第21話 「君のためにボクは勝つから」
伊集院チームとの試合後、俺達に挑む者は現れなかった。
自分達より上に位置していた伊集院のチームが負けたのもあるだろうが、試合後の一件がその日の内に広まっていたのが最大の理由だろう。
あの時の姫島さんは本当に怖かった。
まあ他チームからは、俺の分析力とそれに基づく作戦を実行できるメンバーの能力に現状ではどう足搔いても勝てないと思われたのだろう。
というわけで、俺達のチームは天道学園の代表チームに確定した。
今後は夏の大会に向けて準備していくことになる……わけだが。
「良いなぁ。みんなが羨ましいや。ガチオコなカガリん、ボクも見たかった」
俺は現在進行形でシオンさんとデート中です。
何故かって?
それは今日が週末だから。
シオンさん、プロの対戦相手として出向する際に言っていたことをきちんと覚えていました。
傷ついたとか言っていたけど、そんな嘘だろ。なのにそれを理由に貴重な休みを奪うとか。こいつは何様だ。いや知ってる。シオン様です。心の中で茶番しているだけです。
「怖いもの見たさなのか、それとも」
「ぶっちゃけ性的な方だね。カガリんと出会ってからボクのマゾは加速している」
「それ本人の前では言うなよ」
個人的には、正直に言うと痛い目に遭えばいいとも思わなくもない。
が、あそこまで怒らせたら怪我してもおかしくないんだよな。全国制覇するためにはシオンの力は必要不可欠なわけで。
姫島もシオンに対する発言には怒っていたようだし、表面上はともかく想定している以上に姫島のシオンに対する好感度は高いのかもしれない。
「まあさすがに今以上にならない限り、そこまではしないよ。さすがに物理的に痛いのはまだ嫌だし」
今以上とか、まだとか、そういうのは抜いて発言してください。
将来的にシオンさんと姫島さんがそういう関係になっていたら……いや本人達がそれを望んでいて、そうなったのなら別に良いんですけど。
立場的にプライベートな問題をチームの方に持ってこなければ気にはしないので。
でも……うん……仮にそうなったとしたら。
愚痴とか相談とか両方からされそう。それは凄く面倒臭いな。
「でもカガリん負けず嫌いだからなぁ……ふとしたことでバトルが勃発するかも。剣道とか柔道とか、授業でやるレベルなら良い勝負になるかもだけど。さすがに本格的なバトルは勝ち目ないかな。口はともかく、拳でのケンカとかしたことないし」
何だか「自分カヨワイです」アピールしてるけど。
そのへんの輩には負けないでしょ。単純に運動能力は学年でも上から数えた方が早いんだから。天道学園がアドバトの強豪校じゃなければ、色んな運動部から引く手数多なくらいに。
ちなみに去年通っていた高校は、家から近いという以外にこれといった特徴がない普通のところでした。なのでシオンさんを巡るスカウト戦争があったりもしたよ。オタ活するから無理! って全部断っていたけど。
「いやでも待って……ねぇミカヅキ」
「言わなくていい」
「ボクとカガリんは同じクラス。そして、カガリんは高嶺の花扱いなのか大抵の人は距離を取りがち。必然的に体育のペアとかはボクがなることが多い。それはつまり」
「ボコボコにされるかもな」
「カガリんの肉体に触れられる機会が多いということでは? 準備運動以外にもカガリんにあんなことやこんなこと、そんなことをするチャンスがボクにはあるということではないだろうか!」
近い近い近い。
お綺麗な顔を欲望と興奮で崩して近づけてくるな。普通にキモいし進路妨害。
何より……
「公共の場で変態発言やめて。一緒に歩きたくなくなる」
「ミカヅキは知らないかもだけど。カガリんってホントに良い身体してるんだよ。肌綺麗だし、胸おっきいし、お尻も安産型だし。それでいてナイスなくびれで」
「今すぐその口閉じろマジで」
「嘘じゃないよ。体育の時とかの着替えで確認は取れてる!」
誤情報だからやめろって言ってんじゃねぇんだよ!
