奥様な私とヘンテコ集団
ああ、結婚式は人生最大の黒歴史と化しました。
人生最高なハズのイベントが、思い出すだに恥ずかしいってこれいかに。
オトナで優しい陛下はさておき、うちの旦那様には緘口令を発令中です。
あの話を蒸し返されたら、恥ずかしすぎて軽く死ねる。
うん。
ただ今、目の前の光景から思いっ切り目を逸らしていましたよ。
なんだかスゴイ既視感があるけど、こういうのが異界言葉で言うデジャヴっていうのかな……?
……黒歴史で現実逃避するしかないって、どうなんだろう……。
◆◆◆
羞恥プレイな結婚式から一ヶ月たちました。
なんだかんだで奥様業にも慣れてきた私です。
でっかい森のど真ん中な屋敷に籠っているとタイクツだろうってことで、陛下に王城のお散歩許可をいただいております。
別にウェイン家伝来のお屋敷が嫌いなわけではないのだけれど、周りを見渡しても巨木巨木で空もそんなに見えないから、そんなに楽しい景色じゃないのだ。しかも、お屋敷の敷地のすぐ外は、危ないから外出禁止。魔物の巣窟だって。
何でそんなところにお屋敷を建てたのか、激しく謎。
交通の便が悪すぎて、うちの旦那様と一緒に転移門で毎日お出かけしております。転移門って、確か設置だか維持だかにやたらとお金がかかるハズなんですが、旦那様のおうちはお金持ちなので、問題ないとのこと。へー。
御姉様方から下手な好奇心は命取りって叩き込まれたから、詮索するつもりは大してないけど、旦那様のおうちは秘密が多いようです。
第一の忠臣も大変だね。
王城をお散歩したり、とーりすがりの方々と世間話をしたり、陛下+旦那様とお茶を楽しんだりと、割と穏やかな一ヶ月だったと思います。
……そんな訳で、見知らぬヘンテコ集団に土下座される心当たりは、全くないのだ。
って、土下座しながらコッチににじりよって来るよ、この人達っ!!
こ、こわいっ!
怖いんですけど!!!
だんなさまぁ~っ!!!!!
「——ヒト型最終兵器殿の奥方ですかっ!!!」
え、何その表現。
うちの旦那様=ヒト型最終兵器って……。
あ、でもある意味的を射てるかも。
うちの旦那様って、警吏と裁判官と処刑人兼任できるとかって聞いたことあるし。
独りで捕まえて裁いて刑執行とか、犯罪者にとっては最終兵器だね。
……いろんな法律とか昔の裁判の結果とかが頭に入っているらしいけど、体鍛えながらで、一体いつ勉強したのかしら。
って、うわぁっ!
ヘンテコ集団が足元まで来てるっ!
ひいいいいいいいいいぃっ!
「アリア」
「だんなさまっ~」
救世主が来た~っ!
頼もしすぎます、旦那様!!
旦那様に抱き付いた私の視界の端っこで、ヘンテコ集団の構成員が飛んでいったけど、気にしませんっ!!!
ああ、頭なでなでに癒される。
ヘンな人達に寄ってこられるのは、怖いお兄さん方に囲まれるのとはまた違った怖さがあるんだ。
「あ! ヒト型最終兵器殿っ!」
「人の妻に勝手に近寄らないでいただきたい」
ヒト型最終兵器とか、本人に面と向かって言っちゃった!!
「ヒト型最終兵器殿、お久しぶりですっ!」
「……私は王鞘であって、兵器ではありません」
旦那様も思うところがあるらしい。
ヒト型最終兵器って連呼するのって、普通に失礼だと思うよ。
ウェインのお家は、代々王様の『剣』じゃなくて、王様の『鞘』らしいしね。
『王鞘』って呼び名に、旦那様はものすごーく拘っているんだよ。
なんで『王鞘』って言うのか、由来は教えてもらってないけど、旦那様の存在意義に関わっているよーだ。
あ、そう言えば、旦那様が現れるタイミングがやけによかったような。
何故微妙に目を逸らすのですか、旦那様。
「……我が君の探知の結界に、これらが引っかかった」
ヘンテコ集団はモノ扱いですか。
「——師匠はお元気ですかっ?!」
ち、ちかっ!
……ドゴッて音、生き物で本当に発生するんだね。
ヘンテコ集団はこっちに無暗に詰め寄ったり、旦那様に殴り飛ばされたりと、元気すぎです。
ところで、師匠って誰だろう?
旦那様、何故思いっ切り目を逸らすのですか?
「……ここ一年ほどは平和だったのだが……」
「師匠は、なんで適正低い王様業なんて続けているのですかっ!! あの才能が活かされないなんて、世界の損失ですっ!!!!!」
まさかの陛下だったっ?!
……陛下が得意な分野といえば、戦闘と家事と隠密だったような気がするけど、師匠って呼ばれる水準だったっけ????