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第20話 「早々に退部なさい」

 指定された戦場は荒野。

 一部の上空エリアでは、舞い上がった砂によって視界障害が生じる。また地上は巨大な障壁となるものはないものが、浸食された岩肌が点線の障害物として機能する戦場だ。

 戦場が決まってから15分後。

 それぞれコクピットマシンにデバイスをセット。コストなどの問題がないことの確認が終了し、試合開始までのカウントダウンがスタートしている。


「うぅ……う……緊張で」


 シオンがいない状態での初めての試合。

 練習こそしていたもののこの場の誰よりも経験が不足しているエータは、見るからに顔色が悪くなっている。


「今そこで吐いたら才川先生からの説教」

「ひぃぃぃ嫌です嫌です嫌です! ミカヅキ先輩、わたしの未来のためにも緊張をほぐす言葉をください」

「試合開始前のミーティングどおりにやれ」

「それを実行するための言葉を欲してるんですが!?」


 あたふたしているようだが、ドモらずに喋れているあたりパニックを起こしたりはしないだろう。


「細かい部分は水上がフォローしてくれる。仮にミスしたとしても俺と姫島でどうにかしてやる。お前は自分のことだけ考えてろ」

「ありがとうございます。でももう少し頼りにしてる要素も欲しいです」

「そのへんは水上かレオに頼め。これ以上何か言うなら罵るぞ」

「それはもうプレッシャーとかではなく悪口では!?」


 これだけ元気があれば大丈夫だな。

 水上が表情に乏しいのはいつもどおりだし、炭酸飲料をがぶ飲みしているのも見慣れた光景だ。

 騒ぎ出したエータの相手は、レオのオネェさまに任せるとして。


「何か?」

「いや別に。お前に対しては何も心配してない」

「それはそれでどうかと。今回は共に戦場を駆けるのです。リーダーとして鼓舞のひとつでもあっても良いのでは?」


 言っていることは間違っていない。

 が、普段の姫島はこんなことを言ってくる奴だっただろうか。

 もしやテンションが上がっていらっしゃる?

 それともこれまでの交流によって姫島の素が表面化してきたのだろうか。

 まあ悪い気はしないし、ここは乗ってやることにしよう。


「アクション的にも時間管理でも最もシビアな動きをさせるわけだが……お前なら出来ると信じてる。やってみせてくれ」

「仰せのままに」


 残りカウントは3秒。

 ゼロになればそこからノンストップ。蓄積したデータ、それを分析してはじき出した確率、それに基づく戦術。

 俺の予定通りに事が運ぶならば、これまで以上のハイスピードで試合は終わりを迎えることになる。

 だが一番槍を務める俺がしくじれば、戦術は瓦解し敗北へ一直線。

 俺はシオンじゃない。天賦の才能なんて持っていない。ただの凡人。どう足掻いても秀才止まりだ。だとしても……


「――やってみせるさッ!」


 開幕と同時に俺達は全速力で別方向に進み始める。

 俺は直線的に敵チームへ。姫島は左翼から地上すれすれを飛行しながら回り込む形で敵チームとの距離を詰める。エータは後方から援護できるようプランに従って狙撃地点へ移動する形だ。

 伊集院率いる敵チームは、総合力に優れて表面的には弱点はない。機体選びも総合力を重視して、コストは均等かつ装備も天道学園の標準仕様。

 ただ姫島がリーダーとして率いていた前のチームと比較した場合、思考や行動パターンは臨機応変に対応するというよりも保守的。堅実的な戦い方を好む。故に開幕と同時に単独行動を取る者はいない。


『敵機、高速でこちらに接近!』

『数は?』

『1機です』

『は? 1機だあ?』


 まだ距離はあるが、敵チーム全機を補足。あちらもこちらを補足していることだろう。

 ただ相手の予想は、十中八九外れている。

 あちらの予想としては、シオンが不在のこちらのチームは俺と姫島が引っ張ると考えるはずだ。それもシオンの金魚のフンとでも思われているであろう俺は、エースである姫島を補佐する存在だと決めつけられる形で。