こっちは男なの異性なの。別の学校の女子ならともかく、何でチームメンバーの生々しい情報を聞かなきゃいけないんだよ。
いや確かに俺も姫島さんはスタイル良いと思う。
大和撫子属性持ちなのに全然慎ましくない破廉恥な身体つきが超絶レベルで調和してるし。
見た目だけならシオンさんが最高に俺好みと思っていたけど。
そこと並ぶレベルで……黒髪では姫島さんが最高なのではとは思っていますよ。
「今の話をお前から聞いたってことが姫島の耳に入ったら……俺、下手したら死ぬんだが?」
「そのときは……うん。責任を取ってボクが君の骨は拾おう」
そこは代わりに死ねよ。
「不機嫌な顔してるとカッコいい顔が台無しだよ」
「誰のせいだよ。というか、カッコいいとか思ってないだろ」
「え、思ってるよ。だってミカヅキは、昔からボクのヒーローだし」
当たり前のことを言っただけです。
といった顔をシオンさんはしていらっしゃる。
何で……何でこいつは…………こうなのかな。
「みんなから聞いたけど。今回もさ、ボクの悪口に対してかなりオコだったみたいじゃん。ミカヅキって昔からそうだよね。自分のことには割とドライなのに。ボクのこととかになるとムキになるし」
「……何のことでしょうか」
「それは無理があるでしょ? だってボクは……誰よりもボクのために怒る君を見てきてるし」
ですよね。
くそ、こっちが否定できないからって憎たらしい顔しやがって。
「小学生の時なんかは、ボクの悪口とか言った子とケンカとか……複数人を相手してた時もあったよね。他にも上級生とかとも」
「やめてください」
あの頃の自分は若かったんです。力で解決しようとする愚か者だったんです!
ケンカの経緯を聞いた相手の親御さんからは謝られたけど。先生にもケンカはダメだけど、男としてはよくやったって褒められたけども。
そのへんもあったから……うちの親とシオンの親からの圧が増したんだよな。
昔の俺、何でそんなにも正義に生きてたんだろう。
いやうん、分かってる。本当は分かってるよ。
だって昔の俺、シオンさんに惚れてたもん。俺の初恋はシオンさんだもん。
好きな相手が嫌な目に遭っていたら男としては守りたくもなるよ。
「今は絶対に手を出すようなことはしません」
「自分からは、って言葉が抜けてるね」
「いやいや。暴力は良くないですよ」
「でもボクが……ううん、ボクだけでなくカガリんとかも含めて。誰かに襲われそうになったら助けてくれるでしょ? 暴力振るうことになっても」
それは……殴り合ってでもどうにかしないといけない状況じゃないですか。
「それとこれとでは話が別だろ。にしても、今日の服装はえらく地味だな」
はいそこ、露骨に話を変えたとか言わない。
このままじゃ今日のデートが終わる前に俺の精神力がゼロになる。それを避けるためだ。これは一種の正当防衛だ。
それに本当に今日のシオンさんは地味だぞ。
これまでの服装に比べたらって話にはなるが、本当に地味だ。
無地のパーカーとズボンだもん。肌色成分とか首元くらい。アクセサリーの類も一切ない。
今日のシオンを姫島が見たらきっと文句を言う。自分に対してオシャレじゃないって言ってたお前が何だよその服装! って。
「え、変?」
「別に変じゃないが……何でチャックに手を掛ける?」
「今日のTPOに合わせてこの格好にしたけど、ミカヅキに地味だと思われるのは何か嫌だし」
だとしてもさ。
ここは誰もが行きかう道路ですよ。あなたは服の上からでもしっかりと分かる立派なお山をお持ちなナイスバディなんですよ。
それなのにこんなところでパーカーのチャックを開けるだなんて破廉恥……
「何より……やっぱりミカヅキには、このシャツの良さを分かち合いたいなって」
「今すぐ仕舞え。チャックを上げろ」
「何で? これ良くない?」
良いけど! 良くない!
そんなマジモンの深夜アニメのTシャツ。変身途中で肌色成分多めなデザインがデカデカとプリントしてあるのは、今居る場所的にアウトだ。下手したらセクハラで訴えられかねん。
「それのどこがTPOに合わせてるんだ? いやいい、答える前にマジでチャックを閉めろ。そいつを隠せ」
「しょうがないなぁ……温かくなってきたし、このへんで良い?」
「隠れるなら何でも……」
……おぉい!
何でバストのアンダーあたりで止まってんだよ。
何かお胸を強調するような感じになってるじゃん。それでいてキャラデザも隠れきれてないし。何ならあなたのおっぱいと合わさって余計に卑猥な雰囲気になってるじゃん。
「自分の見た目とスタイルの良さを理解しなさい。無駄に色気を振りまくな」
「仕方ないな。ボクの色気を独り占めしたいミカヅキのために、少し暑いけど我慢してあげよう」
別に独り占めにしたいとか思ってないし。
隣を歩かなくていいなら色気を振りまこうと、ガチなキャラTシャツを全力解放しようと構わないけど。
今回はそうじゃないから一応ありがとうとは言っておこう。
こいつの羞恥心いったいどうなってんの? まったく……
「それで? 今日はいったい何に付き合わされるんだ?」
「まずは漫画やラノベを物色。一段落したらアニメ映画見て、コラボカフェで食事。その後は漫画やラノベを再度チェックしつつ、フィギュアやプラモデルもあれこれ見たいよね。日が傾いてきたら同人誌も……」
うーん、素晴らしいくらいに二次元尽くし。
こういうのは今日が初めてじゃないけど。何なら天道学園に来る前は今の数倍は付き合わされていましたけども。
俺よりも姫島とやれば良くない?
