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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
閑話

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閑話 わがまま義妹ルチルの、お母様譲りの嫌がらせ作戦!


 ラファエルの婚約者に、わたしはなる!


 と言うか、その既定路線の下準備として他所(よそ)の公爵家の子に成ったわけなのだけれど……。


「まあ、品の無い毳々(けばけば)しい色の糸屑がこんな所に固まってますわっ! お前たち、ちゃんと掃除をしていないの——あら、失礼。まさかルチルさんに繋がってるなんて!」


 わたしの赤い髪を指差し、オホホと笑う口元を扇で隠すのは、この屋敷の正当なるお嬢様。わたしの新しい義姉(ぎし)だ。


 あと半月後に行われる婚約式に向けて、絶賛お勉強中のわたしを見付けては、彼女は悪役義妹ルチルであるわたしへの嫌がらせに邁進して来る。

 一体どんな因果応報よ。


 まぁ、ルチルのお母様が放つ手の込んだ中途半端に過ぎる嫌がらせに比べたら、本当に捻りのない素直な悪巫山戯(わるふざけ)でしかないんどけど。


 傍若無人腹黒天使の婚約者になるのに、やられっぱなしなのは良くないよね?


 なのでわたしは、受けて立つことにした。お母様直伝の超本格的かつ中途半端に過ぎる嫌がらせを携えて——!




 ◇◇◇




『なんで木苺ジャムのアイスが嫌がらせになるにょ?』


 キノちゃんが小首を傾げる。

 質問を向けられる相手は、キノちゃんの能力で、キンキンに冷えた金属ボウルに入ったアイスの素を、小一時間ぐるぐるかき混ぜ続けるわたしだ。


「ふふふふっ、よくぞ聞いてくれたわ!」


 悪役義妹らしく不敵に嗤いつつ、それでも掻き混ぜる手は留めない。コレ大事。


「この世界の人間は、アイスの存在をまだ知らないのよ!」

『そうにょね。ぱわぱわ乙女が作ってキンキラたちと食べたアイスは、わっちも久々で美味しかったにょ』

「でしょ? 何百年も存在するキノちゃんたち精霊さんがそうなんだもの、人なら知ってる訳がないのよ。

 アイスを知らないってことは、よ? 甘さとクリーミーさで虜にする癖に、キンキン冷え冷えの歯根と頭を直撃する痛恨の攻撃威力をまだ知らないってこと!!」

『ぱわぱわ乙女の言う嫌がらせが、やっと分かったにょ……。わっちは美味しい木苺ジャムのアイスが食べられるから、手伝うにょ』


 何処となくノホホン顔に呆れが混じるのは気の所為か。


 とにかく、わたしは最高の美味しさで虜にして、最凶の一撃を放つ木苺アイスを作るのよ!

 悪役義妹ルチルの名にかけて!!




 ◇◇◇






キィ……ン





 空になった銀の器に、整えることなく落とされた匙が、甲高い音を放ってぶつかる。


「ふ……ぐぅっ!! 何ですのっ、コレはっ!?」


 着飾った義姉が、令嬢にあるまじき叫びを上げ、顔を歪めて蹲った。


 ふふ、やったわ。

 悪役義妹ルチルの完全勝利よ!


「お嬢様っ! お気を確かにっ」


 古くから彼女に仕える侍女頭が、義姉に駆け寄る。


「私としたことが、相手の攻撃力を見誤るなんて。くっ……油断したわ。私の完全敗北ね……」


 侍女頭の手を借りて、ようやく起こされた義姉(てき)の顔は、受けた衝撃のせいで酷く歪んでいる。


 それでいて、頬は薔薇色に染まり、清涼感に満ちた笑みが浮かんでいて——んん?

 わたしはコテリと小首を傾げる。


 ちょっと思ったのと反応が違うけど、悪役義妹らしく、ここは仕上げの攻撃を放つことにするわ!


「コレで、わたしと云う存在がどんなものか分かったでしょう? わたしは我儘に最善を追求する、運命を切り拓く存在! 悪役ぎま……っ」


 居丈高に悪役キャラの名乗りを上げようとしたわたしに、まさかの義姉のタックルが胸に決まって、声が詰まった。


 くっ、まさかココで公爵令嬢でしか無い義姉が、肉弾戦に及ぶなんて!!


 思い掛けない戦法に、久しぶりに感じる悪役義妹ルチルへの破滅に結び付く運命の矯正力が頭を過って、血の気が引く。



「素晴らしいわっ、ルチルさんっ! いいえ、私の大切な義妹、可愛いルチルちゃんっ!!」


 は? 何を仰る?


「辛くしか当たらなかった私に、こんな心尽くしの贈り物が出来るなんて……!

 私、この『あいす』の衝撃で、自分の小ささを思い知らされましたわ! さすが第二王子の婚約者に選ばれるだけある寛大さと、聡明さと、行動力に満ちた素敵な子!! 貴女が私の義妹なんて、こんな嬉しいことに、今まで気付いていなかったなんて……!

 本当に、今までごめんなさいっ!!」


 木苺ジャムよりも鮮やかに染まった頬に、アイスよりも清々しい笑顔を浮かべた義姉。


 なんだろう、こんな結末想定外過ぎる。


 呆然とするわたしだったけど、見守っていたキノちゃんは『そうだと思ったにょ』と、満足げに頷いている。


 想定した筋書き通りにいかない人生。

 予想外ばっかりのルチルの前途。




「やっぱりルチルは面白い」




 誰かさんが、勇者の目に太陽の紋章を光らせて、満足げに呟く声が聞こえた気がした。


 精一杯頑張った結果が面白いのなら、その結果は誇らしく受け入れよう。

 だってそれが、わたしの切り拓いた筋書きどおりでない結果なんだもの。


 沢山の「面白い」を巻き起こすため——


 わたしはこれから先も、わがまま義妹ルチルの人生を、我儘いっぱいに突き進むのよ!











 閑話 わがまま義妹ルチルの、お母様譲りの嫌がらせ作戦!

 ― 完 ―

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