 であれば、この状況はあちらとしては……伊集院以外の悪い意味でプライドの高いふたりには堪え難いシチュエーションだろう。


『しかもあの機体……姫島じゃなくて遠野じゃねぇか!』

『エース様のすねかじりの分際で単機突撃とか舐めてるだろ』

『ムキになってはダメだ。彼だって十分な能力は持っている。油断すると痛い目に』

『分かってるっての!』

『だとしても舐めたことする奴を咎めないとね』


 敵は互いのカバーができる距離を保ちつつ、シールドを前面に構えながら射撃体勢。多少の被弾を覚悟で俺を確実に迎撃する構えのようだ。

 その作戦自体は悪いわけではない。

 俺だって逆の立場であれば、実力者として知られるプレイヤーが相手でもない限り、単機突撃の敵は落としておこうと考える。

 だが前もって敵の行動を予測し、それに合わせて機体や作戦を調整しておけば。シオンのような実力がなくとも盤面を動かすことは可能だ。

 高速機動を保ちつつ、右手に装備している《ハイエナジーライフル・ロングバレル》を構える。これはトロンべの専用武装であるハイエナジーライフルのカスタム仕様。通常仕様よりも射程が長く、精密な射撃が行える武器だ。


「――ッ!」


 トリガーを引くのと同時に高エネルギー弾を撃ち出した反動に襲われる。

 だがここで手を緩ませるわけにはいかない。

 敵よりも射程が長いことを活かしての先制攻撃。敵に撃ち返される前に効果的な射撃が出来なければ、こちらの状況は一気に劣勢となり、そう長くない時間で撃墜されてしまうだろう。

 伊集院には牽制程度。本命は僚機である在田と小林。

 シオンを侮辱したザココンビには、徹底的に自分が無力だと思える負け方をしてもらう。それが俺なりの報復であり、チームに対して要求し、また求められた結果だ。


『うぉおッ!? さすがに射程があっちが……どぉあ!?』

『あの高機動でここまでの精密射撃。並みの腕じゃない』

『冷静に評価してる場合じゃ――ヒぃ!?』


 ザココンビの体勢が崩れつつある。

 ダメ押しを行うため、素早くライフルのマガジンを交換。左腕に装備していたシールドをパージし、予備として携行していたライフルを左手に装備する。

 反動の大きい武装なだけに片腕で撃つと制御が難しく、また駆動系などへの負担も大きくなるのだが。ここが俺にとっての正念場。仕事を全う出来ればそれでいい。


『に、二丁持ちだあ!? あの野郎ふざけてんのか。高威力ライフルでそんな芸当出来るわけねぇだろ』

『それはあとでバカ程煽ればいい。このチャンスを』


 照準。ロック。発射。

 やることは至ってシンプル。それを両手の銃で行うだけ。

 馬鹿げた反動が機体を揺らそうが、的の動きはシンプル。反動だって前もって計算しておけば、処理できないものじゃない。

 そもそも、この程度の芸当が出来ないならシオンという天才に黒星を付けるなんて不可能。これ以上の成長はないとしても、ここまで培ってきたものは伊達じゃない。


『おいもっと弾幕張れって! 撃ち返さなきゃ一方的に――うわあぁッ!?』

『在田ッ!』

『片腕が吹き飛んだだけだ。まだ落とされちゃいない。今は彼のことより目の前のことに』

『分かってるよ! んなことは!』


 第一段階はクリア。

 作戦は第二段階に移行し、ターゲットが2機になった分、伊集院への射撃も必然的に増加する。

 小林は冷静さを欠きつつあるのか、機体の挙動も射撃も荒さが目立つ。

 だが伊集院の方には、そういったものは見られず、的確な回避と射撃を繰り返している。

 さすがは俺とシオンを除いたクラス試験で、姫島の次に良かっただけはある。

 俺達が転校してこなかったなら姫島の右腕を務めていただろう。

 とはいえ、うちに来る前の姫島以下の実力。シオンの足元には及ばず、今の姫島より遥かに劣る。

 現状で俺に有効打を与えられないということは、タイマンになったら勝つことは難しい。その事実を証明してしまっている。


『伊集院、もっとちゃんと狙えって!』

『やってる! そっちこそ口ばかり動かしてないで、もっと的確に敵を狙うべきだ。適当に撃って当たる敵じゃない』

『どこの誰が適当だって!』


 ケンカでもしているのか、敵の注意が俺から薄れた気配がした。

 マガジン内の弾薬は残りわずか。今の距離で2機を相手にリロードしている暇はない。なら……!

