『ホームズ』の載るストランド誌は今も人気が高まっていて、かなりの売れ行きがあるらしい。ユリエルもすぐにのめり込んだのだから、納得もいく。
そのように駄弁っていたのがいけなかったのだろうか
中心街は駅に通じることもあって、ひっきりなしに忙しなく行き交う人混み。
肩がぶつかりそうなほどに集まるなか、ドン、と誰かがユリエルにぶつかった。
背の小さな少年だ。ハンチング帽を目深にかぶり、顔は窺えない。
「おっと、姉ちゃん、ごめんよぉ!」
「あら、きみ──」
転びそうになった少年は、支えようとしたユリエルやロックの手を振り払うように乱暴にすり抜けて、再び人混みへと消えてしまった。
「まったくもう、なんだったのよ」
「なあに、気にしなくていいさ。あれはスリだよ」
「なあんだ、スリね──スリ!? ちょっとそれって大変じゃない──財布が!?」
目を丸くしたユリエルは、背後の人混みへと目を凝らす。だが、小さな少年が見えるはずもない。
「心配要らないよ。ほれ、財布はこの通り無事さ」
懐から覗かせた財布を見て、ため息一つ。
待て、違う。古ぼけた黒革財布はロックの物。
「──私のは!?」
「ここに同じく」
ずらして見せた淡い茶の革財布をすぐさま奪うと、つぶさに観察した。中身も含めて何事もないことに、安堵の息をはく。
「無事なら最初に言いなさいよぉ……」
「ちょっとスリの手法を昔に教わってね」
「妙な特技をお持ちで」
「俺よか”師匠”のほうが多芸さ」
「あなたの師匠ってホントに探偵?」
「マンチェスターで一番の探偵だよ」
「そうですか」
鼻を膨らませるその笑みに、呆れたようにユリエルは呻いた。
伝え聞く評判からすれば、そう言うのも分からなくはないのだけれど……。
「まあ、俺でもスリなんてされてもな──」
ぽん、と自慢げに胸を叩き──その動きが止まった。
「……ロック?」
ユリエルが首をかしげて見守るなか、ロックはぎこちなく己の胸元を何度か叩く。
懐をまさぐり、やがて全身を叩き出した。
その動きに、ユリエルには嫌な予感がよぎる。
「……な、なにか無いんですか……?」
「無い……ない」
そして、青ざめた顔で、ポツリと言った。
「パイプが、ない」
「────は」
ユリエルの疑問の眼差しに、ロックは不安げながらもしっかりと頷いた。
「《ノックス》のパイプが、ない」
「……は、は……」
ユリエルは、天を仰ぐ。足がもつれ、ふらついた。
呪いの文句を呟いて、叫んだ。
「──ふざけんなぁぁッ!」
驚き集う周囲の視線。
それよりも強い剣呑に輝くユリエルの視線に刺され、ロックはただただ肩をすくめるしかない。
《ノックス》のパイプ。あれは、ゴルフォナイトを呼び出す”鍵”だ。
無いならば、ノックスを呼び出すことなど叶わない。
そして、ユリエルからの預かりもの。
「なんでそんなもの失くすんですか、なんで、なんで!」
「まってまって、スリだ、さっきのスリの子供に違いない、いますぐ追う、追おう! まだ間に合う!」
「あぁもう!あとで覚えておきなさい!」
二人は人混みを掻き分けて、忙しなく走り出した。
●
雑踏をすり抜け、日陰まで潜り込んだ、路地裏。湿って臭うその影に、ハンチング帽の少年が身を隠した。
興奮を隠しきれない様子で懐をまさぐる。やがて慌てふためきながら全身をまさぐって、目的のものが無いことに愕然としていた。
「あんれ、財布がない。盗ったのに……」
喋りながら歩いていた、若い男女の二人組。体よくぶつかって鞄や懐から財布を抜き取ったはずなのに、どこにもない。
「あっちゃぁ……落としたはずないんだけどなぁ」
探しに行こうかかと思って、足をとめた。素直に諦めるのが”長生き”のコツだ。父もそう言っていた。
結局”成果”は、パイプが一つだけ。ついでとばかりに適当に盗ってきたもの。
「……これどうしよう」
金物の感触を得たものだからと適当に盗ってきたものだ。
つるりとした、金属のパイプだ。うっすらと赤みがかっている不思議な艶が、少年の目を引く。
「ホントにどうしよう。雑貨屋にでも売るかな」
成果は中身を改めてから決まる。それなのにパイプひとつでは、大したものにはならない。
またスろう、と大通りに向かって歩き出す。
「それなら、俺たちに返してくれないかい?」
その肩を、誰かが叩いた。
「ひっ!?」
「見いつけた」
振り返った少年が目にしたのは、若い男と女。財布をするのに失敗した二人だ。