だって姫島さんもオタクだし。オタクを出せる相手が少ないだけに多分今からやるようなことに憧れ持っていそうだし。
まあ俺が知らないだけで、すでに何度も付き合わされている可能性はありますが。
うちのチームは練習にメリハリをつける派なので。休日とかは最低限のことはするけど、割と自由な時間も多いですから。
「それはずいぶんと充実したオタ活ライフで。代表チームに決まった身としては他校の情報集めとかしたいんですが」
「それはまた今度。ボクがミカヅキを必要としてない時にね」
手伝う気がまったくなくて草。
「全国大会に出場、そして優勝。それはボクらが転校した理由だし、達成すべき目標だけどさ。ミカヅキにはちゃんと高校生らしい生活。青春も謳歌してもらわないと。じゃないと……君の高校生活をもらっちゃったボクは心苦しくなっちゃうよ」
凜華さんからスカウトを受けていたのはシオンだけ。
というわけではない。俺も普通にスカウトされたし、今より腕前が低かったとしてもシオンのお目付け役として招集されたことだろう。
何より天道学園に行くことを強く望んだのは、シオンではなく俺だ。
シオンはそれまでの生活に不満はなさそうであり、アドバトも趣味のひとつとして出来ればいい。その程度の雰囲気だった。
それを俺が断ち切ったのだ。
俺は、アドバトプレイヤーとしての財前シオンのファンだ。
誰よりも財前シオンが強いと思っているし、常人には理解も実現も出来ない動きは見ていて飽きない。ワクワクする。
だから俺はアドバトに真剣に打ち込む……本気で遊ぶシオンが見たかった。
「……俺は、お前に個人的な願望を叶えてもらっただけなんだがな」
シオンもそう思ってはいるのだろう。
しかし……
それと同時に俺が、自分のために本気でアドバトを遊ぶための環境を用意してくれた。お膳立てしてくれた。自分のために転校してまで。限りある高校生活の時間を自分にくれた。
そんな風にこいつは思っているのだろう。
多分……こんなだから俺達は。
お互いに何かを望むのに、お互いが大切だから。最後の最後までは踏み込めない。今の関係より先に行けないのは、おそらくそういうことなんだろう。
「何か言った? もしやボクの後姿に興奮。主に下半身。シオンの奴、良いケツしてるなあ~とか考えて思わず口に出たり?」
「んなわけあるか」
「結構自信あるんだけどな。形も張りも」
そんなこと考えていたわけではない、と言っただけで。
別にお前のケツが良いケツだってことは否定してねぇよ。良いケツしてるよ。
そのへんのグラビアアイドル見てもシオンの方が上じゃね? 良い身体してね? エロいもん持ってますわ。
そう思ってるくらいには、俺の性的要素はシオンという女に侵食されている。
「お前の中の俺はどうしてそんなに性的思考に溢れてるんだよ。公共の場で話すわけないだろ」
「え、でも……いや、うん、そうだね」
え、何その反応?
すごーく気になるんですけど。あのシオンさんが言い淀むあたり、すんごく気になってしまうんですけど!