 左手のライフルを先に撃ち切り、伊集院の機体へ向かって投擲。

 それに対して高エネルギー弾を撃ち込み爆発させる。その爆発を煙幕にしつつ、残った弾を伊集院の牽制に使い、ラストは小林への直撃コースで放つ。


『伊集院ッ!』

『大丈夫、問題ない。そっちは?』

『こっちも――のぉわ!? あっぶね……え』


 敵機の意識がこちらへ完全に戻る。

 が、すでに遅い。

 シールドで防御態勢を取ろうとする素振りを見せるが、それを右後ろ回し蹴りで崩す。その勢いのまま、左手で抜いていたレーザーブレードを振り抜き、ライフルを持っていた右腕を切断。やや上昇しつつ角度を付け、下に落とすように腹部を蹴り飛ばす。


『うわあぁぁああぁぁ……!?』

『小林くん!』

『慌てるな伊集院!』


 ロックオンを知らせる警告音。

 先ほど高エネルギー弾を受けて落下した在田が、体勢を立て直してきたようだ。

 現状の俺は、在田に対して背中を見せている形になる。

 このまま射撃されれば、回避できたとしても俺は体勢を大きく崩すことになるだろう。しかし……


『へへ……こいつで』

「終わりです」

『はい……?』


 爆発音が響いた。

 残骸を巻き散らし、徐々に姿を消していく煙を突き破って現れる機体。

 ブースターを大型化し、これまで以上の高い機動性を獲得したオルトロス。そのハイスピードカスタムだ。専用武装の《ツインエッジ・ライフル》の実体刃を、より大きなサイズに変更し、近接攻撃力も高めている。