少年は慌てて逃げようとするが、男─ロックは肩をしっかりと掴み、離さない。
「まあ落ち着け、なにも取って食おうとするわけじゃない」
「あなたでしょう、私たちからパイプを取っていったのは」
「し、知らないよ」
「あのパイプを返して。私たちには、とても大切なものなの」
「知らないやい!」
ツンとそっぽを向いて、聞く耳を持たない。
困ったとばかりに頭を掻いたロックは、懐をまさぐる。
「じゃ、代わりにこれと交換でも良いかな」
ひょい、と差し出された手を見て、少年は目を見開いた。
「お、おれの財布!」
「あなた、いつの間に」
「なに、落ちてたんだよ」
「白々しい……」
言い合う二人の話も聞かず、その手に飛び付いて奪おうとするが、あっさりとかわされてしまう。
「返せよ!」
「じゃあ、はいこれ」
そんな軽い言葉とともに、ぽん、と胸元に財布が押し付けられた。
何事かと疑ってロックをみるが、相も変わらず微笑むだけ。
剥ぎ取るように奪って、一歩下がる。
一体何のつもりか。疑っていると、女のほうが気になったように男を覗き込んだ。
「なんで返しちゃうわけ?」
「言っただろう、落としていたから返しただけ」
「落としたねぇ……そんなもの私は全く見なかったわよ?」
「そりゃあ見てなかっただけだよ。現にさっき俺たちの財布も拾った瞬間は見なかっただろ?」
女はそんな説明で納得するわけもなく、冷たい眼で見つめられて男は肩をすくめた。
聞いてられない、とばかりの反応。だが、それこそ少年には聞き捨てならなかった。
──おれたちの財布を”拾った”だって?
「まさか、あんたたちが財布をスっていったのか!?」
「”拾っただけ”だよ」
「私はやってませんからね!?」
慌てた女の弁解も、関係あるものか。
男がこれ見よがしにヒラヒラ財布を振るものだから。少年は頬を膨らませる。
恨みがましい視線にロックは笑う。
──お互い様だろう?
その言葉には、何も言い返せない。
何だろう、この男は。財布はとるは、返してくるはで訳がわからない。
こういうのからは、さっさと逃げるに限る。
そっと半歩、足を後ろに滑らせる。すぐにでも動きだせる態勢。隙さえ見つければすくにでも逃げてやる。
そう思っていたのだけれど。
「僕らは驚いたよ、君の鮮やかな手口にね」
「──ほんとか?」
男の言葉を思わず聞き返した。
●
「なんでこうなってるんだか……」
思わずぼやいたユリエルは、頭を押さえた。頭痛でもしてきそうだ。
ノックスのパイプを盗られても、狭い路地裏で、目の前まで犯人の少年を追い詰めた。
それがなぜ、その少年と談笑してるのやら。
「へへ、おれのスリはうまいだろ?」
「ああ、あの一瞬で財布二つにパイプときた。中々の手さばきじゃないか」
脇で雨ざらしになっていたボロ箱に座った少年は、ロックの言葉に破顔する。
「俺なんてお前さんから財布を取り返すので精一杯」
「じゃあいつ……あ、さっきの肩叩いたときか」
「そうそう、あのときにちょいとね。意識の隙間から持っていくのは基本だろ?」
隣で壁に背を預けたロックが揃えた二本の指を動かすのを見て、少年が頷く。
それにロックも応じて、笑い声が路地裏に響き合った。
ずいぶんと仲良くなったよう。
苛立つような思いも感じなくはない。
`
「それにしても兄さん、お父さんと同じこと言ってるよ」
「そいつはスゴい。さぞかし名が売れてしまってるんじゃないか?」
「さぁ、どうだかね」
ところが、少年は渋い顔。
そうだろう、泥棒が名を売っても良いことはないのでは。
そうおもったのだが──
「父さん最近帰ってこないんだ。どこまでほっつき歩いてるのかわからないんだよ」
「そんなにやってたのかい?」
「河沿いは全部やったことがあるって言ってたよ」
「うーむ、それはすごい」
「ええ、それはまたずいぶんと……」
二人が思わずといったように唸るので、少年は鼻高々に胸を張る。
運河沿い、それはマンチェスターからサルフォードを通り、西の河口の町リヴァプールまで及ぶ。
50kmにも及ぶそれは大都市ロンドンとほぼ同じ。それが事実ならばどれ程に手広くやっていたのやら。
「それじゃ、帰ってくるのも時間がかかるわねぇ」
「うん、だから一緒のときには色んな事を教わったよ。スリも生活もさ。僕一人でも生きてけるんだい!」
「それじゃあ、寂しかったりしないのかしら」