……もしや……いやだがそんなわけ……でも、だけども。
うちの母親ってこいつと仲良いもんなぁ。それでいて……うちの母親は、俺より先に起きていることが多いし、俺の部屋をしれっと掃除することもある。
そういう意味では……朝の生理現象とか。自家発電的なこととか。知られている可能性があるということか。
うわぁ……萎える。自分の知らないところで知られている可能性があるのやべぇ。
「シオンさんらしくない反応やめてもらっていいですか? あなたは地雷と分かっていても、吟味したうえでそれを踏み抜くでしょ。なのにどうして今回はそれをしないの。逆に怖いんだけど。怒らないからちゃんと言葉にしなさい」
「君こそ普段なら絶対に言わないようなこと言ってるよ。大丈夫、今回のはボクの中の良心が運良く発動しただけというか。どうせ性的な話は、あとでボクが満足するまで付き合ってもらうだろうからここではいいかなって思っただけで」
「本当にそれだけか? お前、俺の知らないところでうちの母親と何かやってたりしないだろうな!」
「特に何もしてないよ。たまに一緒にご飯作ったり、たまにミカママの代わりにお弁当作ることになっていたり、定期的に一緒に君の服を買いに行ったり、そのときに小さくなったりして着れなくなった古着を部屋着としてもらっていたり、収集癖のない君の代わりに金髪巨乳キャラのフィギュアやグッズをしれっとミカママの許可の下、君の部屋に置いてる。それくらいしかしてないよ」
食事に関することは感謝しかないし、衣服に関してもありがとうだけども。
俺の古着がお前の部屋着になってることも気恥ずかしさみたいなものはあるけど、許容できる範囲だ。
でも最後のは違うよな。
というか、こいつが自分の部屋に置けないプラス俺への当てつけか何かで置いてると思っていたのに。うちの母親もグルだったのかよ。
今にして思えば、俺の買った漫画やラノベは捨てられそうになったりすることがあるのに。シオンが置いて行ったものは一度としてそんなことはなかった。
うちの母親、俺よりもシオンの味方じゃん。
そこまであれこれするなら今より格段に踏み込んで、俺とシオンの関係を進展させろよ。外堀から完全に埋めきって、俺達を諦めさせてくれよ。踏み込む以外の選択肢を消してくれ。
「ちなみに今日も君の部屋に置くためのブツを買う予定だ」
「おい」
「大丈夫、安心して。そのキャラ、ボクに結構似てるから。今期の作品は金髪キャラ多いんだけど。その中でもボクにかなり似ていると思うんだけどね」
「そういうことを気にしているのではなくて」
「でも実は、個人的にカガリんに似ているキャラも買いたいと思ってるんだよね。すっかりボクはカガリんに毒されてしまっている。うん、でも仕方がない。今回はそっちもミカヅキの部屋に置いてあげよう。浮気していいのはカガリんだけだよ」
いや自分の部屋に置けよ。
金髪キャラの中に黒髪キャラが1体だけ居ると浮くじゃん。異物にしか見えないじゃん。故に誰かに見られたら絶対に質問される。
この話がもしも姫島さんに入ったら……あー考えるだけで面倒臭い。
「あ、そういえば話は変わるんだけど」
「唐突だね。でも良いよ。さっきの話題続けてると頭痛くなりそうだし。何の話をしたいわけ?」
「今度アンジェがこっちに来るんだって」
アンジェ。フルネームはアンジェリカ・バレット。
海外在住のアドバトプレイヤーであり、高校卒業後はあちらのプロチームに所属することが決まっている実力者である。
そんな人物とどうして知り合いなのか。
それはアンジェリカも俺やシオンと同じで、親がアドバトに関わる仕事をしており、小学生の時から新要素のテストプレイに関わっていたからである。
故に俺もシオンと同じ時期から付き合いはあるわけだが、実力差もあってかシオンより親しい関係とは呼べない。シオンほど彼女とは連絡を取り合わない。おそらくだが、俺は多分シオンのおまけといった認識をされているのではなかろうか。
それでも近況報告とかはしてくれるあたり、一応友人の括りには入っているのだろう。シオンにメールするついでというか、おまけで教えてくれているだけかもしれないが。まあ友人と思っていた方が気楽でいい。
「まああっちは、確かプロ契約すると学生の大会とかには出れないはずだしな。空いた時間を埋めるというか、有効活用する意味では良いんじゃないか」
本人の素質もあるのだろうが、子供の頃からシオンと話していたせいか、アンジェリカはかなりのオタクだ。下手をすれば、俺よりも日本のゲームや漫画に詳しいかもしれない。
「時間が合えば、今日みたいなオタ活を一緒にすればいい。アドバトもラグなしのガチファイトしたりな」
「時間が合わなくてもアドバトに関しては、そのうち絶対に戦うことになるだろうけどね」
「何故に?」
「え? だってアンジェ、日本の学校に通うらしいし。あっちじゃ大会とか出れないから」
……こっちに来るってそういう意味!?
ってことはですよ。全国制覇するためには、プロレベルであるアンジェリカを倒さないといけないってこと?
「……シオンさん、対アンジェリカ戦の勝率は?」
「テストプレイでは50パーセントくらい? ラグなしのガチファイトはそんなにやったことないから未知数かな」
描いていた未来予想図が崩れる音がした。
日本のバカ。アドバト先進国だからって簡単に海外勢を受け入れやがって。せめて卒業後にプロになることが決まっている人間は締め出すべきだろ。
一難去ってまた一難。どうやら俺の高校生活は、壁にしかぶつからないらしい。
なんて考えていたらシオンさんが肩に手を乗せてきた。
「大丈夫だよミカヅキ。君のためにボクは勝つから」
今しがた勝てるかどうかは半々。やってみないことには分からない。
そう言ったはずなのに……
何でこいつは、こんなにも自信満々な笑顔ができるんだろうな。
だが不思議と落ち込んでいた心は上を向いた。
相手が誰だろうと俺がやることは変わらない。勝つために全力を尽くす。シオンを信じる。ただそれだけだ。