 そういう意味では、姫島カスタムと表現する方が正しいかもしれない。

 ザココンビとの一件がなければ、ここで姫島のスピード狂い。変態性とも言えるかもしれないことを説明したいところだが……


「次に行きます」


 お姫様は俺の提示したプランを忠実かつ迅速に実行しようとしている。

 ならそのプランの発案者であり、リーダーである俺が怠けるわけにはいかない。

 体勢を立て直しつつある小林の機体に向かう姫路。その邪魔をさせないために俺は伊集院へ移動を開始する。

 リロードして……ダメだ。すでに伊集院は姫島へ攻撃の意思を持っている。

 故にリロードしていたらカバーが間に合うか博打になってしまう。そうならないためには素早い攻撃が必要だ。

 ハイエナジーライフルをウェポンラックに収納。右手にもレーザーブレードを装備し、伊集院の気を引くように直線気味に突撃していく。


「相手してもらうぞ伊集院!」

『動き出しが早い。遠野くん、本当に君は良いプレイヤーだ。だが負けるわけにはいかない!』


 後退しながら的確な射撃。

 機体制御や射撃の精度には、十分な努力が窺える。

 だが全てにおいて読み通り。教科書のようなお手本に忠実な動きは、まさにこれまでの天道学園のアドバトを具現化した動きだ。

 基礎は大切だ。お手本と呼べる動きだって必要なことだってある。

 しかし、対人戦においてはそれだけでは不十分。時としてフェイントや誘導、相手の心理の予測、常識から外れた行動。その他諸々が必要となる。

 完璧な基礎と予想だにしない行動。常にそれを合わせて繰り出してくるシオンの傍で過ごした俺には、お前みたいなただの優等生は物足りない。


『くっ……強い。これほどの強さを持ちながらどうして君は』

『伊集院ッ! ごちゃごちゃ言ってないで集中しろ。今カバーに行っ』

「させません!」


 再び爆音が戦場に鳴り響く。

 姫島が小林を一閃で墜としたのだろう。

 残るは伊集院のみ。数は圧倒的にこちらが有利。状況的に万が一も起こり得ない。戦意をなくして棄権したとしても誰も文句は言わないだろう。


『残るは僕だけか……だが、まだ!』


 ブレードを抜き放ち、こちらに向かってくる敵機の姿からして、どうやら伊集院の心は折れていないらしい。

 出会い方が違っていたならば。こいつと共に歩む道のあったのかもしれない。

 だが……現実は違う。俺の描くチームに、俺の作ろうとするチームはこいつは必要ない。

 高機動で斬り結ぶ俺達。

 最初こそ拮抗していたかに見えたそれも徐々にこちらの優勢に傾いていく。

 単純に俺と伊集院との間に力量差があるのも理由だが、伊集院は優等生であるが故に姫島の存在を無視できない。頭の中が俺と姫島のことで溢れていく。

 それはつまり……


「――今……です!」


 伏兵の存在に。我がチームの狙撃手に意識が回らないことを意味する。

 宙を駆け抜ける一筋の光。それは的確に敵機の胸部を射抜いてみせた。

 敵機には爆散する未来しかなく、それが起こるのと同時に試合終了を知らせるアナウンスが鳴り響く。


「やりました、やりましたね先輩達! わたし達の勝ちですよ!」


 あのエータがピョンピョン飛び跳ねるように喜ぶのは珍しい。

 まあこれまではシオンが大半の敵を倒していたわけだし、シオンがいない状態でも勝てるってことが分かって嬉しいんだろうな。


「お疲れ様です」

「ああ。お疲れ」

「ご期待には添えましたか?」

「十分すぎるほどに」


 エータと比べれば姫島は落ち着いている。

 が、それでもシオンがいない状態での勝利。それは姫島の中でも意味があるものだったのだろう。普段と比べると声色には喜びの感情が乗っている。


「みんなお疲れ~! もう最高の試合だったわ。お姉さんテンション爆上がりよ~ん。うちのチーム最強過ぎるわ! キョウコちゃんもそう思うわよね!」

「近い。圧が凄い。鬱陶しい」

「もう、そんなこと言って。今は勝利の喜びを噛みしめるべきよ♡」

「遠野……ヘルプ」


 遠慮しておきます。

 俺が今のあなたのように絡まれると、あなたが受けている数倍の力でスキンシップされちゃうから。それは非常に物理的に危険です。同情はしますが耐えてください。


「今のはノーカンだ!」


 雰囲気を壊す無粋な怒声。

 高い確率でこうなるとは予想していたが、本当に強豪校のアドバトプレイヤーとしては終わっている。


「そうです! 今のは偶々、そう偶々なのです!」

「おい君達、やめないか! 僕達は」

「うるせぇ! あんなの納得できるかよ。バカみたいに突撃して、それが偶々刺さって、オレ達に迎撃されなかっただけで。一か八かの作戦で勝てただけで、こいつらの方が強いって認められるかよ!」


 ゲームの腕前だけで、人間性が育っていないクソ野郎共だな。

 持つ必要がない。カッコ悪さしかないプライドしか持ち合わせていない。

 一方的な試合運びだったこともあってか、リーダーである伊集院に対しても配慮がない。流れ次第では伊集院に対しても敵意を持った言動を取り始めるだろう。

 本来はそれでも伊集院がリーダーとして場を治めるのが正しくはある。が、今の伊集院にそれを期待するのは無理なことだろう。

 とはいえ、俺がやろうとしても火に油。余計にクソ野郎共の感情が爆発するだけだろう。

 才川先生、さすがにこの場はあなたの手で……


「耳障りですね」


 静かな怒りが感じられた。

 姫島から発せられる冷たい覇気にチームメイトは道を譲る。


「在田くん、小林くん。大人しく負けを認め、引き下がりなさい」

「ざけんな。あんな運ゲー挑んで、勝ったからって調子乗んなよ」

「そうです。突撃する機体が落とされれば破綻。部長が数秒でも遅れても破綻。そんなデタラメな作戦は作戦ではない。いつから天下の天道学園アドバト部の長は、あんな運ゲーをするようになったのですか」

「もしかしてあれか? 部長はあいつに惚れたのか!」


 あいつ? 俺のことですか?

 やめてよ。ここで話に巻き込むの。

 というか、何でアドバトに関係ない話題が出てくるの。それも姫島のプライベートに関わる内容の。ザココンビは死にたいのだろうか?


「そうなんだろ。まあ部長は女だし、何より大和撫子だもんな。惚れた男には尽くすよな。両手に大量に張られた絆創膏も遠野にあれこれ尽くしてるからって噂だもんな」

「何でも完璧そうに見えて料理も裁縫も頑張っている。いや~部長は乙女ですね」


 これはもう黙っていることは出来そうにない。

 姫島の手がボロボロなのは、チーム加入してから誰よりも熱心に練習に取り組んできたからだ。部長の責務がある中、俺に追いつくため。シオンという絶対的エースに並び立つため。1秒も無駄にせず努力してきた証だ。

 それをバカにすることを俺は許せない。

 たとえ火に油を注ぐことになったとしても、俺が最後まで相手をする。

 そうすべきだと思い動き出そうとした矢先――

 姫島がいつの間にか手にしていた紙の束をザココンビに投げつけた。

 勢い良く投げつけられた紙の束は、直撃した衝撃で無数に宙を舞いながら地面へ落ちていく。


「な……何しやがる!」

「物を投げつけるとは何様ですか」

「黙りなさいクソ虫共」


 場が凍った。

 姫島が放つ圧倒的な冷たい怒気。女帝の威圧によって、頭に血が昇っていたザココンビも後退り、表情に恐怖の色が現れている。


「仮に私が遠野くんにそういう感情を抱いていたとして。それが理由で考えや価値観が変わったとして。何か問題があるのですか?」

「も、問題って……お前はここの部長だろ」

「そそそうです。部長なら部員の模範になるべきではありませんか」

「だからなっているではないですか」


 姫島の視線が一瞬だけこちらを向く。


「……総合的な強さを妄信し、更なる強さを模索せず、並より上の力で満足して停滞してしまう。そんな悪しきものが伝統になりつつある天道学園のアドバトを変えるため、私は私を強くするために日々努力しています」