「もう慣れっこ、平気だい!」
えっへん、とふんぞり返る姿をユリエルは微笑ましげに見つめている。
「しかし、あんまりいけないね、スリなんてのは」
だが、ロックの言葉にはすぐに眉を潜めた。
「なんだよ、結局説教かよ」
「ま、これはこの町の住人としても、先達としても言っておかなきゃいけないからね」
とは言っても、そう簡単には聞かないもの。事実、目の前の少年も不満そうに口を尖らせる。
「じゃあ、どうやって暮らしていけばいいんだよ。あんただってスリだろ?」
「そんな技術を持ってるだけだよ。これでも探偵なんで使っちゃいないのさ」
ふーん、と興味は無さげ。
「やらないにしても金がないもんなぁ。あれを売っちゃえばしばらく……うん、しばらくは……あー……」
考え込んだ少年が唸る。
「どうした?」
「いやね、高そうなものは無くはないけど、ちょっと売りたくないし……あれぼくのお宝ものだもんな……」
「へぇ、どんなものだい。まさか盗ったものだったりしないよな?」
「……違うっての」
ふい、と首を振った少年は、箱から飛び降り、二人から離れた。
尖らせていた口が、吊り上がる。
「──にいちゃん、探偵なんでしょ、じゃあまたぼくを探してみなよ! 」
「なに?」
「そしたらぼくのお宝を見せてあげる。でもそう簡単には見せないからね!」
ばっと、少年が二人から飛んで離れた。
だけども、追いかけてみろとばかりの不敵な笑みを浮かべるその顔は、年相応のいたずら子にも見える。
つい二人が腰を浮かしたのを合図ととったのか、一目散に少年は走り出す。
──そして、誰かに正面からぶつかった。
小さく小太りな男に押されて弾かれて、少年は尻餅をつく。
「いちち……」
「あら、ちょっと大丈夫? 怪我してない?」
「危ないじゃないか、なに突っ立ってんだ!」
ユリエルの介抱もよそに、少年は不満を吐き出す。
ロックはぶつかってしまった背の小さな男に謝罪した。
「すみませんな、いきなり走り出させたりなんかして」
「なにさ──」
「まあ待て、弟。なあに、構いませんよ。それよりも──」
ロックよりも背の高い男が憤慨するのを、小さな男が制した。
じろりと見下ろすのは、少年。
「──俺たちも聞きたいなぁ。その宝物の話」
軽妙な、嘲笑うような軽い声。
チビとノッポ、二人とも目の周りに隈をこさえ、顔色も悪い。
彼らを不思議そうに見ていた少年の顔が一転、真っ青に染まった。
「いぃっ……」
「知り合いかしら?」
「……し、しらない、よ……?」
ユリエルの言葉に少年は、ぎこちなく首を振る。
はて、と首をかしげて、妙な二人に尋ねた。
「あのぅ、もしやどなたか他の方と勘違いをしておられないでしょうか」
「うるさいや!そいつが先生のブローチを持って行ったことはセンセもアニキも見たんだぞ!」
「あなたたちカッカし過ぎよ。隈まで作って、しっかり寝れば落ち着いて事に対応できるわ」
「ならブローチを返せぇ! 取り返すまでまともに寝れねぇんだよ!」
そっと諭すユリエルの言葉も、全く届かない。
グッと迫ろうとする二人の男に、少年は飛び起きてロックの足に隠れた。
「知らない知らない。ブローチなんて知らない、宝石なんて知らない!」
首を振るその言葉に、凸凹二人は目を見開いた。
「宝石だぁ!?俺がいってるのはブローチだ。象牙や彫金だってあるだろうになんで宝石だってわかるんだぁ!?
「ひっ!?」
少年はチビ男に迫られて、首を竦める。
それが、二人の琴線に触れた。
「隠れるなんて、何かあるな。やぁっぱりお前が持ってるんだなぁ!?」
「僕らのもんだ、返せよぉ!」
捕まえて吐かせようとしたのだろう。少年目掛けて掴みかかって来る。
「ほれ、危ないよ」
その足をロックが払えば、二人は転んでもつれ合い、地面にしたたかに顔をぶつけた。
悶える二人を、ユリエルは気の毒そうに見ている。
素早く場を離れようとするロックとユリエルに、少年もついてきた。
「おい少年、逃げるぞ!」
「わかったい!」
「あら、聞き分け良いのね」
「逃げるってんなら話は別だい!」
「それならあのパイプも返してちょうだい」
「やだねぇ!」
眉を潜めるユリエルに、にやついた笑みを浮かべる。
「あと少年じゃねえや、アニーってんだ!」
「そうか、いくぞアニー! ユリエルもな!」
「ちょっと、私はついで!?」
「急ぐぞ!」
「おー!」
三人慌てて、路地裏を走り出した。