 姫島はゆっくりとザココンビへと近づき、怯えるふたりの様子を気にした素振りも見せず、半ば強引にふたりの手を取った。


「……ずいぶんと綺麗な手ですね」


 姫島の嘲笑は、的確にザココンビの心を抉ったのだろう。

 ザココンビの青ざめていた顔が急に真っ赤に染まり、姫島の手を振り払った。


「ば、バカみたいに練習すればいいってわけじゃねぇだろ!」

「そ……そうです。練習というのは、いかに効率良く成果を上げられるか。それが大事なんです!」

「現状維持の練習でいったい何の意味があるのですか? 部の代表チームを決める戦いに。全国大会優勝を目指して日々取り組む私達に、その程度の心意気で勝てると本気で思っていたのですか?」


 我慢の限界が来たのか、ザココンビの手が姫島に伸びる。

 このままでは暴力沙汰になりかねない。そう思ってザココンビを止めようと俺を含め、周りが動き始めた直後――


「――はあッ!」


 姫島から気合が放たれたと思ったらザココンビは床に転がっていた。

 前に護身術を習っていると言っていた気がするが……これほどとは。今後は迂闊に姫島に対して挑発じみた言動はやめるべきかもしれない。


「口で勝てないから力尽くとは……恥を知りなさい、このクソ虫。そして、這いつくばったついでに散らばっている資料に目を通すことですね」


 何をぶん投げたのかと思いきや……よく見たらアレ。

 俺が試合前にチームメンバーに送った対戦相手のデータじゃん。あの量からして傾向から対策、何なら今日の作戦プランまで全部印刷されてるな。

 試合前にどっか行っていたのは知っていたけども……もしやこうなることを見越して印刷しに行ったのだろうか。そうだとしたら姫島さん怖っ……


「それらにはあなた方個々人のステータス、得意武器や得意なスタイル。シチュエーション事に算出された行動パターン、特定状況下では高い確率で出ている癖とも呼べる行動、チームとしての評価から戦術、相手の行動に対しての思考予測等々……この約1ヶ月で我らがリーダーが調べ上げたあなた方に関する情報が網羅されています。先ほど偶々だの、運が良かっただの、喚いていましたが……これだけの情報を元に立てられた作戦に運要素があるとでも?」


 怖い怖い怖い。

 相手を見下しながら饒舌に語る姫島さんマジで怖すぎ。


「あなた方がリスクとしか思えない作戦を実行できる力が私達にはある。明確な目標を持って、チーム全員がそれぞれの役割をこなすため、日々努力している。上には媚びへつらい、下には我が物顔を利かせる。自身の気に入らない者、事柄に対しては文句や言い訳、聞くのも堪えない悪口ばかり。あなた方のような人間性が未熟なクソ虫共は、我が部にとって汚点にしかなりません。早々に退部なさい」


 部長に退部を決める権限まであるとは思えないが。

 ザココンビの醜態は、顧問である才川先生も目にしている。俺達を倒す実力があったならば、全国大会で優勝するためにも多少のことには目を瞑るつもりだったのかもしれない。

 ぶっちゃけ……シオンの件に関しては、あいつが最初に余計なことを言って敵を作ったのが悪いとも言えるし。


「……これにて本日の争奪戦は終了とする。遠野達は練習するなり、反省会をするなり自由にしろ。伊集院は今後のことを考えておけ。以上だ。解散」


 ザココンビの名前が出なかったあたり……そういうことなのだろう。

 正直な話、あのクソ野郎共がどうなろうと知ったことではない。

 とにかく、シオンの不在中の戦いに勝てて良かった。

 これで全チームと一度は勝負し、勝利したことになる。名実ともに現段階では最強のチームと言えるだろう。

 データで考えれば、他のチームが挑んできても負ける道理はない。

 全国大会での優勝までの道のりはまだまだ長いが、とりあえず直近での肩に乗っていた荷は下ろせたな。




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